第17話 この世界の大麓マオ
「溫井さんは動けない、そんなに戦いたいのなら私が相手してあげる」
突如として現れた大麓マオはストーカーヤンキーに向けて、そう言い放った。
アタシの代わりに? なんで? メリットどころかデメリットしかないんですけど?
「はあ!? ふざけんな!! 部外者は黙ってろ!! 誰がお前と戦うか!!」
「あら、怖いの? だから、自分が勝てる状況でないと戦いたくないわけ?」
「ああん!?」
「そうでしょ? 聞いた話、貴方、溫井さんがバトルすらした事がない新人だったから勝負相手に選んだそうじゃない。
勝てると思ったからでしょ? でも結果は・・・・・・。ふふ。」
「テメエ・・・・・・」
「私、本当の事しか言ってないわよ? 気に障ること言った?
それに絶対に勝てると思って勝負を挑むような奴に寧々子さんは一生認めないわよ」
挑発しちゃったよ、この人!! 内容は本当の事だけどさ。
うわ~、ストーカーヤンキーは怒りのあまり体が震えてる上に凄い目つきになってるんですけど・・・・・・。正直言って、今のヤンキーは怖い。
殺さんばかりに睨付けられてるにも関わらず大麓マオは冷静に冷めた目で見てる、この世界の大麓マオは原作以上に静かな人だ。
「で、戦うの? 戦わないの?」
「やってやる!! やってやるよ!! ギッタギタのボッコボッコにして、その気にくわない面に一発いや百発喰らわしてやる!!!!!!」
――彼奴、本当に救いようがないな・・・・・・。
――勝てると思ってんのか? 相手はあの大麓マオだぞ!?
――マオ様~♡ 頑張って~♡
――マオお姉さま~♡ 負けないで~♡
観客達はストーカーヤンキーを憐れむ声と大麓マオの声援に分かれてるな。
原作でも女性ファンは居るけど、この世界でも居るんだ。雪野マフユの時以上に黄色い声援が多いような。
「決まりね。マフユくん、溫井さんを安全な所へ」
「解りました! ホノオさん、ボクの手を取って」
「は、はい」
観客席の女性客から羨ましい~って声が聞こえてくる。
後で呼び出しとかされないよね?
「待って、溫井さん、貴方の大事なパートナー、ほったらかしちゃダメよ」
「あ・・・・・・」
大麓マオに指摘されてムギがそのままだったのを思い出す。
そうだ、アタシは負けたんだ。雪野マフユに。
ムギを負かせてしまったアタシがムギに触れてもいいの?
ヒバナとの約束を破ったくせに、このまま会いに行ってもいいの?
そう思うと手が動かない。
ヒバナ、ごめん、ムギ、ごめん、アタシは・・・・・・。
「ほら、ボーとしてないで」
溜息を吐きながら大麓マオがアタシの代わりにムギを拾って渡す。
アタシの掌にムギをソッと載せると、アタシの手とムギを両手で包み込む。
「溫井さん、これから話す事は年上の戯れ言だと聞き流してもいいわ。
一度負けたからって、全てに絶望しないで」
「・・・・・・大麓さん」
「彼奴、ユウマに負け続けてる私が言うのも説得力ないけど。
正々堂々と戦ったんだから妹さんは、きっと労りの言葉をかけてくれるわ。お姉さんが負けた事に悲しんでると思うけどね。
だけど、気に病まないで次に進みなさい。一度でも深く入り込んだら二度と勝てはしない」
「・・・・・・・・・はい」
「ふふ。暗い顔しないで、頑張って。
さて、待たせちゃ悪いわね。マフユくん、もう一度言うけどお願いね」
「はい。さあ、ホノオさん、コッチへ」
雪野マフユにエスコートされるような形でアタシはコロシアムを離れる。
覗くように大麓マオを見ると江良博士と話していた。
アタシ、励まされたんだ。
大麓マオに。
原作の大麓マオは負けた相手を励ますなんて事はしないし、あんなに真っ直ぐな言葉を言う人じゃない。
だけど、この世界の大麓マオは励ますし真っ直ぐな言葉を言える人。
それが、この世界の大麓マオなんだ。
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