第12話 過去編⑤:浅影透夜
名前も知らない女子高校生と別れた後、俺は急ぎ足で集合場所である川に向かった。
移動しながらも彼女のことが頭から離れなかった。
好きとかとかそういう意味ではないけれど、彼女から出ている独特の雰囲気が気になってしょうがない。なにか思い詰めていたのだろうか? 俺なんかに相談してしまうほどに。まぁ相談っていう内容でもない気がするけれど。
不思議なオーラを出してるとはいえ、容姿は相当レベル高いだろう。いくら可愛くても、生きづらさを感じることはあるんだろうな。誰にでも抱えるものがあるっていう表現の方が正しいか。
また会うことができるか分からないけど、この街で生きていたらどこかで遭遇するかもしれないな。
それよりも今は、俺自身の夢のことについて考えなくてはいけない。
俺が倒れた時に見た夢の内容と全く同じことが起こったわけだけれど、考えられることは二つだ。
一つ目が、未来で起こる出来事と全く同じ夢を偶然見てしまったということ。といっても、夢で一度見てしまったから会話などが若干、夢に寄せてしまっていたとはいえ確率的には相当低いだろう。ただ、普段見る夢とは明らかに違うのだ。倒れた時に見た夢はあまりにも鮮明で、その場にいるような臨場感があった。いくら確率的には低いといっても明確な違いはあったんだよなぁ。
そして、二つ目。こちらは確率以前に現実的に考えてあり得ないけれど、予知夢を見た可能性だ。正直なところ俺的には予知夢なのではないかと考えている。だっていくら確立がゼロではないとはいえ、夢で見た内容と同じことが起こるなんてありえるのだろうか。普段とは明らかに異なる夢を見たというのもそうだし、逆に予知夢が見れたという可能性を信じたくもあるというのが本心だ。もし予知夢が見えたとしたら全世界においても俺ぐらいしかいないのではないだろうか。しかも、未来のことがわかるってことは、未来を変えられる可能性もあるということだ。さっきの女子高生との会話だけでは未来が変わるかを試せなかったけれど、もし次に夢を見ることができたら試す価値はあるだろうな。また見れるかなんてわからないけど。
とりあえず今は女子高生のことも夢のことも考えてもしょうがない。考えたところで現実は何も変わらないし、楽しむことだけ考えよう。もうすぐで幸太との集合場所である川に着くしな。
「透夜ー!」
先に着いていた幸太が俺に気づくと声をかけてきた。周りにはクラスの友達が何人かいるし、幸太が呼んだのだろうか。
「遅いぞ透夜。 みんなも呼んどいたぜ」
みんなを呼んどいてくれたのかたまにはやるなこいつも。
「遅れたといっても数分だろ?」
「遅刻は遅刻だからな。まぁそんなことよりも早く行こうぜ!」
クラスの奴らもいるし今日は楽しくなりそうだ。
「そうだな」
みんなに続いて俺も駆け足で走り出した。
一応、後で幸太と二人で話すタイミングは作りたいところだ。女子高生との会話と夢のこと。このことは幸太には話しておきたい。
しばらくみんなと遊んで昼になったタイミングで一度解散することになった。俺は昼ご飯を食べに帰ることにした。みんなも同じだろう。幸太とは変える方向が一緒だし、途中まであの話をするか。
「幸太も家に帰るだろ?」
「何人かこのまま残るみたいだけど、透夜が一回帰るなら俺も帰ろうかな」
「別に俺に合わせなくてもいいのに」
「それにおなか減ったしね。一緒に帰ろーよ」
これで、幸太に話せるタイミングが作れるか。といってもどこから話を切り出そう。昨日の女子高生の話をするにも、夢の話をするにもあまり信じてもらえなさそうなんだよなぁ。
「あ、荷物とってくるから少し待ってて」
俺は来るときに買ったペットボトルくらいしか持ってきてないけれど、幸太は色々と持ってきてくれたからな。おかげで川では十分すぎるほど楽しめた。
「わるいね。待たせた」
「よし。帰るか」
「おう」
幸太との分かれ道はだいぶ時間がかかるだろうし、ゆっくり話せばいいか。
少し歩いてみんなから距離が取れたのを確認してから早速話題を切り出した。
「昨日の話なんだけれど、夢の話しただろ?」
「あぁ、あれね。女子高生と会ったって言ってたやつだろ? それが話したくて今日はそわそわしてのたか透夜は」
もうあまり中身が入ってないペットボトルに口をつけ、一気に飲み干す。
「いいだろ別に」
幸太は口角を上げてから口を開く。
「それで? なんかあったのかい?」
にやにやしているが無視して話題を切り出すことにした。どうせなんか俺が面白い話題でも切り出すと思っているのだろうけど今回に関しては真面目に幸太に話しておきたい。
夢の件か、女子高生と会ったことのどちらの話を先にしようか悩んでいたが、どちらから話してもややこしくなることはないだろう。まぁ女子高生と会った件からでいいか。
「お前が驚くようなことが色々あったけどまずは、昨日俺が夢の中で見た女子高生と会ったっていう話だな」
幸太の表情はニヤニヤとした顔から笑顔に変わる。
笑った顔で笑顔。だけどあれは俺を若干バカにしている笑いだ。
幸太のこの表情はよくやるから今更ムカついたりし、もう慣れた。
「まさか現実になったって言いたいのかい?」
ハハッっと笑いながら幸太は言う。
「そうだけど? 追加して言うなら夢で見た内容と全く同じことが起こった」
「そんなこともあるんだね世の中」
「本気で信じてないだろ……。ほぼ予知夢を見たようなもんだからな?」
しばらく幸太は顎に手を当てて考える。さっきまでのにやけた顔は消えていた。
「……マジなの?それ」
「至って大真面目だよ」
幸太は急に立ち止まって何を言い出すかと思えば目を輝かせながら口を開いた。
「それって凄いことじゃないか! 透夜は予知夢をみれるってことだろ!?」
相変わらず感情、表情ともに表現豊かでよろしいことだ。
「まぁ落ち着けって。偶然かもしれないし、もう二度と夢を見ることはないかもしれないからな」
「でも、確かに昨日の透夜の様子はおかしかったよね。夢と現実が区別がつかなくなってしまうほど女子高生との出会いが鮮明だったってことだろ?」
あの時も幸太は俺が暑さでおかしくなってしまったと思っていたのだろう。だけどこれで事実が証明された気がして、なんとなく気分がいい。
「そうだよ。そして今日、川に来る前にその女子高生と夢と同じ場所で出会ったんだ。もちろん相手は俺のことなんて知らなかったけど、切り出した話題も話した内容すらも夢と同じだったね」
「それはもう完全に予知夢だよ! しかも、未来がわかるってことはもしかしたら未来を変えられる可能性があるってことだろ?」
「俺も同じことを考えたけど、それについてはまだ分からない。試したわけでもないし、これからまた予知夢を見れたとしたら試す価値はあるな」
「もし未来を変えられるとしたら、透夜がとんでもない存在になるってことだぞ……」
幸太の言うとんでもない存在というのはよく分からないけど、仮に未来を変えられることができるとしたら興味本位で踏み込んでしまっていいものなのだろうか。誰かの運命を変えてしまうことがあるということだ。それは、その人にとって救いになるかもしれない反面、最悪の場合死んでしまうことにつながるかもしれない。
「それは俺も思った。もし、次に予知夢が見れたとしても未来が変えられるかを試すのはよく考えることにするよ」
幸太はうんうんと頷く。
「そうだね。透夜のことだからそこら辺は信用しているよ。それにしても透夜が予知夢かぁ……もう超能力の類じゃないのかい?」
「実感はわかないし、確定したわけではないけどね」
幸太にしかこんなこと打ち明けることができないな。言ったところで他の人は信じてくれないのが目に見えているけど。
「あ。そうだ」
「どうしたの? まだ何かあったのかい?」
「いや、こんな話は幸太にしか打ち明かせないなとか考えてたんだけど、それで思い出したことがあるんだよ。女子高生が俺に相談してきたから、初対面の俺なんかでいいんですか?って聞いたんだ。そしたら初対面だからこそって言ってたんだけど、幸太もそう思う?」
幸太は顎に手を当てながら考える。
「うーん……。相談の内容にもよるけど、やっぱ親しい間柄だからこそ打ち明けられないことってあるんじゃないかい? 例えるなら、今の透夜の予知夢が見れるかもしれないって状況を親に言うことができる?」
「確かに……。言われてみればそうだな。特に俺の親に言ったところでおかしがられるのが目に見えてるな……」
「変に思われたくないとか、それと似たようなものなんじゃないのかな。本当のことを打ち明けるのは勇気がいるんだよきっと」
幸太は普段は調子に乗りやすいタイプだけれどこういう時にしっかりと自分の考えを真面目に伝えてくれるんだよなぁ。だからこそ俺はこうやって相談ができるのだけれど。
「なるほどな。なんとなくその女子高生が思い詰めてた感じがしたから気になっただけなんだけどな」
「けど、透夜はえらいね。見ず知らずの人間にそこまで考えることができるんだからさ」
そんなことはないと思うけれど、なんとなく返事は返さなかった。
いつもは見飽きた緑だらけの田舎道も今日は早く感じる。
その後、幸太とはくだらない話をしながら別れ道で別れた。また午後に会うけれど。
幸太との別れ道の先にはあのバス停横の自販機がある。またあそこに寄って飲み物でも買うか。
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