第7話 2000/7


-----------------[短文のコーナー]------------------------------------

[ひまわり]


秋月闇に 蒼白な

渚に独り 僕はただ

止せては還す 波間見つめて

想いは巡る あの夏の日に


「あッ....。」


君は突然 偏西風に

飛ばされちゃった つばひろ帽子

眩む陽光  灼けた砂浜

それが 僕らの 出会いだったね


黒い瞳と 真っ直な髪

白い夏服 嫋やかな

まぶしい笑みは 大輪の

向日葵の 花の様に

陽光あびて 輝いていた


九月二十日の 雨の日に

ずっと 二人で 歩いたね

君の雨傘 小さくて

ふれあう肩が 気になって

話すことさえ 忘れてた....


落ち葉舞う頃 風向きが

北の匂いを 告げ始め

夏陽のような 向日葵は

俯き 静かに こころを伏せた.....


いつかそのうち 時刻が過ぎて

風の香りが変わったら

あの微笑みに またあえるかな

夏陽のような 向日葵に........。



-----------------[長文のコーナー]------------------------------------


[city]


街道筋をゆっくりと走り、彼は友人の“熊”の後について。

高校時代の友人というのは、どうして長い付き合いになるのだろう。

などど、彼は当時の自分を顧みて、思うのであった。


急成長した昭和の時代。

彼の家の周辺も、今や近代的なバイパスが通過し、

すっかり地方中核都市の様子。

....俺が生まれた頃は、この辺も田舎だった。

田んぼに水が入ると、蛙が鳴いて賑やかだったっけ。

飼っていたでかい秋田犬の背中に乗って、庭で遊んだよな....。


庭、そのものは今もその頃の面影を伝えてはいる。

犬のいたあたりの地面を見ると、硬い毛の感触を

思い出し、ふと郷愁に駆られたりもした。


しかし、今では周囲はコンクリートの構造物が立ち並ぶ

暑苦しい商工業地域、になってしまっている...。

彼の故郷は、もうどこにもないのだ。



バビロン、悪徳都市。

ボブ・マーレィは、近代都市のことをこう呼んだ。


これは、宗教的な概念からの発想だが、

本当に、そうかもしれないなどと、彼は柄にもなく

そんなことを思うのである。


壊し続け、作り続けなくてはならない自分の仕事を鑑み

それが正しいことなのかどうか、とか。


しかし、彼もまた普通の人間であり

工業製品であるマシーンに魅せられ、化石燃料を無駄に

消費し続けなくては生きていけないという「病気」にかかっている。


そのふたつの事柄に矛盾をかんじることはない。

もともと、人間などというものは論理的な生物ではないのだ。

いや、論理的生物などというものこの世には存在しないのだ.....。


破壊しつづけ、戦いあうのが男の性である。

兵器としてのマシーンは、美しく、危険に満ちておりあり

それ故、妖しく魅了する存在なのだ....。




とりあえず、ガレージに収まった我がマシンを見、彼は安堵する。

エンジンのかからないマシンを下ろすのはそれなりに苦労したが、

熊の尽力もあり(熊と呼ばれる由縁である。)どうにか収まった。


傷ついたマシンを見ると、わが身のように痛みを感じる。


カーマニアというものの習性。


彼は、灯かりのついたガレージで途方に暮れていた。

熊が、彼にささやいた。「あれ...どうする?」

その大きな体には不釣り合いなほどに繊細な神経の持ち主の彼は

状況を考え。


「...そうだな、高速のパーキング裏あたりにおいときゃ、奴等持って帰るだろう。

どの道、まともな話じゃないんだから文句言って来れるはずないし。」


それはそうだ、逮捕、不法監禁、まともな人間のやることじゃない。

しかも、あ奴らは警察の名を騙っているのだから。

「じゃ、いこぜ。」

「おお、たのむわ。」

彼は、ガレージのシャッターを下ろすと、裏山、高速道路のある方向を目指し

キャリア・カーを運転していった....。

その夜。

早速、ボンネットを剥ぎ取り、彼はエンジンの修復に取り掛かった。

慣れた手つきで補機類を外して行き、シリンダ・ヘッド。カヴァを外した。

エンジンオイルは白濁しており、やはり水が混入していることを物語る。


......。


カム・チェーン・テンショナを緩め、ヘッドボルトを緩めた。

多少は歪みが出ているに違いない。

カム・チェーンを外し、ワイアで固定しておく。

クランクケースに埋没させない為だ。

ヘッド・ナットを外し、静かにシリンダ・ヘッドを開放した...。

白熱電球の作業灯に、snap-onのクロム・メッキが反射し、輝いた。

彼は、ようやく落ち着いた気分になった。

奇妙な事だが、メカ・マニアという生物の生態である....。


-------以下、次号に続く------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る