第五部 第三の殺人 オペレーション・ベルダンディー

「留まれ、お前はいかにも美しい」



―ゲーテ『ファウスト 第一部』(相良守峯・訳)



 1 霊障 四日目         (8:20)


 よく寝た。事件が解決したからか心身ともに軽い。

窓に付着した氷の残滓ざんしから察するに昨晩も吹雪いたのだろう。

もう今日で四日目の朝だ。合宿最終日。

今日で最後。夕方には帰る。

雨宮さんは書記を任されていたけれど、ボクはボクで思い起こしながら日記として綴ろう。

今日の朝まで内容が追いつくと無性に美希に逢いたくなった。ドアを開ける。


 コンコン……コンコン……


応答なし。もしかして―


ドアは開いていた。








        





         (空っぽ)




 

   

 




 階下したへ降りてみる。

階段を怖る怖る降りる。比例するかのように心臓が跳ねる。跳ねる。跳ねる。



逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい。

美希美希美希美希美希美希美希美希美希美希美希。



ふと見慣れないオブジェクトが眼に入ってきた。

水晶が向かって左手―東側の鎖に巻きついている。

厭な予感がする。早鐘が警報へと変わる。

否。

初めからそうだったのだ。

銀水晶には奇麗なままの褐色の肌を持つ女神が道祖神と一体と成り御座おわした。


 ―幽玄なるままに美しさを留めた第四の女神―。









     「うわぁぁぁぁぁぁ」












 オカルト研究部員と有象が四方から駆けつける。

有象はボクを強く抱きしめ頭を撫でる。


「すまない。私のミスが招いた殺人だ」

微かに有象の声が震えている。


「私は君のヒロインを守ることはできなかった。狂気にかられていたのは何も君たちオカルト研究部員だけではなかった。私も自分の意志あらしで留まる選択をしたのだ。だけどこれだけは云わせてほしい。私は君を守れてよかった。《しののめゆめ》」




2 霊障 四日目          (8:35)


 泣きじゃくるボクをどうにか宥めてくれた有象は

ボクの書いた日記に目を通した。

「もっと早く読むことさえできたなら」悔やむ台詞を探偵は吐いた。

「さっきのTVで八ヵ谷さんのポケットからゼナー・カードが出たことを報道していたよ。裏面に『2』とあったそうだ」

「そんな? 遠隔殺人リモートマーダー!? もうボクは判らないよ!! 犯人は超能力者か悪魔なのか?」

莫迦ばか!! 怖がるんじゃない。超能力や悪魔なんてそんなハズはない。遺体は凍っていた。ただの凍死だよ。例え人為的だったとしても。そして、ありがとう。この日記のと美希さんの殺され方を見てやはりアイツが犯人であることを確信したよ。私は君には聞いていなかったんだ。

コレでピースが埋まった」

「本当に?」まだ涙が溢れてくる。


「ああ。殺人内容・動機・被害者が揃って初めてマスターピースとなる図像はあまりにやるせないものだったがコレで終わりだ。

犯人は使その人物は宇宙創世の神ですら、とぼしめようとたばか哲学フィロソフィーの持ち主。結愛。犯人を知りたいならば、皆を―二階食堂へ集めてくれ」











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る