解決編
「彼の地の境涯に置かれましたのは九魂流転の宿命を断ち切るためでございます。
装置は十分。
西の社に御座しますは、我らの神なり。
東の庵に御座しますは、我らの運命の
導き手なり」
―久遠『四辻町四丁目の朱雀庵』(某作家レビュー)
「さて、重要なデータがすべて揃ったことにより一つの論証が導かれました。この一連の事件の幕を降ろしましょう」
こめかみに突きつけた人差し指は探偵自身の知能の高さをアピールしているようだ。
だが、犯人にとっては脳髄の裏側に結んだ像を糾弾する銃口と化していることだろう……
ボクは固唾を呑んだ。
犯人は
指差す先に居る人物は………
雨宮さんだった。両隣の座っていた部長と五反田さんが立ち退く。
「……どうして僕だと」
「判ってしまったんですよ」
とりあえず順を追ってこの物語を
近代映画の祖―
彼は歌舞伎―
きっと日本人には相性も良いでしょうし。
それに加えて
さて、と探偵は云い置く。一堂は黙って見つめる。
物語は生き別れの兄妹から始まります。
その兄妹は元々の趣味・嗜好が似通っていたのか
ネットで募ったオカルトサークルで再び出会います。妹の方は幼い記憶だけが頼りで、兄とは気づかず接していたことでしょう。ただし、初対面にも関わらず
「初めて会ったような気がしない」
と云っています。
けれど……雨宮さん
貴方は異がった。これだけの犯罪をやってのけるような貴方だ。すぐに殺してやりたいと思ったでしょう? 美希さんを? いいえ。違う。美希さんにまとわりつく無粋な蝿をです。ええ。八ヶ谷さんと登美沢さんをですよ。
彼らには危なげな雰囲気が漂っていましたから。
オカルトサークルのオフ会で集まる中で、彼らの趣味や嗜好も吸収していった貴方は、とあるオカルトスポット探索で狂気の根が芽生えてしまったのです。
そう―この幽美留館を先に半年前に訪問した貴方は、窓から視える利用客に幽霊と間違われましたね?
「……なんで、そうなるんです。厭だなあ僕が幽霊だなんて」
幽霊が出るとの目撃は多岐に渡るらしいのですがその情報は霊と呼ばれるには一貫されすぎています。
曰く……20:30〜21:00頃
曰く……週末の金曜日
曰く……細見である
曰く……遠目で視ても確認ができる
視力の乏しい客からでも姿が視えたらしい。
遠目で視ても確認できる特徴。
そう身長ですよ。この中の人物で私含め身長を陳述していきます。
①有象・東雲・美希・部長―小柄
②八ヵ谷―背は男性の平均的な高さ。筋肉質
③登美沢―八ヵ谷に比べて やや背が低い
④五反田―恰幅がいい
①は除外ですね。小柄ですから
②も除外。細見ではありませんし、長身ではない
③……②と同じく
④も条件が合致しません。
そしてこの中で唯一霊と符号が合うのは
雨宮さん。貴方だ。
⑤トランクの中で膝を折り曲げて横たわっている。
「……それがどうしたんですか」
見苦しいですよ。雨宮さん。
複数人乗りの一台車で来られてるんですよね。そんな大きい車で
荷物があるとはいえ窮屈に折りたたまなければいけない長身だ。細見でもある。
話をつづけましょう。
貴方は幽霊と間違えられてある晩逃げ出した客の
無人となった館を訪れた。そして水晶振子時計台の
扉を開けたのです。
その扉の下部には二体の神が御座した。その神を貴方は、こともあろうに手中に収めた。手入れが行き届いてない館です。
時計台の扉の中も玉も埃で汚れていたに違いません。東雲くんが館内を初めて訪れた時に時計台扉の下に
∞の埃が積もっている跡を見つけています。
あれは
球体が隣同士に置かれていた証拠ですね。
それと、この時計の文字盤には運命の女神が象られています。その同じ場所に神が居ないハズはないのです。
それを証拠に館内の他には見当たりませんでした。
では……何故……中世暖炉の上に置いてあったのでしょうか?
そう、貴方は一度、この神々を持ち出した。
最初はほんの悪戯心からだったのかもしれませんね。この館内で唯一移動可能な神であり、貴方が使役する邪神と対立関係にある宇宙創造の神々でしたから。北欧世界の最重要な神々しさの意匠を一度取り払った。
が、その後貴方はこの神々を陥れ、なおかつ利用する手立てを思いつきます。
そしてある恐ろしい計画を思いつきます。
それは仲間内で頻繁に出る特撮ドラマのお話を利用したものでした。
そして、サンタさんを今でも本当に居ると信じる八ヵ谷さんを
二つの玉を奪い合い殺すための計画。
そう妹さんを守るために。しかし、個人的に二人に
話を持ちかけ渡してしまったらいいのでは?
皆さんそうお考えになるやもしれません。
でも、それでは雨宮さんにとってはそれだけでは意味を成さないのですよ。他の男性の目にも触れるなければ、警告の意を成しません。
それで、貴方は考えた。
一度持ち帰ってみたこの宝石。
オフ会で空き家同然となっている館だ。
出入りはいつでもできる。彼らの合宿先に
提案し、彼らの目に留まる場所に置こうと。
「で、置いた理由だ」
いいえ。部長さん。真相は違います。
置けなかったのですよ。
幽霊の噂があまりに有名になってしまったので、利用客は必ず
玄関に鍵をかけるようになっていた。
幽霊の正体は人間だと端からアタリをつけてはいたのですが、出現頻度を考慮すると、社会人? 学生? それとも時間の融通が最も効く不老所得者orプー太郎と考えたのですが、一定の時間に顕現れるということを推理の支点に持っていくと幽霊が実際に顕現れていない事とこの館内の人物に限り
社会人であり、かつ学生である人物が最適解と導きました。
金曜日の夜―唯一の自由な時間に貴方は此処を訪れました。しかし返そうにも返せない。貴方は焦りました。
待ちました。半年間。何回、何回とその身を晒し。
ベンサムが考案しフーコーが説いた『
初めての訪問の時のように期待をかけて。
そしてその
何故? 合宿初日……金曜日に霊ると噂される幽霊がその日、霊なかったのか。判って頂けたでしょう。
それは雨宮さん貴方だからなんですよ。
そして、霊が出現する必要性はもうありません。
館に玉を返すという目的が日中には果たされていたんですから。貴方を除いて他の部員は月一のオフ会には出席していた。
貴方はじつに半年ぶりだったんじゃないですか? この期間は幽霊出現と符丁が合うんですよ。
事実は小説より奇なりとはこのことですね。
そう―なんと美希さんが霊の噂を仕入れてしまいました。オフ会場所に提案しました。可決しました。
鍵は―そう父親のコネクションで貸し出してもらえたのです。貴方のその時の喜びはさぞ嬉しかったでしょう。けれどたちまちその喜びは萎みます。
持ち出したモノを返すには困難がつきまとうのです。まさか、
自分が盗ったとは云えません。八ヵ谷さんの神秘性への探究心を削いでしまいます。
自分が
幽霊の正体だったなんて云えないのです。この企画と殺人計画そのものを潰してしまいます。
そう焦った貴方は大事に大事に当日の服の中に仕舞いました。
貴方は車に酔いますね。それを逆に利用したのです。でもこれは良かった。何故なら
途中の休憩所でまさかの妹さんがお兄さんのバックを自分のモノと間違えただけではなく失くしてしまうハプニングがあったのだから。
そのせいあって
服の中にずっと仕舞うハメになったのです。
東雲くんの日記にはこうあります。
五反田さんとのカメラのセッティングの場面で
「雨宮さん、思ったより重かった」と。
これは玉を持った八ヵ谷さんと登美沢さんの描写からも伺いしれます。
「思ったより重いなあ」
そう重いのです。ただでさえ、東雲くんは女性なので男性を担ぐのは重いハズ。けれど想像以上だった。そうそれは、二体の神を有していた貴方だったからだ。そうして館に着いた貴方は真っ先に部屋へと歩いてましたね。錯乱したのか、はたまたトイレでも探しに行かれたのかと一行は思っていました。でも可笑しくないですか。後者は置いておくにしても前者は。嘔吐(えづ)いている余裕のない人間が
わざわざ階上へ上がりますかね。
雨宮さんは
一度訪れた事があったからこそ、食堂へ向かったんです。
そして食堂の中世暖炉へやっとこさ神を並べる事に成功した。
けれども、いささか神秘性を欠いています。
何故なら中世暖炉の天板が埃まみれだからです。
貴方はその埃を払う事で神秘性を勝ち取るのに成功しました。けれどもそれは引き替えだった。
そもそも神を収めている場所にはあまりに不釣り合いなレイアウトであること。
それと同時に
手入れされていない他の調度品と違うイメージにその場所のみしてしまったこの二点が。
その後は、館が膨張するわ、探偵は登場するわ、挙げ句の果てには警告を訴えるわで冷や汗の連続だったでしょう。
けれども計画は周囲の狂気を
思えば
暖炉に目がいくように話を切り出したのも貴方でしたね。
その場面で貴方は
「二体の玉」と云っている。
これも可笑しいですよ。確かに球体ではありますが
普通は二つなどと云うべき表現であるハズなのに
貴方が北欧の神である事を識っていた証拠です。
そしてドラマのお話を
目の前で再構成させたのも貴方でした。
登美沢さんが紅玉を奪った時に
負けじと奪る八ヵ谷さんを見て確信すら抱いたことでしょう。八ヵ谷さんは、必ず登美沢さんを殺すと。更に拍車をかけるように仕掛けも施して。
彼のゼナー・カード……
盗んだのは貴方なんでしょう。
そして美希さんを使い八ヵ谷さんのズボンに
珈琲を溢させた。
鑑賞会の最中、我々は中座しています。
貴方はその隙に着替たズボンのポケットに
『2』と書いたカードを忍ばせたんだ。
では、残りの三枚のカードは?
一枚は雨宮さんが『1』と書いて保管しておき
残りの二枚は登美沢さんの部屋か荷物の中にでも
置いておいたのでしょう。
何食わぬ顔で貴方は
「登美沢さんが八ヵ谷さんのカードを持ってるのを見た」とでも云えば操作は可能です。
二人とも用心してないせいか部屋に鍵はかけていない為、立ち入りは至極簡単だったでしょうし。
八ヵ谷さんにとって大事なカードですものね。
過去に五反田さんのカメラを失くしている登美沢さん。売ってつけの役割だ。
加えて高校卒業から暫く音信不通となっていた
過去のトラブルが殺人動機に拍車をかけた。
八ヵ谷さんにはそれと別に殺人を早めるハプニングもありました。
館が膨張する
諸条件の1つに翠玉・紅玉も含まれていたからです。特撮ドラマの内容では、身体の
どうしても人体に入れるサイズでなければならない。
時間は刻一刻と刻むにつれ、サイズにも変化が生じます。貴方は八ヵ谷さんにそう入れ知恵をしたんだ。
きっと
計画通りに進めた貴方は、八ヵ谷さんに逃げるように促した。
八ヵ谷さんも元々、貴方に操作されていた部分が大きいので藁にもすがる思いで云う通りにしたのでしょう。
そして次の段階も雨宮さんの思惑通りに運んだのです。
どうせ、この雪の中、乗ってきた車を運転するのは危ない。パニックになってるから、
一旦どこかへ身を潜めておくだろう。どちらにせよ山奥だ。凍死せざるを得ない。そう判断を下して。
予想通り、八ヵ谷さんは車を使うという選択をしませんでした。正面玄関から八ヵ谷を逃し、鍵をかけた。
では、残る遺体はどうするか。貴方は鎖を登美沢さんの首に巻きつけました。あたかも首吊りが直接の死因であると偽装したのです。喉の傷痕は膨張する鎖と死後硬直を利用して隠せることを計算に入れて。
けれども肝心の鎖は遊びが効きすぎており首吊りに見せかけることはなかなかできません。
そこで、正面玄関から溜まった雪でポールか何かを
私の膨張率の原理を用いて計算を行った貴方は、
例え、氷が溶けたとしてもその頃には井戸が在ることまでも頭に入れて。
事実、結果はそうなりました。
そして、2:05分頃、美希を証人へと仕立て上げます。眠っていた彼女は何者かにドアを叩かれたと彼女は云っています。確かに外からの音は中に居る人間には聴こえます。ですが
室内の人の動きはドアを隔てた外からは全く聴こえません。
私が東雲くんと実際検証していました。そんなタイミングで鉢合わせたならば犯人にとっても偉いことです。犯人が美希さんを第一発見者に仕立てあげるにしては余りに
いいや、計画という言葉が正しいかすら判りません。ましてや、昨晩の解散時に東雲くんから何があってもドアを開けるなと忠告を受けています。その時、美希さんは警戒している男性を丁寧に読み上げてさえいたのです。その中に東雲くんは、勿論のこと、有耶無耶な云い方で濁していますが雨宮さん。貴方もカウントされてないのです。
「つまり、それはどういう」
そういう事なんだよ。東雲くん。
彼女は、前もって証人に仕立て上げることを雨宮さんから頼まれていたんだ。いや、正確には彼女は殺人があったなんて知りえなかったかもしれないが。
それはもう一つの事実を浮き彫りにする。それはドアを開けたのは美希さんが警戒を緩めれる唯一の男性。それは、彼女と家族や友人以上の男女の間柄である事に他ならない。
人類初の言語の起源『バベルの塔』崩壊後のセム言語からなる
シンプルな感情に基づく。
そう―
そして、愛ゆえに彼女は我々を……君を欺いた。
二階には気をつけろと云っただろう。
重要な橋を守護する番人にでもなった気分だったと思う。
けれどその橋は―
「もういい!! 次に進んでくれ!!」
ボクは、心の底から言葉を捻りだした。
少し
そうしてその夜、お互いがお互いを監視する私の策で不安な夜を過ごしたことは皆の記憶に新しいと思う。実は私はこの時点で薄々、
犯人は判っていました。あからさまな殺害動機を持たない人間は怪しいのです。だからこそ、リスクを冒してまで犯人と一夜を過ごすように策を打った。
犯人は残る生存者である―
①私
②東雲くん
③美希さん
④部長さん
⑤五反田さん
は殺さないだろうと思っていたから、事実組み合わせは誰でも良かったのだけれど。
「何故そう云えるんだ」五反田さんが反論を試みる。
明瞭りしてますよ。妹である美希さんを守るのが目的だったのですから。
危ない人間はこの中には居ないだろうと犯人には見込みがありました。
そしてあまりにも自分の推理と工作に過度の自信を持ってしまった有象の失敗が新たなる悲劇を起こしました。
人魂の正体に移ります。次から次にオカルト研の神秘を剥ぐのは恐縮でしかないのですが、
第一の事件当夜は吹雪いてました。窓は凍って光が反射し、懐中電灯の光がボヤけて人魂に視えたのです。風もありましたから心霊現象に居合わせたメンバーも窓を開けてまで確認はしてなかったろうと推察されます。
「じゃあ、一体……彼は懐中電灯で何をしていたんだ?」部長が問い質す。
モールス信号ですよ。まさしくライトを利用して
生命の危機にある事を訴えていたのです。わざわざ北側―
山側の方角にまで廻ってそれは
《《居室の窓の位置にあたることと
自分が危機的な場所に身を置いているアピールをする為に大切な場所》》でもありました。そして、
点けては……消し……点けては……消しを繰り返しながら雨宮さんと連絡を取り合っていたのです。
そう―まさしく私が寝入ってしまってる眼前で大胆にも、室内灯を点けては……消しを繰り返していたのです。
合宿二日目で、モールス信号のゲームをされてましたよね。新規の東雲くんは除いて他の部員は全員会得していたとのことじゃないですか。
ましてや
美希さんと親しくなれる手段を雨宮さんが覚えない理由にはいきません。離れていた年数を埋め合わせるかのようにコミュニケーションを育む手段でもありました。それは美希さんを狙う八ヵ谷さんや登美沢さんも含めてですけれども。
まあ、そういった一連の流れで
(凍え死にそうだ……一旦戻れるか……何か云い訳を作って……容疑の外へ出してくれ)
(少し待て……もう少し我慢だ……考える)
等のやり取りをしていたのでしょう。携帯電話さえ圏外でなければ。お互いそう悔やんだかもしれません。
経済学の祖アダム・スミスがその著『国富論』で提唱したこれこそ、
そして創世記の原罪なのか、はたまたマタイの受難といいますかそこへ運悪く部長さんが
人魂に気づいてしまったのです
そこで、通信をやむなく途絶えることとなりました。きっと最後の雨宮さんからの信号は
(折り返す……また落ち着いたら信号を送る)とか
でしょうか。それこそが貴方が悩んだ末、一縷の光明を見出した蜘蛛の糸だったのです。
神の見えざる手は、そのまま歴史を辿るかのように、マルクス・エンゲルスの『資本論』をなぞり、神は貨幣へと転身しました。
ここで云う貨幣は利益を産むモノの衣です。
つまりは、第二の殺人が予測不可能から可視可能性へと
おそらく、あの情況から考えるに八ヵ谷さんの懐中電灯の電池もタイミング悪く消えてしまい、あの吹雪の中、体力を消耗した状態で凍死してしまったのでしょう。東雲くんには先に伝えておいたのですがポケットからはカードの『2』が発見されたそうです。
さあ……最後となりました。
が、此処で少し北欧神話の話をしたいと思います。
勿論事件に多いに関係しています。
(有象が云ったのはボクに初日に教えてくれた内容と殆ど同じだった。違うのは)
雨宮さん、貴方は北欧神話をご存知の様子だった。
「……し、知らないですよ僕は」
おや、声が震えていらっしゃる。
貴方が
自己を規定する事により、その人の哲学や生き様
引いては犯罪も含めて行動原理となるのだから。
それは内なる
自己を規定する0《出発》地点は、近代哲学の祖……ルネ・デカルトが唱えています。
我思う故に―我在り。微分積分の創始者だからこその詞。
X 座標と、Y座標を規定するには、そもそも
最小単位である主観自身の存在を疑ってはキリがないのです―その存在を規定する事には始まらないのだから。
0《ZERO》=
ある作家の比喩を形容すると―曰く―
巨蟹と朱雀の織りなす直線方位へ
交わるは運命の数軸……
我思う故の登場人物がその0地点へと立った時
デカルト座標とは物語だったのだ
と我々は識る。
……そう
これは貴方も免れ得ない無意識の作用です。
その裏付けを今から試みます。
此処から話すのはロキの物語です。
ロキという神の息子は三体居ます。
その内のヨルムンガンドですが、これは頭と尾を呑み込んだ
東雲くん? 君は初めに幽美留館の軒蛇腹を見てこう思ったね。ウロボロスと。あれは限りなく正解に近かったのだよ。そうウロボロスと相似形を成す北欧神話での∞《無限》の聖痕
その名はヨルムンガンド!!!!
雨宮さんは、東雲くんの「ウロボ―」を
受けて即座に「……よ」と呟いてますね。アレはヨルムンガンドだったのでしょう?
これは私も推理に時間を要しました。
判らない事は、とりあえず()
カルトゥーシュに入れました。
奇しくもナポレオンが持ち出しエンポリオが解読したロゼッタ・ストーンの最後の謎みたく。
が、しばらくして違和感に気づいてしまったのです。
何故、云い淀んで、云い換えたのかと。
そして思い至りました。
貴方が悪の化身に加担する人間であることに。
ヨルムンガンドに反応してしまったのは、
オタク気質の悲しい性でしょうか。
細かくて、どうでもいい事だけれど訂正せずには要られない好きなモノへの執着してしまう癖が出てしまったのです。神経質な貴方はそれを無理にでも打ち消した。即座に
「……よくなってきた」と演技なしの不調であるに関わらず機転を利かすことができるのも貴方の頭の回転の速さだ。心底怖れ入ります。
そして……第三の哀しい殺人が起きたのです。
これは先に述べた話と重要な関係にあります。
貴方はヨルムンガンドを敬い、ユミルより、遥か以前の創造神を殺害のアイテムへと変身させた。
そう―貴方はロキの
神々の殺し合いを加担する者。
この忌み子と
確かに、登美沢さんや八ヵ谷さんを殺害する
動機を持つ人間は、この中に東雲くんも入れれば
五人も居ます。
①部長さん
②五反田さん
③美希さん
④東雲くん
⑤雨宮さん
それに加え、
ですが
それも最後の殺人で絞られたのです。
美希さんを封した氷柱を見た時に奇しくも
パズルの最後の1ピースは嵌まり、すべての
謎が氷解したのです。
●私こと有象は耶蘇教を信仰
●東雲くんは次期神主の座を保つ人間
●部長はわざわざこの地に赴く日に仏滅を避けている
●美希さんはどうか? 十字架を肌身離さず大事に着けている
●五反田さん。彼は左手に数珠をつけている
のです。
私は東雲くんに入館後の話を伺った際に宗教者が多い事に気づきました。それで、一か撥かの策を講じましたが、まんまと引っかからなかった。
それは貴方が
宗教に身を寄せる方ではなかったからだったんです。
そして、それは仏具ならぬ、
灯籠を先に抜き道祖神をギミックとして利用した事からも信仰を持たない犯人像が確定してしまうのですよ。
先述した登美沢さん殺し……八ヵ谷さん雨宮さん以外の他メンバーが殺害を成し得ない論理の補強でもあります。信仰深く神罰・仏罰を怖れる人間に殺人はできないからです。
おや? 口を覆ってどうかされましたか。
雨宮さん、貴方は生き別れの妹と交際していた。
当時の面影を残しているはいえ
十数年ぶりの再会は、やはり他人と捉えてしかるべきだったことでしょう。
そして、見事ライバル達から美希さんの身を守りぬいた貴方は、最後に
文字通り自分の
文化人類学者―クロード=レヴィ=ストロースの偉大なる発見、
証人に仕立て上げた時と同様の手口で貴方は美希さんを誘います。メンバーは徹夜のピークで船を漕いでる最中ですし、美希さんは気絶も含め、睡眠を十分にとっています。
貴方は手持ちの携帯電話にでもアラームを設定したのでしょう。電波は圏外でも支障のない機能ですから。そして貴方は美を目的とした心の内に巣食う悪魔の甘言にその身を委ねてしまいました。
―そう北欧神話に魅入られこの館の名にふさわしい美を留めようと思い立ってしまったのです。
独占するは我にあり!!
忌み子と称された土地であろうが、その外観は当時の輝きを秘めたままに。そうこの
そう思って、まだ寒い夜の中、貴方は彼女を誘い込み凍死させるに至った。
「それから館に連れていったのか、美希を」
否―東雲くん。連れていったんじゃあない。
置き去りにしたんだ。道祖神に結わえつけて凍死させ、そのままに。だから氷柱と化した。
「なんだって!?」
そう―館が取り込む諸条件には
だから、計算通り館の膨張とその条件を利用して……
ここまでは東雲くんの日記と美希さんの死体を拝んで判りました。
だがまだ謎は残っている。
何故あの形にしたんですか? 雨宮さん
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます