第4話 帰宅、そして父との対面

「ただいま」


流石に靴無しで歩くには苦労し、結局のところ20分掛かって家に到着した。


「お帰り、心配したんだよ」


と、母は温かく出迎えてくれた。


「……」


僕はと言えば、少し泣きべそを掻きながら、流れで台所まで向かって行った。


「……」


すると、そこには父が腰掛けていた。母が台所の扉を閉める。


「お帰り」


と、父は端的に言った。


「……ただいま」


僕も、反射的に返した。


空気がヒリヒリとしているのが分かった。


「何処行ってたんだ?」


と、父は質問して来る。


すると母が、


「お父さん、車で見に行ってたんだよ」


と、僕に耳打ちしてきた。僕は申し訳ない気持ちになり、


「ごめんなさい。僕も分からなくなっちゃって……」


「何だそれ」


と、父はため息を深く吐きながら、


「まぁ、俺も言い過ぎた」


あんなにも厳格で、堅物な父が、反省の言葉を発したのだ。


「ただ、お前がだらけ切っていたのも事実だ。お前が大変だってのも分かるが、もう少し緊張感を持って過ごせ。それだけだ」


とだけ言って、寝室へと消えていった。


「……」


僕は、立ち尽くしていた。すると、


「お父さん、ああいう人だから」


と、僕に再び耳打ちした。


それは、話し合いとは到底言えない、ただの言葉の言い合いにも満たない物だった。


僕も僕だが、父も大概だと、この時感じたのだった。


「もうすっかり身体も冷えちゃって……早くもう一回お風呂に入りな」


母は僕の頬を両手で包み込みながら、そんな事を言った。それだけで、再び僕の頬に熱いものが滴った。


「大丈夫、大丈夫だから」


母は僕を抱き抱えると、僕の背中をゆっくりとさすったのだった。




風呂から上がり、再び寝間着を羽織った。


冷えた身体はすっかり温まり、このまま寝るのが心地よいと思える程に、リラックスできていた。


しかし、先程の騒動、父の言動を思い出し、


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


と、僕は押さえていた衝動を、声を発することで発散しようとしていた。思えば、これがこの症状の始まりであった。


(……このままじゃダメだな、僕は。色々とダメになってしまう)


そう思いつつ、習慣的に飲んでいた睡眠導入剤を口に含み、それを水で流し込んだ。


そして今日は深く眠れますように、と願いながら、静かに床に就いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る