魔女ベアトリーチェは辺境伯であるウィリアムにかかった魔法が解けた事を知ったのはつい最近の事であった。

ベアトリーチェは人気のつかない山奥に住んでいた。そこで毎日、単調で退屈な日々を過ごしていたのである。

気に入った人間の男、ウィリアムの心が落ちるまでの悠久といってもいい時間をそこで過ごすつもりであった。

一軒家で時間を潰す毎日であった。必要な家事は使い魔がやってくれるので快適な生活であった。

ベアトリーチェは窓辺で本を読み毎日であった。美しい顔立ちの少女ではあった。だが、その表情には人間味というものを感じられない。

その上に何年経ってもその容姿は変わらないのだ。彼女が魔女と言われる所以である。

そこら辺一帯は魔女が住まう場所という事で大層恐れられていた。

「あら？　これはどういう事なの？」

　それはいつも通りの日常のはずであった。ベアトリーチェは窓辺で本を読み、紅茶を飲む。退屈で単調ではあるが、優雅な日常を送っていた。

　全ては気に入った人間の男、ウィリアムの心が落ちるまでの退屈凌ぎであった。無限ともいう時を生きられる魔女ベアトリーチェにとってはどんな長い年月だったとしても一瞬の事でしかない。

「おかしいわね……私のかけた魔法が解けるはずがないというのに」

ベアトリーチェが辺境伯ウィリアムにかけた魔法が解ける条件は二つだけだ。ひとつはベアトリーチェが魔法を解くこと。

そしてもうひとつは野獣のような姿となったウィリアムを愛する女性が現れたという事。

前者が否定される以上後者以外にはありえないのであった。

「まさか、あんな化け物のようになったウィリアムを心より愛する女が現れるなんて」

魔女ベアトリーチェは薄く笑う。その目は笑ってこそいたが、確かな殺意と悪意が込められていた。

そして何より、呪いの魔法が解けたウィリアムは彼を愛する女性と仲良くやっているという事であった。

そのことに対して魔女ベアトリーチェは嫉妬で狂いそうになっていた。

「許さないわ……そんな事、絶対に、絶対に許さない」

魔女の嫉妬の炎は大きかった。人一人簡単に焼き殺してしまえる程に。

どうやら物語はこのままハッピーエンドというわけにもいかないようであった。

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