第7話 次の旅へ
夜も明けてアンガスと手綱を代わったものの、結局目的地も決めないままただ街道を走っていくうちに、私は思いついた。
「……海が見たい」
手綱を握りながら、私は呟いた。
「海ですか。もう、かなり内陸に入ってしまったので、最短でも近場で三日は掛かります。まあ、どこでもいいというのであれば、この先の分岐点を左に曲がって北西街道をひたすら進めば、ショボい港町に辿り着きますよ」
カレンが笑った。
「ショボくてもいいよ。潮風浴びたいから曲がる」
私は笑みを浮かべた。
馬車は進み、見えてきた分岐点を曲がるために速度を落とし、私はちょっとワクワクしていた。
「ここは幹線道路です。珍しく空いていますが、交通量が多いところがあるので、ぶつけないで下さいね」
が笑った。
「うん、分かった」
私は手綱を握り直した。
改造馬車は計算通り快適に街道を進み、いくつもの村を通りして駆け抜け、私たちは順調に旅程を消化していった。
途中で乗客同士でトラブルでも起こしたか、長距離乗合馬車が路肩に停車し、御者がいなしていたが、最後はそのまま二人を取り残して出発していってしまった。
「あ、あれいいの?」
「怖いねぇ、まだ喧嘩してる……」
その脇を駆け抜け、私たちはさらに進んで、カランタというそこそこ大きな街で、食事を兼ねて休憩する事にした。
「さて、もう少しいくと、この街道は森を突っ切って通過しますが、エルフのテリトリーを微妙に掠ります。なにもないとは思いますが、彼らの行動はたまに読めません。」
カレンが地図をみながらいった。
「そうなの。怖いな……」
「まあ、基本的には街道には近寄らないですけどね」
馬車は街道を飛ばし、今の馬が出せる最高速度に達した。
「こりゃ、気分的に休憩どころじゃないね。攻撃されるのは初めてじゃないけど、この殺気は半端じゃないよ」
私は苦笑した。
馬車は板バネをギシギシ言わせながら、ちょっとした段差をジャンプして通り過ぎると、街道のいく先に広大な森が見えてきた。
「セリカ、いよいよだね」
「はい……」
セリカは隠し持っていた拳銃を出した。
「エルフに先制攻撃はタブーですが、命を守るためならやむを得ません。警戒はしていてください」
「分かった……」
私はビノクラーで前方を確認した。
「うわ、いっぱい集まってるよ……」
木々の枝葉に隠れるようにしてるが、爆音に惹かれてか。無数のエルフが集まっているのがみえ、車群を覆うように結界魔法が発動したようで、青白い膜に覆われた。
「あれ、ウェンディ?」
「はい、そろそろ弓の射程範囲です。防御はしておきましょう」
ウェンディが小首を傾げた。
さらに進むと、空が真っ黒になるほどの大量の矢が飛んできたが、結界が全て弾いた。
「……アブな」
私は冷や汗を掻いた。
「これは危険ですが、ここで止まる方がもっと危険です。とにかく飛ばして、一気に抜けましょう」
カレンが地図をみた。
そして、今度は攻撃魔法の華が咲き、これまた結界で全て弾いた。
入した。
その途端、苛烈極まる凄まじい攻撃魔法で撃たれまくったが、高性能な結界が全て弾き飛ばし、逆に私たちの中にいる魔法使いチームが、派手な攻撃魔法で応酬した。
「……この結界凄いな。やるじゃん」
私は小さな笑みをうかべたした。
「ちょっと、これはやり過ぎじゃない?」
アリサが心配そうに呟いた
「いえ、帰り道の確保です。これで正解ですよ。あれだけ好戦的ですから、話し合いでどうなる相手ではないでしょう」
エルクが小さく笑った。
馬車は森ごとエルフたちを吹き飛ばし、引き続き街道を進みんでいった。
燃え始めた森をあとにして、私は馬に無理をさせていた馬車の速度を落とし、平和な旅に戻った。
「よし、この分なら休憩出来そうだね」
「はい……といいたいですが、この先しばらくなにもありません。あと二時間も走れば、小さな村がありますので、そこにしましょう」
カレンが笑った。
「まあ、ならいいや。ご飯は食べてるけど、そろそろ休憩させないと馬がもたないよ」
こうして、私たちの街道ドライブは続いていった。
お昼を回った頃、私たちはようやく村に着き、まずはということで共同浴場にいった。
真昼に近いのでそう混んでないと思っていたのだが、そこそこ人が入っていて、見慣れない私たちがいくと、一瞬だけ「誰?」という顔をされた。
「はぁ、疲れた。上がったら、誰かに手綱を代わってもらうよ。危ない」
私は苦笑した。
「よし、それじゃ私がやろう。真っ直ぐいけばいいのか?」
エルザが笑った。
「はい、真っ直ぐです」
エルクが頷いた。
「リーダー、朝から頑張ったもんね!!」
サマンサが笑った。
「うん、楽しくてやっちゃった。でも、寝ないと辛い」
私が笑ったとき、外で警鐘が鳴る音が聞こえた。
瞬間、浴場にいたみなさんが一斉に立ち上がり、素早くお風呂から飛びでていった。
「私たちもいこう。素っ裸で、巻き込まれたくない」
「そりゃそうだ。いこう!!」
アリサが立ち上がった。
全員で湯船から脱衣所にいくと、もう誰もいなかった。
「みんな、慣れてるんだねぇ」
私は苦笑した。
「それはいいから、体を拭いて着替えよう。まあ、私は素っ裸でも武器さえあれば戦うがな」
エルザが笑った。
「まだ明るいし、比較的気楽だよ。よし、いこう!!」
私たちは、急いで浴場を出た。
てっきり強盗が襲ってきたのかと思えば、村の墓地で大騒ぎになっていた。
緑がかった透明の塊が放電現象ををおこし、誰も近づけなくなっていた。
「魔物じゃないよ。ちゃんと鎮魂してない魂が集まっちゃっただけだから、これだからちゃんとやれって思うんだけど……」
私は呪文を唱え、浄化の魔法を使った。
通常ならこの程度なら祓えるのだが、この塊はエネルギーの濃度が高すぎるようで、私の魔法は、ちょっと小さくするだけで終わってしまった。
「こりゃ凄いね、怨嗟の塊だよ。ダメだ、こうなったら浄化で然るべき場所に送れない。破壊するしかないね」
私は呪文を唱え、破邪の法を使った。
緑色の塊はどんどん小さくなり、やがてプチッと音がして消えた。
「……っつ」
全身の抜けた一瞬の痛みに、私は思わず顔をしかめた。
怨嗟とは恨みの叫びの事。
それを破壊すれば、多少なりとも痛みは伴うものだった。
「大丈夫ですか」
ウエンディがヒールをかけてくれた。
「うん、問題ないよ。みなさん、もう大丈夫です」
私の声に集まっていた村の人たちも安堵の息を吐き、それぞれが散っていった。
「さて、調査しないと。また、集まっちゃうから……。これが。墓荒らしみたいで嫌なんだよね……」
私は苦笑し、特に塊があったお墓に全員でいき、ボロボロの墓標が立っている場所にきた。
「……読めないな。でも、魔封じの印がハッキリある。これ、一種の結界だから、壊しちゃダメだね」
私は穴掘りは中止にした。
しばらくして、背後から足音が聞こえ、初老のおじさんがやってきた。
「その者は村に災いをもたらす魔女だと決めつけられ、処刑された遺体が埋葬されている。もう遠い昔の事だよ。まだ、十才くらいだったかな……」
おじさんは小さく息を吐いた。
「……ただの魔法使いって、認知されててよかった。危ない」
私はため息を吐いた。
「今はもうやっとらんよ。ナンセンスだってな。こういった閉鎖的な小さな村では、よくある事だ。気をつけた方がいいぞ」
おじさんはそれだけ言い残し、墓地を出ていった。
「ちょっと寒くなったな。この村は出た方がいいね。休憩したし」
私は苦笑し、みんなで馬車に戻り、早々に村から退散した。
気を取り直し、私たちは旅を再開した。
運がいいのか、つまらない馬車と思われたのか、強盗でも出そうで出なく、魔物も魔獣も引っ込んでいて、ただひたすら走っているだけだった。
途中何回か休憩で村や町に寄ったが、特にトラブルはなかった。
「海は遠いねぇ……」
「はい。でも、このままなら明日には到着出来るでしょう。海鮮丼が名物です」
セリカが笑った。
「いいね、それ。楽しみだなぁ」
私は笑った。
チラッと後ろを見ると、アンガスとエルザが武器の手入れと、鎧の直しをやっていて、アリサは読書。サマンサは杖を片手になにかやっていて、平和な空気が流れていた。
はただ黙って外の景色を眺め、ウェンディは揺れる馬車内で、器用に薬を作っていた。
「後方から、武装集団を載せた馬車がきてるよ!!」
いきなりサマンサが叫んだ。
「おっ、武装集団といえば、強盗かなんかだね。サマンサ、馬車の片輪を狙ってドカンと!!」
「おう、任せろ!!」
ここからではよく見えなかったが、サマンサが放った攻撃魔法で後続の馬車が壊れて前につんのめり、乗っていた男共が空を舞った。
「お見事!!」
「ありがとう!!」
サマンサが笑みを浮かべた。
「明るいうちはいいんだよ、明るいうちは。夜間でこれは出来ないな」
手綱を交代しながら走っているうちに、空は夕焼けを迎え、移動二日目が終わろうとしていた。
私が手綱を持つ番になってしばらくいくど、街道の脇に目を赤く光らせた魔獣が三体がうろついていたので、私は馬車の速度を停車寸前まで落とした。
「えっと、どっかでみたな……」
「ハウリングドッグ。今見えるのは三体。すでに狙いをこちらに定めているから、仲間を呼ぶでしょう。倒すしかないよ!!」
私が馬車を飛び降りると同時に、ハウリングドッグの一体が遠吠えをし、たちまち数十体に囲まれた。
「ちなみに、魔法防御かなり高めです。魔力に反応するので、魔法使いは気をつけて下さい」
エルクが声を上げた。
「だったら、俺たちだな」
「うむ、悪くない」
アンガスとエルザが武器を構え、お試しなのか飛びかかってきた一体を、簡単に真っ二つにした。
「よし、戦える。やるぞ」
「うむ、数は多いがなんとかなるな」
全部三十から四十体程度だろうか。
ウェンディが簡単な防御膜を張り全員を守ると、アンガスとエルザは魔物の群れに突っ込んでいき、私は攻撃魔法を使ったが、なんと防御魔法で弾かれた。
「うぉ、気合い入ってるな……」
とりあえず、まだなにも出来ないアリサが声を漏らした。
「……ライフルじゃ近すぎるな」
私は巨大拳銃を抜き、一発撃った。
ドコーンと凄まじい発砲音が聞こえ、どうにか一体倒した。
この数がまともに一斉攻撃してきたら溜まらないので、私はちょっと焦った。
魔法が効かないとなれば、物理攻撃しかないし、一応剣は持っているがズブの素人なので、逆に怪我する事は確実だった。
「今さら穴ぼこで落としたら、エルザとアンガスを巻き込むな。まさか、防御魔法を使うとは……」
その時、首筋にひりっとした感覚が走り、ハウリングドッグが放った攻撃魔法の嵐が吹き荒れた。
「な、なんだこいつら。攻撃魔法まで使うの!?」
防御膜があったお陰で助かったが、いよいよこれは面倒な事になってきた。
「……予備の武器を使うかな。おばあちゃんには、危ないからやめろっていわれてるけど、使わないとダメだよこれ」
私は一度馬車に乗り、煎餅を焼いているおばあちゃんの前を通り過ぎ、馬車のトランクから重たい大砲を取り出した。
無反動砲というらしいが、おばあちゃんが闇市で買ってきたもので、破壊力は保証付きらしい。
「リルム、それはあなたでは扱えません。実際、持ち上げる事もできないでしょう。どれ、久々にやりますかね」
おばあちゃんが無反動を軽々担いだ。
「クリム、あなたは砲弾を……ああ、それも結構重いので、無茶はいけません。私が担いで行きましょう」
おばあちゃんは背嚢に砲弾を詰めるだけ詰め込み、無反動砲を担いで馬車から降りた。
「皆さん、気をつけて。バックブラストで大怪我してしまうので、私の後方には立たないで下さいね」
おばあちゃんは砲尾を開けて無反動砲に砲弾を装填し、ハウリングドッグの群れに向かって撃った。
砲の後方から凄まじい量の燃焼ガスと炎が吹き出て、着弾と同時に爆発をおこし、飛び散った砲弾内に詰め込まれた鉄球で数体倒した。
「はやり、群れには榴弾ですね。次……」
おばあちゃんはまた砲弾を装填し、ハウリングドッグを纏めて叩きのめした。
こいつらヤバいと思ったのか、遠吠えで仲間を呼んだ。
この遠吠えを上げたのが群れのボスと見た一体を見逃さず、私はライフルを構えてスコープを構えた。
「距離、およそ百メートル。近いけど、これはいい。風は南向き風力二、湿度多分六十%……」
呟きながら私は引き金を引いた。
素早く逃げたボスだったが、その胴体に私の弾丸が命中し、動きが鈍ったところでサマンサが攻撃魔法を放った。
相変わらず防御魔法で弾き飛ばしたが、それで魔力と体力を消耗したらしく、ボスの動きが鈍った。
そのボスが吠え、残っていた数十体が素早く逃げ出した。
「去る者は追わず。この辺りでしょうね」
おばあちゃんが笑い、無反動砲を持って馬車に戻った。
「よし、終わったね。いこうか」
私の声に全員頷き、再び馬車の旅を再開した。
再び走らせ始めた馬車は、街道を進んで行った。
しばらく進むと、久々に大きな街が見えてきた。
こういう町は通行税を取るのが普通で、審査ついでに徴収しいていく。
それを避けるため、セリカの案内で私は街道から枝道にそれて大きく町を迂回するルートを取った。
道は慣れた業者の馬車が時々通る位で、交通量も少なく閑散としていた。
「こういった道を強盗が狙います。気をつけて」
「うん、分かった」
私はビノクラーを片手に答えた。
しばらく進むと小さな森があり、そこに馬車が近づくと木立の隙間から大勢現れて、完全に行く手を塞いだ。
私は馬車にブレーキをかけ、馬を止めた。
「よし、ここは俺たちのシマだ。町よりは安くしておいてやる。通行料を置いていけ」
全員が抜剣し、やる気満々の強盗団のボスっぽい野郎がニヤッと笑みを浮かべた。
私たちは全員下車し、そういえば朝からマンドラの姿がない事に、今さら気がついた。
「あれ、どこにいったんだ。ちょっと探すから、あとは任せた。
私は馬車の荷台に飛び乗り、外から剣と剣がぶつかる激しい音が聞こえ始めたのはおいて、私は唯一の死角である大きな方のトランクを開けると、むくれた顔のマンドラがいた。
「うわっ、なんでそんな所に!?」
「なにもなくて寝やすかったんだよ。そしたら、誰かが蓋に鍵を掛けやがって開かないし、呼んでも誰も気が付かなかったし、私ってそんなに存在薄い。侍女ちゃんすら気が付かないなんて酷い!!」
マンドラはトランクから出てきて、私を抱きしめた。
「可愛いから、侍女ちゃんも同じ目に遭わせてあげようか……侍女のくせにお仕置きだからね」
マンドラはその変に転がっていたロープで私を縛り、トランクに入れると足も縛られて動けなくされた。
「よいしょ、口開けて」
マンドラはおばあちゃんしかいないことをいいことに服を脱ぐと、下着だけ取って私の口に強く押し込んだ。
「なんか喋ってみて」
私は許してといったが、微かなくぐもった声にしかならなかった。
「うん、これでいいや。ついでに着替えよう。侍女ちゃんはいつ許そうかな。じゃあね」
マンドラはトランクの蓋を閉め、カチッと鍵が掛かる音がした。
「……なに、戦闘中なの。そりゃ大変、行かなきゃ」
マンドラの声が聞こえなくなり、私は闇の中に置き去りにされた。
「はぁ、終わったな。なんだ、あの固いボス。鎧の材質が知りたいよ」
アンガスの声が聞こえた。
「さぁな、単純な鋼ではないだろう。全く、強盗も油断出来ないな」
エルザの声が聞こえた。
「あれ、リーダはどこ行った」
アンガスの声が聞こえた。
「うん、一人になりたいってトランクの中に籠もっちゃった。疲れたんじゃない?」
マンドラの声が聞こえた。
「そっか、まあ子供だしねぇ」
サマンサの声が聞こえ、しばらくして馬車が動き出す微かな衝撃を感じた。
そのうち、コンコンと軽く蓋がノックされ、マンドラの声が聞こえた。
「……楽しんでる? って答えられないか。もうちょっとね。頭きたから侍女を虐める」
マンドラが笑った。
足回りを改造したので、馬車はあまり揺れず、そのうちおばあちゃんのご飯が出来ましたよという声が聞こえた。
そっとトランクの箱が少し開けられ、マンドラが笑みを覗かせた。
「食べたいでしょ。おしまい。解いてあげる」
マンドラは器用に上半身だけトランクに突っ込んで、私の縄を素早く解き、口の中の自分の下着を取り出して放り投げた。
「おーい、出てこーい!!」
トランクの蓋を全開しにして、マンドラが声を上げた。
私がトランクから出てくると、マンドラは私の手を引いてカウンターに座らせた。
「なに、気が済んだ?」
サマンサが笑った。
「うん、スッキリしたよ。この侍女は私のだからね。あげないよ!!」
マンドラが私の頭を撫でた。
「いらないよ、師匠とか呼んじゃうかもしれないけど!!」
サマンサが笑った。
「あらあら、クリムにも弟子ができましたか」
おばあちゃんが笑った。
幌の隙間から見える景色は、とっくに夜になっていた。
「夜間走行か……そういや、エルクはご飯食べたの。ずっとあそこに座ってるけど……」
「はい、アンガスと競うように食べて、あっという間に御者台に戻りましたよ。急がないと、海鮮丼が売り切れてしまうそうなので、なんとしてでも早朝に着かないといけないと、躍起になってます。
「そうなの、売り切れちゃうの。悲しいよ!!」
私は泣きそうになった。
「だから、間に合うように急いでいるんです。さっき、検問を力尽くでぶっ壊して逃げたばかりです」
おばあちゃんが笑った。
「……それ、あとで怒られるよ」
私は苦笑した。
「世の中には、バレなきゃいいという言葉があります。まあ、少々強引でも急ぎなので」
おばあちゃんが笑ったとき、背後から爆音を立ててトラックがやってきて、そのまま追い抜かれていった。
「そろそろ魚市場が近いですね。潮の香りがしてきましたし……」
走っていると、まるで命がけのように、爆走トラックが次々と現れては追い抜いていった。
「この国にも、ハイテクはあるんだね」
「はい、輸送網は重要なので、他の予算を削って頑張ってるようです。まあ、あまり関係ない話ですが」
おばあちゃんが笑った。
「私は自転車で街道を走っていたら、トラックにひき逃げされた事があるぞ。まあ、弾かれただけだが」
エルザが笑った。
「うわ……」
私は引きつった笑みを浮かべた。
「下手な魔物より怖いと評判だ。せめて、原チャリにした方がいい」
アンガスが味噌汁を飲みながら笑った。
「はい、もうヤバいです。市場の人が食べちゃうので……」
エルクの声が聞こえたが、馬車はすでに最高速度で走っているので、これ以上は急ぎようがなかった。
「ええ、食べちゃうの。ちょっと待って!!」
聞こえるわけないが、私は思わず声を上げた。
「さあ、煎餅が焼けましたよ。食後に」
おばあちゃんがノンビリいった。
「煎餅じゃなくて、海鮮丼だよ!!」
「クリム、魔法使いたるもの冷静にです」
おばあちゃんが笑った。
「侍女ちゃん、結構根性あるね。渡井はまだ怖いよ」
マンドラが苦笑した。
しばらく走っていると空が白み始め、少し大きな街というか港が見えてきた。
「よし、もうじき着くぞ」
アンガスが笑った。
「ようやくですか、楽しみです」
おばあちゃんがノンビリいった。
「うん、おばあちゃんの煎餅は美味しいな」
おばあちゃんの煎餅を食べていると、程なく目の前に現れた町の門を潜った。
おばあちゃんが笑い、私も笑った。
港町に到着した私たちは、朝も早くから活気溢れる市場を脇目に、海鮮丼を食べるために、エルクの資料にあった美味しいと評判の店に入った。
そこはかなり混んでいて、大所帯の私たちが入れるか心配したが、店のおばあちゃんが気を利かせてテーブルを動かし、特別席を作ってくれた。
「ありがとうございます」
私は礼をいって、みんなで席について、一番人気の海鮮丼あら汁セットを頼んだ。
「アラ汁は簡単そうで、意外と難しいんですよ」
おばあちゃんが笑みを浮かべた。
程なく運ばれてきた料理を食べ、店の外で待っている次のお客さんのために、早々に席を空けて店を出ると、私は久々の海の光景と潮の香りを満喫した。
もうそろそろ早朝から朝に変わる時間で、水平線から上る太陽をみていると、自然と笑顔になった。
「なに、侍女ちゃん大満足?」
マンドラが笑った。
「うん、これがいいんだよ。慣れちゃってるせいかな」
「そっか、いいね」
マンドラが私の手を握った。
まるで、仲良し姉妹のようになった私たちは、しばらくして歩き始めたマンドラに続いて歩き始めた。
「散歩散歩。ねぇ、養子縁組して姉妹になってっていったら、嫌? なんてね、私は王家を捨てたから。毎日そんな話ばかりだったよ。嫌なこったって感じ!!」
マンドラが笑った。
「そ、そうなんだ」
「うん、王家は常になにかあったら次って感じで容赦しないよ。今頃、私の王位継承権は妹に回ってるはずだね。だから、ただの市民!!」
マンドラが笑った。
「ただの市民にはなれないよ。王族は王族だから。でも、大変そうだね」
「うん、基本的に城に缶詰だから息苦しいし、たまに出かけるってなったら護衛の隊列付きなんだよ。だから、嫌気がさした。さすがに嫌だって!!」
マンドラは笑った。
「だから、中庭に散歩で我慢していたんだよ。今みたいに、侍女を連れてね。いっておくけど、ホントに侍女だと思ってるから。なにも出来なくても、他がやるからよし。もし城に連れ戻されても、絶対放さないからね」
マンドラが笑みを浮かべた。
「そう……大変な事になったなぁ」
私は笑った。
「いわば、私のペットだぞ。可愛がってあげる。なんて、冗談だけど、服選びくらいはやらせるから、バッチリ決めてね。まあ、戻されるハメになった時だけど!!」
マンドラが笑った。
「さて、朝日浴びてすっきりしたし、今度はどこに行きたいの?」
マンドラが笑みを浮かべた。
「うん、海は見たから山かも。登った事はあるけど、おばあちゃんの家の裏山だからね」
私は笑った。
「それじゃ、私の別荘でもいこうか。誰にも内緒で買った秘密基地だよ!!」
「それいいね。そこにしよう。エルクに調べてもらおう!!」
私は笑ったのだった。
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