第5話 ぶち切れました
クレアを助けて意気揚々と帰宅したレイナは、ベッドに横たわって今日の出来事をフラッシュバックしながらふと気付いた。
「あれ? 私、イベントを一つ潰してねぇ?」
情報を整理してみる。
入学して間もない時期に起きる今日のイベントは、首謀者が悪役令嬢の方のレイナだ。ハインツとの身分差も弁えず、婚約者の自分を省みず、仲睦まじくしているクレアの様子に腹を立て、手下ども、つまり取り巻きズを引き連れてお灸を据えてやろうと呼び出すのだ。手下の一人に汚水の入ったバケツを持たせて。
クレアに頭からぶっかけてやろうとした時、颯爽と現れたハインツに窮地を救って貰い、愛が深まるという流れだったはずだ。だが実際にはレイナが取り巻きズを撃退してしまった訳だ。ぶっかけたのは汚水では無くただの水だが。
クレアを呼び出したのは取り巻きズだし、ハインツは来たけど間に合わなかった。
差異が生じている。
これは自分が悪役令嬢として動いていないからだろうか? 自分にはクレアを害するつもりは微塵もないから、今日のイベントは起きるはずがなかった。それではマズいので、何らかの強制力が働いて無理にイベントを起こさせたから差異が生じたのだろうか?
考えても分からないのでレイナは取り敢えず、
「寝よう」
夕食の時間まで爆睡した。
◇◇◇
翌日、登校すると、下駄箱の所でハインツが待ち構えていた。挨拶する間も無く強引に手を引かれる。
「ちょっとこっちに来い!」
「い、痛っ! な、なんなんですか!?」
空き教室に連れ込まれた。
「貴様ぁ! クレアを呼び出して虐めたそうだなぁ! なんて浅ましい女だ! 恥を知れ!」
「な、私、そんなことしてません!」
「とぼけるな! 貴様が取り巻きに命じて呼び出したんだろうがぁ!」
「命じてません! なんで私がそんなことを命令する必要があるんですか!」
「貴様が俺とクレアの仲を嫉妬したからだろうがぁ!」
「嫉妬なんかしてません! なんで嫉妬するなんて思ったんですか!」
「貴様ぁ! あれだけ俺に執着しておいて良くそんなことが言えるなぁ! 俺に近付く女には誰彼構わず噛みついていたクセに今更なにを言いやがる! 大概にしやがれ! 大体貴様はだなぁ!...」
延々と続くハインツの罵倒にレイナは朝から疲れてしまった。どうやらなにを言っても聞いてくれないみたいだし、早く終わらないかなぁって思っていた。大体において、悪役令嬢だった頃の記憶が欠片も残っていない今の自分に散々言われても困惑するだけなんだが...
「おいっ! 聞いてるのかっ! なんとか言え!」
「...なんとか」
パシイッ!
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。頬を張られたと気付いたのは、痛みを感じてからだった。
プチンッ!
レイナの中で何かが切れた。次の瞬間、ハインツの股間を蹴り上げていた。
「なにしやがんだ、この野郎!」
「ほわわわっ!」
股間を抑えて踞るハインツを足蹴にして尚も言い募る。
「女に手を上げるたぁ、ふてえ野郎だ! 思い知ったか、このこの!」
抵抗出来ないハインツを尚も足蹴にする。
「アタシがテメエに惚れてるだぁ? 嫉妬してるだぁ? 寝言は寝て言えやぁ! このチンカス野郎がぁ! もうあったま来た! テメエとの婚約なんざ破棄だぁ! 分かったか、この浮気もんがぁ!」
一際大きくハインツを蹴り上げて、足音荒く空き教室を出たレイナは、
「はぁっ! 私ってばなにを!?」
やっと冷静になって自らの凶行を振り返り真っ青になるのだった。
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