第2話 招かれ、神皇国へ
「さっっっむ!!!」
「……」
「そふかさんや、無言で追い剥ぎしようとするの止めていただきます?」
''追放者の村''のさらに北に位置する神皇国は、当然ながら恐ろしく寒い。
冷え性であるそふかはかなり着込んでいるものの、まだ足りないようだ。<実体化>している八宝菜のマフラーを強奪しようとしている。
空を飛べばすぐに到着すると思っていたが、生憎の豪雪で視界が不明瞭だ。流石にそれでも飛ぼうと思えるほど、そふかは短慮ではない。
さらには、どこに神皇国の監視の目があるか分からないため、不用意に人外ムーブはできないのだ。……最も、後者は八宝菜を道連れにするためにそふかが考えた理由だが。
「ねぇ、わたしだけでも幽体になっちゃ駄目?」
「駄目」
「駄目かぁ……」
先ほどまでふよふよと浮いていた八宝菜。そふかに「お前だけズルい」と言われ、マフラーといつもの服装のみで雪の積もる道とも言えない道を歩いている。幽体では寒さを感じないため、碌に準備していなかった。そして、そのなけなしのマフラーもそふかに剥ぎ取られようとしている。
「てか、そふかも
「は???」
「あ、でもアンデッドだから駄目かな」
「……レイスにそんな能力はないはずだよ」
「うんまぁ、レイスに“は”ないよ」
「いや、待て。もしかして……“眷属”のことか?」
「察しが良くて助かる~!好き」
そう言ってそふかに抱きつく八宝菜。いつもならはっ倒すところだが、流石にマフラーを剥ぎ取った負い目があるのか、鬱陶しそうな顔をするだけに
「一部の神格を得た種族は、別種族を眷族にできるらしくてさ。ほら、
「あぁ、やっぱりあれ眷属にしてたんだね」
「多分まくらが押し切ったんだろうなぁ……」
平和な日本に産まれたにしては異常なまでの信仰心と忠誠心を持つまくらだ。“その他大勢”の信者ではなく、“特別”なつれごの眷属になりたかったのだろう。
「んでさぁ、神霊ってあるでしょ? 『FMB』ってプレイヤーの種族が変わることもあるっぽいし、ならレイスが神霊に成ることもできるんじゃないかなって。まぁ、レイスに関しては研究が全く進んでないから、ほんとにあるかは知らんけどさ」
レイスを種族に選んだプレイヤーは痛覚感度の軽減ができない。レイスは生物の核となる魂が剥き出しの状態であるため、魔法攻撃が芯に直接届く。そのため、肉体の壁がある他種族と違って、痛みという“危険信号”がなければならないのである。
しかし、基本的に平和な日本に住む人間が手足を斬られたり、内臓が破裂するほど殴打されたり、脳をかき混ぜられるような激痛に耐えられるわけがない。事実、一度レイスを体験したプレイヤーが「ここまでして設定順守する必要はあるのか?」と長文クレームを運営に送り付けたほどである。——結局、仕様が変更されることはなかったようだが。
故に、進んでレイスを研究しようというプレイヤーはまずいないのである。
「後天的に神格を得る例はあるからね。あり得ない話じゃない」
「お、実例知ってるみたいな口振りじゃん」
「君の“オトモダチ”経由で知っただけだよ。全く、ちゃんと“管理”しておきなよ」
「“管理”だなんてそんなことしないよ。あいつらは自由にやって、その結果得た利益をちょっと私にくれればいいだけさ。私だって自由にやりたいし」
八宝菜(響もだが)は人脈が恐ろしいほど広い。使えそうであれば、どんな相手とも“オトモダチ”になる。出身、職業、性格、性別、外見、趣味などなど……。全てがバラバラでほとんどがどういう経緯で知り合ったのか分からない。
“わたしじゃできないことを、お前がやってほしい。代わりに、お前ができないことは、私がやってやる”。
好ましい相手との“友人”関係ではなく、あくまで彼ら彼女らは“オトモダチ”。利害関係で結ばれた友情だ。
「にしても、そふかってあいつらのこと知ってたんだ」
「むしろ、彼らが僕のことを知っていたと言うべきだろうね。突然話しかけられたから驚いたよ」
「有名人じゃん」
「君のコミュニティーで有名になっても嬉しくないよ」
だからこそ、八宝菜は“オトモダチ”より“友人”を優先する。それを“オトモダチ”は理解するし、八宝菜も“オトモダチ”が自分より誰かを優先したとて責めはしない。
今回は“オトモダチ”に情報を聞いて回るより、“親友”のそふかと遊ぶことを優先した。ただそれだけ。
だがしかし——
「あっ! お前っ!!!」
「いぇーい、隙ありー!」
マフラーを奪い返し、ついでにコートも剥ぎ取った八宝菜は楽しげに笑う。
——八宝菜が何より優先するのは、自分なのだ。
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