姉:7月

「あ……あの……」

「ん?」

 相談役の秘書になる事が決った時は「齢で時代の変化に追い付けてない方なので……セクハラ・パワハラめいた事を言ってしまうかも知れない」とは聞かされていたが……思っていた程は酷くない。

「恋人は居るのか?」

「結婚する気は有るのか?」

「なんなら、私がいい人を紹介してあげてもいいぞ」

 その程度だった。

 私の世代からすれば非常識だが、相談役の世代の人としては……マシな方だろう。

 だが……この日は……何かがおかしかった……。

「どうした? 具合でも悪いのかね?」

「そ……そうではなくて……」

「でも……顔が真っ赤で、汗もかなり……」

「その……ただ……」

「ただ……何かね? 誰か呼んだ方が良いかね? それとも……今日は休む……」

「いえ……その……部屋に冷房を入れてもよろしいでしょうか?」

「あ……ああ……すまない気付かなくて……」

 私も、もっと早く気付くべきだった。

 部屋の片隅のコートかけには……コートとマフラーがかけてあった。

 今日は、朝から三十度近い気温だったにも関わらず……。

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