第41話 国の成り立ち

 僕の名前はフォルテ。


 神々の末席に位置している、聖獣だ。


 場所によっては、神獣って呼ばれ方もする。


 とある世界のとある土地を住処にしている。


 そこは僕の御主人様である、“平定と安寧の神”が守護する国のすぐ近くの土地だ。


 なんて名前だったかな。


 ローザンド帝国だ。


 今はたくさんの国を一つに統合しようとしている最中だから、もう少し安寧には時間がかかりそうだ。


 御主人様は、王国の王族と契約した時にたくさんの力を貸していて、その内の一つに“真実の鏡”っていう神具を授けていた。


 その鏡に向けて知りたい事を尋ねると、色々と教えてくれるというものだ。


 神様が守護している事も、神具を授けている事も、秘密にしないといけない。


 まぁ、森を挟んだこの地でひっそりと暮らしている僕は、ローザンドの事はあまり関わりのない事だ。


 僕の役目は、御主人様の守護する国が平定するまで、こちらからの侵入者を防ぐことだ。


 それは、ヒトと獣も対象だ。


 僕を怖がって、すっかり大きな獣達は遠くに逃げていった。


 今日も静かに洞窟で寝ていた。


 滅多に動物も、ましてや、ヒトなんか来ないのに、今日は違った。


 人の足音がしたかと思ったら、洞窟の中にどうやら誰かが入り込んだようだった。


 様子を見に行ってみた。


 そっと物陰から覗くと、女の子と、その子よりも小さな男の子が2人。


 女の子の燃えるような赤い髪と、深緑の瞳が目を惹く。


 ヒトの姿に興味を寄せるなんて、こんな事があるのかと驚いた。


 その子達は、雨を避けるように、固まって入り口付近にいた。


 雨宿りをしているのかな。


 それなら、雨が止んだらどこかに行くだろう。


 僕はしばらくそっとしておくことにした。


 でも、雨はずっと降り続いた。


 その子達は、どこにも行かない。


 どこにも行けないと言ったほうが正しいのかもしれない。


 水はともかく、食べ物が無いのにヒトは生きていけないだろうと、思っていた。


 別に僕は何も食べなくても生きていける。


 これでも一応、神に近い存在だから。


 洞窟の奥には食べ物がある。


 森で採れたものだ。


 それを、その子達が寝ている間に、少しだけ近くに置いて分けてあげた。


 物陰からこっそりと様子を見ると、その子達は泣きながらそれを食べていた。


 何で泣いているのかは分からなかった。


 分からなかったから、教えてもらうためにその子達の前に姿を見せた。


 最初は、驚いて怖がっていたけど、女の子が僕に言ったんだ。


「穏やかで優しい目をしている。怖くない」って。


 その子の言葉で、小さな男の子達は僕を怖がるのをやめた。


「貴方が食べ物をくれたの?」


 僕は頷いて答える。


 その子は、ありがとうと言いながら僕の頭を撫でた。


 ちょっとだけこの姿が不便に感じて、その子達と同じ姿になることにした。


 ヒトの子供の姿だ。


 僕は神に近いけど、ヒトみたいな年齢で表すならまだ子供だ。


 だから、この姿は正解なんだ。


 その子の名前はノエルだと教えてもらった。


 ミステイル王国から逃げてきたと。


 奴隷だったけど、嫌な事をされるから弟達と逃げてきたって。


 酷い事をされないで食べ物を貰ったのは初めての事だったから、嬉しくて泣いていたんだって。


 食べ物くらい、いつでも分けてあげるよ。


 どうせ僕にはいらない物だし。


 僕は、ヒトの姿のままノエル達と過ごした。


 何でそんな事をしたのか、初めは明確な理由はなかった。


 でも、ノエル達に居場所を作ってあげたいと思った。


 3人を守る力をまずは与えた。


 ノエルと、弟達にギフトを授けたんだ。


 ギフトは、その時に必要な能力が授けられる。


 数年を経て、この地はディバロという名前になった。


 ミステイル国から逃げてきたヒト達が少しずつ増えていった。


 僕の役目は、ローザンドに余計な人や獣を通さない、“壁”となること。


 だから、役目は果たしている。


 人の国を作ったって、それは役目の一つだ。


 ノエルと家族となったって、それも役目を果たすことに繋がる。


 ノエルを愛したことは役目とはちょっと違ったけど、御主人様の迷惑にならなければ、大丈夫だ。


 でも、3人を守る為に土地と契約をしたのは、僕の勝手な判断だった。


 ミステイルからの追手、奴隷狩りが来たからだ。


 ギフトを持つ3人がいる限り、ディバロの地は“壁”が守ってくれる。


 そこは、国になった。長い長い年月をかけて、一つの国になった。


 僕とノエルの子供が、そして、ノエルの弟達の子供がそこに住み続けて、国を育てていった。


 緑豊かな平和な国だった。


 ギフト所持者が治める、小さくても平和な国だったんだ。


 その神に目をつけられていただなんて、全く気付いていなかった。


 ディバロでの異変は、その子達が生まれる前から始まっていた。


 その時に気付けていたら、未来が変わっていたのか、悲劇を回避できたのかは分からない。


 その神の力は強大だから。


 ノエルが死んで、国に直接関わる事をやめた僕には、出来ることは少なかった。


 傷ついて国を出たあの子達の事を、御主人様に少しだけお願いすることしかできなかった。


 僕の子供達、キーラとテオドールを助けてって。


 でも、ちょっとだけ行き違いがあって、結局、キーラが御主人様の庇護するヒトを助けてしまった。


 国の崩壊を救ってくれたから、御主人様はキーラに感謝していた。


 神の上位に位置する御主人様だって、時々他の敵対する神からの妨害を受けることがあるんだ。本当に稀な事だけど。


 だから、帝国にいたら、幸せになれたのに、僕の国に帰ってきたばかりに、御主人様の力が及ばなくて、“破壊と再生の神”に運命が引きずられてしまった。


 僕が間違ったから。


“破壊と再生の神”が関わる子に、力を与えたからなんだ。


 気付かなくてごめん………


 僕じゃ、力が足りないんだ。


 だから、少しだけ力の強い神様にお願いした。


 僕の御主人様は、もう、あの国からしばらくは動けないから。


 本当に、幸せになって欲しかったんだ。


 僕の力を割いたとしても。








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