第36話 ギラギラ・ウルフ8


 タカは、手に入れたばかりのカードを「ほら、受け取れ」と言い、陸に手渡した。


 陸は「よっしゃぁ!」と言って受け取り、カードにプリントされたギラギラ・ウルフを見ると、目をつぶり大きなため息をついた。


「なんでそんな顔するんだよ。嬉しくないのか?」


「……このカード、三枚持ってる。四枚もいらない」


「あんた、あれだけ目を輝かせて欲しいって言ってたでしょうが!」


「お店でかざっているのを見るのと、家で見るのとでは違う」


「まだ店の中なんだし、嘘でもいいから嬉しそうにしてくれって」


 タカは皮肉ではなく、本音である。


 陸はタカの懇願こんがんの表情を理解したのか、「わかった」と言うと、一度舌打ちをした後に、満面の笑みをタカに向けた。


「舌打ちいらなくないっすか」


 タカはたじたじである。


 タカと陸は、目的の「ギラギラ・ウルフのパンツ」を取り扱っている店舗、というよりは屋台へと到着した。


 目的の屋台の店主が、「いらっしゃい! ウチで買った衣服を身に着けて外を歩けば、周りから指を差されること間違いなしでっせぃ!」と、どう受け取ったらよいのか判断しかねる接客をしてきた。


 タカは、店主の言った事を疑問に思った直後、「えっ!?」と驚いて店主の顔を指差した。


「どうしたんでぃ、いきなり大きな声なんか出せぇってぃ」


 店主が目を丸くしてそう言うと、タカだけではなく陸も同じように驚いていたらしく、店主を指差して、「さっきのおじちゃん!」と大声で言った。


 タカは「掛け持ちしてるの?」とききながら、先ほどのトレーディングカード売り場のほうに視線を移すと、半ば強制的にカードを売りつけてきた店主が、客に商品を手渡していた。


「双子なの?」と、タカは子供衣料売り場の店主に向かって問うた。


 すると店主は、「馬鹿ばかにしてるんかい!」と怒鳴りつけるようにして言った。


「目の前ででかい声出すなって、うるさいって――てかそっくりだろ」


「当たり前でしょうが! 兄弟なんだから、似ているに決まっているでっせぃ!」


「やっぱりそうなんだろ! なんでキレてんだよ! 双子なんだろ!」


「ふざけるない! どこを見て双子なんて言っているんでぃ! あんたの目は節穴かい!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る