第59話 社畜極まれり

「――ねえ、颯月さん」


 綾那は額に手を当てると、ため息交じりに神と仰ぐ男の名を呼んだ。呼ばれた颯月はと言えば、ばつが悪そうな顔をして、なんとも言い難い曖昧な笑みを浮かべている。


「綾、違う。これは全部、反射のようなもので――」

「今日一日、社畜の反射神経をまざまざと見せつけられて……私は一体、どうすれば良いのか」

「本当に悪い、違うんだ……」


 両手で顔を覆い、さめざめと泣き真似する綾那の隣を、颯月は困り果てた様子で歩いている。


 あれから朝市へ向かった二人は、市場で売られている焼き串や、果物を絞ったジュースなどを買いつけた。そして街の広場にある噴水周りのベンチに腰掛けて、ゆっくりと朝食を楽しんだ。そこまでは和やかで良かったのだが、ちょうどそれらを食べ終わった頃の事だったか――。


 街中を巡回している騎士が颯月に駆け寄って来たかと思えば、突然「街外れでボヤ騒ぎが起きたのですが、火の不始末ではなく放火の疑いがあります。何か痕跡が残されていないか、「分析アナライズ」してもらえないでしょうか」と依頼してきたのである。


 綾那は「休みなのに制服を着ているから、こうなるんですよ」と思いつつ、肩を竦めたのだが――なんと颯月は、「構わん、どこだ?」と即答して立ち上がってしまったのだ。綾那が思わず「えっ」と声を漏らせば、彼もまた「あっ」と小さく漏らして、いかにもやらかしたという顔つきになる。


 綾那としては、あくまでも彼は休みなのだから、他の者に仕事を回すべきなのではないかと思った。しかし颯月は既に、了承の言葉を口にしてしまっている。しかも街中で犯罪が起きた可能性があり、今この瞬間にも困っている人が居るのだ。「行くな」と言う訳にはいかないだろう。


 じっと颯月を見上げる綾那に、ばつの悪そうな顔をする颯月。無言で見つめ合う二人に、報告に来た騎士はハッと何かに思い至ったのか、「す、すみません! もしや、それどころではない状況でしたでしょうか……!?」と、見ているこちらが不安になるほど狼狽ろうばいした。


 綾那は一つ息を吐くと、颯月に自分もついて行くから手早く済ませようと提案した。ぎこちなく頷く颯月と共に現場へ向かい、火事の原因を探ったところ――これと言って、人の手が加えられた不審な痕跡は見付からなかった。恐らく人の手による犯罪ではなく、建物の老朽化や何かが自然発火したなど、別の要因があったのだろう。


 ひと仕事を終えた颯月は、「今日は、お休みですよね?」と笑顔で圧をかける綾那に「悪かった」と謝罪した。しかし、予想通りと言えばそれまでなのだが――ここから颯月の労働タイムが、確率変動に突入してしまったのだ。


「颯月騎士団長! ちょうどいいところに!」


「実は、この辺りに現れるはずのない大型の魔物が外壁近くに――」


「門番が言うには、通行証を確認した覚えのない怪しげなフードの男が、街中に侵入した疑いがあると……!」


「人が侵入した形跡もないのに、家の物がなくなったと言う住人が居て――」


 颯月は、街中で会う騎士に次から次へと助けを求められると、その全てをまるで脊髄せきずい反射のように二つ返事で引き受けてしまう。そして、綾那の存在を思い出しては頭を抱えた。

 彼が了承の言葉を口にする度に、綾那は「休みとは、一体……? 私の存在意義とは、果たして――?」と遠い目をする。


 ちなみに、颯月が街の女性に囲まれないようにするための対処法とは、綾那が初めて彼と出会った時に身に着けていた、頭から足の先まで覆う魔法の鎧――見た目通り「魔法鎧マジックアーマー」という魔法で、発動する者によって鎧の色や形が変わるらしい――を着て、姿を隠す事だった。

 街の人通りが増え始める前から「魔法鎧」を発動していたおかげで、街の女性には「颯月だ」と気付かれる事はなかった。けれど、彼の纏う鎧がどんなものか把握しているアイドクレースの騎士が相手では、なんの意味もない。


 よって颯月は、街で働く騎士と出会う度に手助けを頼まれている。紫紺色のフルプレートアーマーを身に纏った長身の騎士が、アイドクレースでは珍しい白肌、体形の女性を連れて街中を駆け回る様は、さぞかし目立った事だろう。


 散々労働したのち、颯月は「分かった。俺が街中に居るのがよくない、教会でガキ共と遊ぶ事にするか……」と気まずげに提案した。彼が綾那に対して悪いと思っている事は確かだし、反省している事も十分伝わってくる。なんとか巻き返しを図ろうとしているのだと察した綾那は、屈託のない笑顔で頷いた――のだが。


「ああ、颯月! お前、良いところに来てくれたな!」


 教会の神父静真は、颯月の顔を見るなりクマの目立つ顔で微笑んだ。綾那はその瞬間にまさかと嫌な予感を抱いたが、そのまさかだった。


「実は所用があって、急ぎ草原に咲く花が必要なんだが……もし時間があるなら、私の護衛を頼めないか?」


 ――とは、静真の言葉である。

 颯月は「良いぞ」と言いかけてグッと飲み込むと、隣に立つ綾那をちらりと見下ろした。静真はそこで初めて、綾那の存在に気付いたらしい。そもそも黒髪で、一目では綾那だと分からなかったのだろう。


「ああ、なんて事だ、綾那さんも良いところに来てくれた! 外に出ている間、子供達の世話をお願いできると大変助かるのですが――」


 そうして人のいい笑顔を浮かべる静真に、綾那は苦笑いを返した。

 颯月と長い付き合いの静真の事だ、この騎士が休みを取らない事は熟知しているだろう。そもそも制服姿の彼を見て、休日であるなど誰が思うものか。


 静真に颯月の休日を邪魔しようなんて悪気がある筈はなく、彼は一つも悪くない。綾那は諦観したように頷くと、無言で颯月の背を押した。気まずげに「……すぐ戻る」と言った颯月は、八つ当たりのつもりか静真にベタベタと触っては、「オイ、やめろ! 最近減ったのに、また夢枕に立つ眷属が増えるだろうが!」と怒られながら街の外へ向かった。


 綾那は「戻ってきたら、静真さんの「解毒デトックス」念入りにやらなきゃ――」と思いつつ、悪魔憑きの子供達に「なあ、なんで髪の毛が黒いんだ?」「なんか嫌な事でもあったの?」「にーちゃんと喧嘩した?」などと弄られながら、颯月の帰りを待った。


 それから静真は街へ戻った後、所用を済ませるために出掛けたらしい。一人教会へ戻って来た颯月と共に、子供達といつも通りゆっくりと過ごしたのち――やがて所用から帰って来た静真の「解毒」をして、教会を発った。


 ちなみに、教会の帰り道でしたのが、冒頭のやり取りである。

 颯月の社畜ぶりは最早、病気だ。綾那が彼に休日の在り方を教えようなんて、とんだ思い上がりだったのだ。騎士団宿舎を出たのが朝の五時過ぎで、この頃にはもう十六時を回っていた。結局休日と呼ぶには程遠い一日だったが、これ以上街歩きを続けていても、颯月の仕事が増えるばかりだろう。


「ええと……今日はもう本部に戻って、ゆっくりお茶でもしましょうか?」


 綾那は泣き真似をやめて、颯月に問いかけた。しかし、彼はまだ巻き返しを諦めていなかったようで、「帰る前に桃華の店に寄らないか? 綾に新しい服を贈りたい」と、更なる提案をしてきたのだ。

 綾那は正直なところ「嫌な予感しかしないんだけどなあ」と思いつつも、苦笑いを浮かべて頷いた。



 ◆



 そうして訪れた桃華の店、『メゾン・ド・クレース』。

 彼女の姿はまだ確認していないが、綾那お気に入りの金木犀の香りからして、店舗のどこかに居るのは間違いない。颯月と綾那を出迎えてくれたのは、桃華の母親である。


「綾に似合う服を全部もらおう」


 颯月が開口一番言い放った言葉に、母親は「いつもありがとうございます」と微笑んで店の奥に入ろうとした。しかし綾那は慌てて、「じ、自分で必要な分だけ選びますので、お構いなく!」と言って彼女を引き留める。

 颯月の財力をもってすれば、店舗の在庫全てを購入したところで彼の懐は痛まないだろうが――だからこそ、「全部」という言葉はシャレにならないのだ。


「俺が好きでやってる事なんだから、何も遠慮する必要ねえのに――」


 独りごちる颯月に向かって、桃華の母親は苦笑を浮かべた。そしてふと何かを思い出したのか、言いづらそうに「あの颯月様、実は折り入ってご相談が――」と彼の顔色を窺う。

 まさか、この店に来てまで仕事を持ちかけられるとは思いもしなかったらしい颯月は、紫色の瞳を大きく丸めて体を硬直させた。


「――どうした? 俺に相談事とは珍しいな」


 やや間を空けてから颯月が促せば、桃華の母親は困ったように眉尻を下げた。

 ちなみに、最早綾那は颯月の背中に「本当に働き者で、偉いなぁ」と生暖かい視線を投げかけるのみだ。苦言を呈する事すらない。


「その……ここ数日、店の備品が盗難被害に遭っていて」

「盗難か。今朝、巡回の騎士からも似たような話を聞いたな……盗られたのは?」

「様々です。今のところ被害はそう出ていませんけれど、店の飾りとか、燭台とか――」

「防犯カメラには何が?」

「それが、人の姿は映っていないのです。ただ、見た事のない不思議な陣が敷かれて、それが強く光ったかと思えば――光が収まると共に、物も消え失せているんです。なんだか気味が悪くて」

「え、それって」


 母親の説明に、綾那は目を瞬かせる。それはまさか、転移陣――つまり、「転移テレポーテーション」ではないのか。

 目を瞬かせたのは綾那だけではない。颯月もまた、意見を求めるように綾那を見下ろした。


「恐らく、あの時と同じ力ですね」

「……やはりそうか」


 何が目的なのかは分からないが――いや、もしかすると彼らの目的は今も変わらず、桃華の誘拐なのだろうか?


(てっきり、あの人達は遠く離れた場所の様子を透視できるような、何かしらの便利な力を持っているんじゃないかと思っていたけど……実はそうじゃないのかな。もしかして桃ちゃんを「転移」させるために、彼女の座標を探っている――とか?)


 であれば、店の備品が「転移」で盗まれたのも頷ける。桃華の居場所を大まかに把握してはいるものの、まだ正確な座標が特定できていないのではないか。


 これは綾那の推測に過ぎないのだが、以前まで桃華が過ごしていた使用人の住居――別館の部屋は、どれもだいたい似たような間取りになっているらしい。配置の違いは若干あっても、家具は備え付きだ。外光を取り入れる窓の方角さえ分かれば、ベッドや机の配置の予測もできるだろう。

 あとは桃華の私室の座標さえ特定すれば――己の目で直接部屋の様子を窺い知る事ができなくとも――机の上に置かれたポットを、「転移」で毒入りのものと交換できたのではないか。


(とは言っても、確実に見ていたとしか思えない絶妙なタイミングで、ポットを「転移」させる何かしらの方法があった事は間違いないと思うけれど)


 ただ、桃華は誘拐される少し前から、部屋にある私物の盗難被害に遭っていたらしい。何から何まで絨毯屋の娘達による犯行と疑われていたが、もしかすると、今まさに置かれている状況と似ているのではないか。


「あの、お母様。桃ちゃんはこちらにいらっしゃいますか?」


追跡者チェイサー」のギフトで彼女が店舗内に居る事は分かっていたが、綾那は念のため母親に確認した。すると彼女は、我が子を慈しむ優しい笑みを浮かべて頷いた。


「ええ、おりますよ。今日は珍しく、幸成様が「急遽休みが取れた」とお見えになられて――たまのお休みですからね。桃華は奥に下がらせています」

「まあ。ええ、そうですよね。ですもの、それはゆっくりしたいですよね――ねえ、颯月さん」

「俺も今日はゆっくりしたぞ? その……普段と比べれば、遥かに」

「あら、それは重畳ちょうじょうです」


 綾那は「もう何も言うまい」と考えると、気持ちを切り替えるように軽く頭を振った。


「お邪魔をして本当に心苦しいのですけれど、桃ちゃんと会わせていただけますか? 少々、確認したい事がありまして――」

「え? はい、構いませんけれど……こちらへどうぞ。あの通路の先がスタッフの休憩所です」

「ありがとうございます。颯月さん、行きましょう?」

「ああ」


 桃華の母親に見送られて、綾那と颯月はスタッフの休憩所へ向かった。木製の扉を数度ノックすれば、「はい」という声と共に中から扉が開かれる。扉を開けてくれたのは桃華だ。彼女は綾那の姿を認めると、ただでさえ大きな瞳をこれでもかと見開いた。


「――えっ! 綾那お姉さま!?」

「こんにちは、桃ちゃん。ごめんね、少しだけお邪魔させて?」

「綾ちゃん? ――と、颯もか! なんだ、また綾ちゃんの服でも買いに来たのか?」

「まあ、そんなところだ」


 奥のソファに深々と腰掛けているのは、だらけた姿勢で足を組む幸成。店舗スタッフの休憩所だというのに、まるで勝手知ったる我が家だ。よく見れば彼も、休みにも関わらず騎士服を身に纏っている。

 幸成は綾那の監視をしている時に――合間に昼寝するためだったとは言え――私服を着ていたので、しっかりと公私を分けるタイプだと思っていたのに。


 やはり騎士団とは、トンデモ社畜集団なのか。それとも、「騎士服を見るのが好き」という桃華に会うので、あえて私服に着替えなかったのだろうか。

 なんにせよ、今日一日颯月と共に過ごした綾那が思うのは、「休みの日は絶対に、制服を脱いだ方が良い」の一択である。綾那は小さく息を吐いてから、目の前で瞳をキラキラと輝かせている桃華に向かって笑いかけた。


「桃ちゃん、最近お店の物が消えちゃうんでしょう? 防犯カメラの映像は見た?」


 桃華は誘拐された先で、犯人の男達が「転移」する瞬間――そして、ビアデッドタートルという大型の亀の魔物が「転移」した瞬間を間近で見ている。つまり光る転移陣を何度も目にしているので、彼女が防犯カメラを直接確認していれば、「また狙われているかも」と気付くはずなのだ。


「え? あ、はい、そうなんです。映像は護衛騎士の方々に提出したので、私自身はまだ見ていなくて。母が騎士に相談しているらしいのですけれど、どうにも手法が謎だと――」

「――は? なんだよソレ、俺は何も聞いてねえぞ」


 分かりやすく不機嫌な声を上げた幸成に、桃華もまた頬を膨らませた。


「だって……護衛してくれている方々が身近に居るのに、全部すっ飛ばして幸成に相談する訳にはいかないじゃない。あなた王族だし、あまり事を荒立てるとまた裁判沙汰に……」

「だからって、言わないヤツがあるかよ」

「でも、こういう時の為に付けてくれた護衛騎士でしょう? そもそも被害に気付いたのは二、三日前で――」

「そういう問題じゃねえ」


 言い争いを始めた二人に、綾那は「随分とよろしくないタイミングで、水を差してしまったらしい」と後悔する。しかし早めに被害の確認をしておかねば、今度こそ桃華本人が「転移」されてしまう可能性だってあるのだ。

 綾那は一つ息を吐くと、改めて口を開いた。


「幸成くん。もしかすると桃ちゃん、またあの時の犯人に狙われているかも知れません」

「――え」

「は……!? 店のものがなくなるって、まさかあの、机の上から物を消した力と同じなのか?」


 幸成もまた「転移」の力を目の当たりにしている。彼は途端に姿勢を正すと、口元に手を当てて深く考え込んだ。綾那は、目を丸めて戸惑う桃華の背に手を添えると、ひとまず幸成の隣に座るよう促した。

 正確な座標が分からずまごついているような相手だ。出現する転移陣も大きいものに違いない。もし今犯人が問答無用でギフトを発動させたとしても、幸成と隣り合っていれば――少なくとも桃華一人が攫われる事はないはずだ。幸成ごと一緒くたに「転移」してしまえば、危険も少ないだろう。


「なあ、綾。もしかすると今日片付けた仕事も、ヤツらに関係あるか?」

「今日の仕事……ですか?」


 颯月の言葉に今日一日の事を思い返せば、確かに関連性がないとは言い切れない気がしてくる。

 本来この辺りで現れる事のない大型の魔物が出たのは――犯人の目的はともかくとして――絨毯屋の倉庫で、ビアデッドタートルを召喚した時と同じ手法をとったのではないか。

 門番が通行証の確認をした覚えがない怪しげな男は、「転移」を使い街へ不法侵入した男の存在を示唆しているのかも知れない。家のものがなくなったという住人は、ただの物盗りではなく――桃華の正確な座標を調べるため、犯人が無差別に「転移」を発動させているとは考えられないか。


「確かにその可能性もありますね。なんにせよ、相手が桃ちゃんを探しているのは間違いないかと思います」


 ――と、その時。綾那はクン、と何かに髪を引かれた気がして、動きを止める。何故なら髪を引かれた方向は、颯月の立ち位置の真逆――つまりそちらには今、誰も居ないはずなのだ。


(嘘でしょう? まさか、「転移」もち自ら飛んできた、とか――?)


 だとすれば、完全に出遅れた。綾那は恐る恐る、正体を確かめようと髪を引かれた方向を見て――首を傾げた。


 水色の髪がひと房、宙に浮いている。ぴんと張った様子から、何かに引かれている事は確かなのだが――しかし、髪の先には何も存在しない。まるで、見えない何かに引っ張られているようだ。

 自分にしか感知できない、幽霊的な何かだとすれば気味が悪い。そう思った綾那は、おずおずと周囲へ視線を巡らせた。しかし颯月も幸成も、何事か話しながら桃華を注視しているため、全く気付いていない。


(これは何、どういう状況……? もしかして、姿が見えない透明な眷属とか、魔物とか居る? とりあえず颯月さんに――)


 相談しようと思ったのも束の間、途端に引く力が消え失せて、髪の毛もぱさりと元の位置に戻った。綾那は「何かに悪戯されただけ?」と困惑していたのだが、次は肩から下げている鞄がツンツンと引かれる。

 様子を眺めていると、どうやら見えない何かは、必死に綾那の鞄を開けようとしているらしい。


 綾那は、ますます困惑した。

 見えない何者かの悪戯だとして、綾那の鞄の中にはこれと言って価値のあるものが入っていない。いくら同じ通貨単位だと言っても「表」の金はここで使えないし、スマートフォンはソーラー充電器が無ければ、いずれ使用できなくなる。化粧道具も悪戯に使えるほど持ち歩いていないし、防弾チョッキなんて、銃火器のない世界ではそもそもなんのために存在するのか理解すらできないだろう。


 そう、唯一価値があるとすれば、「表」では高値で取引される魔獣の核――とそこまで考えて、綾那はヒュッと鋭く息を呑んだ。


「ま、さか……キューさん――?」


 綾那が声を潜めて呟くと、鞄を引っ張る何かは、まるで頷くようにぶんぶんと鞄を揺らしたのであった。

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