第10話 底辺志望・男『T』10


 そこに居たのは、宙に浮いた坊主頭の、小学生前であろうかと思われる男の子の姿であった。


 タカは、目に映る得体の知れない人物を凝視している。


(男の子? 日本人? 坊主頭? フルヌード? 羽? 浮いている? ……まさか神の子的な? ……だとしたら、オレの心の声が聞こえていてもおかしくないよな。よし――おい! いがぐり頭のクソガキが! 飛んでいるくせに羽が全く動いていねぇじゃねぇかよ! 羽はえてる意味ねぇじゃん! 出直して来いって! どうだ――)


 タカは直感で、この宙に浮いた男の子が神様関連の人物だと考えると、心の中で悪態をついて反応を伺った。


 すると、タカの直感が当たったかのようなタイミングで男の子が口を開いた。


「キミの考えていることならお見通しだよ。そうさ、ボクは紛れもなく、キミがいま心の中で思った“天使てんし”なのさ」


「――何もわぁかってないのに、発言しないでくださぁいよぉ!」


 タカは宙に浮く人物が哀れだと、思わず庇護するようにツッコミらしき発言をした。


「空なんか飛んで、オマエ、いったい何者だよ」


「だからボクは天使なのさ」


「嘘つけっ! ――まぁいいよ。オレがきいているのはオマエの名前だよ」


「……サラ・ペン」


「ウソつけ! 思いっきり日本人じゃねぇかよ。それに今の間はなんだよ。即席で考えただろ」


「……タロウ」


「何で嘘つくんだよ、いい名前じゃないかよ。天使が嘘なんかついていいのかよ」


「悪かった」


 タロウはボソッと嘘をついたことを詫びた。


 タカは、タロウが本当に天使なのか判断しかねていた。


 タロウの言動によるものからというよりは、その見た目からである。


 背中からはえている羽に全裸、幼い子供というところはタカが思う天使像と重なる。


 だが、黒髪の坊主頭に顔立ちがどっからどう見ても日本人だというところが、どうもしっくりこないでいた。


 タカが思うに、金髪のミディアムヘアに欧州の子供というのが天使のイメージだからである。


「──たとえアンタが天使だとしても、オレには関係ねぇんだよ。いったい何の用だよ!?」


 今は他人の肩書きなんかよりも、自分の身に起きていることである。


「なんだ、その口の聞き方は」


 タロウは冷めた口調でそう言うと、無表情でタカの目を凝視した。


「……あなた様は、何をなさりに来たのでしょうか!?」


 根が小心者のタカは怖気づき、へりくだった言葉で言い直したが、自分のプライドを保つために口調こそは強気を維持していた。


「……」


 タロウが一向に目をらそうとしないため、タカは子供の冷たい視線に臆して、あっさりとプライドを捨てて満面の笑みを作って連続でウインクをし、親愛なるタロウさんへを取り繕った。

















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