過去の失敗は、未来でやり直せますか?

夢田雄記

第1話 始まり_____絶望

 2018年 3月 


 合格発表の日。雨の中、悠之亮は母と高校に行った。張り出しは9時から、学校に着いたのは9:10分だった。学校に着くと、正門を少し歩いた所で沢山の傘が揺らめいている。そこに番号が張り出されているのはすぐに分かった。悠之亮は一人で番号を見に行った。張り紙の前は受験生がごった返しになっている。悠之亮は自分の受験番号8371を「ヤミナイ(闇無い)」と読んで覚えていた。張り紙の所に向かい、自分の受験番号8371を探す間、終始不安に狩られていた。番号があるかと言うのは当たり前だ、しかも塾からは「綱渡りの受験になる」と言われていた。そして周りの環境からも、不安を煽られていた。空は灰色、天気は雨。やや強く降っている。しかも午後からさらに強くなると言う予報だ。それに加え、張り紙に向かう道中、正門にいた時より、そのまま帰る人と、多くすれ違った。ところで、張り紙に番号があり合格した場合、奥に進み、入学用書類を受け取れるのだが、番号が無ければ、そのまま帰ると言う非常に分かりやすいシステムだった。8350番の所まで行くと、周りの傘が悠之亮の視界を遮る事が多くなった。傘同士がぶつかり、メガネにも水滴がついて視界が悪くなる。まるで神様が落ちているのを隠すようにしているとすら感じた。自分の番号に近づき、数字が大きくなる程、鼓動が大きくなっていった。8361、8363……鼓動が周りにも聞こえているのではないかと言う程鳴っていた。そして番号を数え近づく程、鼓動は速くなっていく。8369、8370、そして悠之亮の中で時が止まった。あったのだ。8371という数字が。

「……あった……やった、受かった……!」

 静かにそう言うと、悠之亮は安心と喜びが心の中で混ざり、笑顔で立ち尽くした。雨は止んで、雲の隙間から、光が刺している。光は、神様が合格を祝うかの様に張り紙を照らした。はっとして、おもむろにケータイをポケットから取りだすとカメラで自分の受験番号を記念に撮った。その写真に映る自分の番号は、希望の光に満ちていた。周りを見ると、色んな人がいた。合格して「あった!」と叫び友達と喜んでいる人、「受かった」「よかった」と泣いている人。また、落ちて泣いている人や、そのまま帰る人、友達に「おめでとう」「頑張ってね」と落ちても尚、相手を祝ったり、エールを送る人もいた。そして、入学用書類を受け取りに奥に進んだ。

「合格おめでとう。入学おめでとう。」

「ありがとうございます!」

「入学者用書類等在中」と記された封筒を、祝いの言葉と共に渡され、悠之亮は、笑顔で答え受け取った。歩きながら中を開けると、封筒には入学手続き関係の書類と、国数英の事前準備教材が入っていた。三冊とも薄い教材、そして数枚のA4の紙だけなのに、とても重く感じた。そして、駆け足で母の元に封筒を掲げ、合格を報告した。

「おめでとう!よく頑張ったね!高校でも頑張ってね!」

 そう言って喜び、祝ってくれた。帰り道、電話で父や海外にいる姉に合格を知らせた。


 雨が止み、雲の隙間から光がさしていたはずの空が消えた。雲が光を遮り、再び雨が降り始めた。今度の雨雲は、先程とは打って変わって黒く染まった雷雲。ゴロゴロと音を立てて、激しい豪雨となった。


 ____彼の絶望は、ここから始まった____。

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