第5話 底辺志望・男『T』5

 タカは自室に入ると、全身が映る大きさの壁掛け鏡の前に立ち自分の姿を見た。


「くそっ! 何であいつらオレのこと怖がらないんだよ……お腹か?」


 タカは原因がそこにあると思うと、着ている白色のTシャツをめくってお腹を出した。


「くそっ! なんだよこの可愛いお腹は、マシュマロじゃねぇか」


 タカはカーペットが敷いてある床の上に仰向けになると、怒りの腹筋運動を開始した。


「一ちくしょう。二ちくしょう。三ちくしょう……二十八ちくしょう。にぃじゅうき、あぁん」


タカは怒りの腹筋運動を終えると、苦しそうな顔をして立ち上がって鏡の前に立った。


「なんだよ、三十回もいかないのかよ」


 タカは目標の回数に届かなかった自分自身への怒りから、「タカタカ」へと覚醒かくせいした。


 身にまとっている衣服を全部脱いで全裸になると、鏡の前でクルッと三回まわって、親指を立てて「いいねサイン」をした。


 そしてタカは着せ替え人形のように、いちど脱いだ衣服を再び身に付けて、鏡に映る自分の姿を見た。


「いいじゃん、可愛いじゃねぇかよ」


 タカは、思わず自分のマシュマロボディを見て顔を赤らめた。


 そうこうしているうちに三十分ほどが経過して、一階に居る母からスマートフォンに電話がかかってきた。


『ごはん出来たから下りてきなさい!』


『おう、いま行く、てか聞こえてるよ。電話必要なくねぇ?』


「それもそうね! 早く下りて来て温かいうちに食べてね!」


「おう!」


 タカは電話越しからではなく、一階から直接聞こえてくる母の声に対して、ダイレクトに下の階に聞こえるボリュームの声で返事をした。


 タカは部屋を出て一階のリビングに行くと、ダイニングテーブルの上には一人ぶんの海鮮チャーハンと中華スープが用意されていた。


「カレーじゃないんかぁ~い」


 タカは思わず垂直に跳び上がりながらそう言った。


「結局チャーハンじゃねぇかよ。カレーじゃなかったのかよ」


「文句言うんじゃないの。食べるの食べないの」


「食べるよ」


 タカはスプーンを手に取ると、朝から何も食べていなく空腹だったため、勢いよくチャーハンにがっついた。


「おかわり!」


「はいはい。美味しいかい」


「めっちゃ旨い。これなら五千円払える」


「調子のいいこと言っちゃって、お皿貸しなさい」


 タカは空になったお皿を母に渡すと、智子は先ほどよりもチャーハンを多めにお皿に盛って息子に手渡した。


「はい、五千円ね」


「息子から金取るのかよ。てかどこのカリスマシェフだよ」


「冗談よ。もうおかわり無いけどまだ作るかい?」


「頼んだ、もう一杯行ける」


 結局、タカは計四杯のチャーハンを食べ終えると、満腹で少し苦しそうにしながら、リビングにある三人掛けのソファーに倒れ込むようにして仰向けになった。






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る