第21話 冤罪
いつもの下校時刻よりも少しだけ遅くなった。
馬車を待たせてしまっているから、馭者はさぞ不機嫌になっていることだろう。
小走りで学園の敷地から外に出た時だった。
「いたぞ!!!!」
背後からそんな声が聞こえて、たくさんの足音も聞こえて振り向いた。
その音の根源、大勢の王国兵を引き連れてきた、見覚えのない男子生徒が私を見て叫んだ。
それと、その隣には何故かローザもいた。
「そいつが、あいつらと通じているんだ!!演習が始まる直前に、テオドールに兵が待ち伏せしているから正規ルートを行くなと言っていたのを確かに聞いた!!」
え?
「お姉様がどうして待ち伏せされているって知っていたのよ!!リュシアン様が危ない目に遭うところだったのよ!!」
ローザが詰め寄ってきた。
この状況は、おそらく、最悪だ。
「お姉様、罪を認めて」
ローザに腕を掴まれて、視えたもの。
この女は、私とテオが話す近くの茂みで、この男子生徒といかがわしい事をしていたから、私達の会話が聞こえたんだ。
とんでもない糞共だな。
私はそのまま弁解の余地も与えてもらえずに王城の地下牢に連れて行かれ、それから後は笑えるくらい苦痛に満ちたものだった。
まだ疑いの時点で、公爵家は私をあっさり切り捨てたそうだ。
兵士からそう告げられた。
あの男が、私に報復をしたいってのもあったのだろう。
私に残ったものは何もない。
王城の地下で、王国兵に酷い暴行を受けた。
こいつらは、最初から私の話なんか聞く気はなかった。
尋問と言う名の暴行だ。
どれだけ私を痛めつけて、殺したいんだ。
余計な事を喋らないようにと、薬品で真っ先に喉を潰されて、最後の手段、ギフト所持者である事の命乞いをうっかりするということもできなくなった。
する気も無かったけど。
唯一の救いは、陵辱されかけたところで、王太子の近衛騎士の偉い人が来て止めてくれたことだろうか。
下卑た男に、体を弄ばれる事だけはさすがに嫌だった。
「お前のような年若いものが単独で間諜とは考えにくい。誰に指示された?」
騎士からそんな事を聞かれたけど、そもそも私は何の罪も犯していないから答えようがない。
声が出ない喉を震わせて“知らない”と、空気を吐き出しながらそう答えていた。
私の返答を聞いて、騎士は舌打ちをする。
「ただの、捨て駒にされたのだな」
ああ、私の処遇を想っての舌打ちか。
何の救いにもならないけど。
「俺にできる事は、君がこれ以上苦しまないようにするだけだ」
その人は他の騎士に命じて、私を牢に戻していた。
その人達に触れられて視たのは、リュシアンがこの騎士達に出来る限りの私の保護を命じている様子と、国王に私の無実を訴えている様子。
その続きも視えた。
私の処刑が執行されて床に手をつき泣き崩れている彼。
あははははっ
私はこのまま処刑されるのね。
リュシアン。こんな私を想って泣く必要はない。私はこの国を崩壊させようとしているのだから。
連れて行かれた薄暗い牢屋の中で、力無く、床に横たわる。
体中が痛くて、指先すら動かせない。
あの騎士は、私の処刑は明朝すぐだと言った。
多分、ほんの数時間後だ。
一日も経たない内での、随分と早い執行だけど、身分が平民以下ならこんなものなんだろう。
切り捨てられた身だと思われているから、これ以上私から引き出せるものはないものとされたのだろう。
それに、ミステイル国の兵があれだけ入り込んでいたのは、関所を守る王国兵の失態だ。
あいつらから暴行を受けた時に、商人に紛れたミステイル王国兵と金品のやり取りをしている光景が視えてた。
その責任を、私をさっさと処刑する事で有耶無耶にしたいのだろう。
でも、
私を処刑した瞬間、この国の加護は失われる。
それが私の復讐となる。
吊るされる瞬間、最期にザマアミロと、笑ってやる。
ギフトを持った者をこの国の者が自ら殺して、聖獣の怒りを買えばいいんだ。
ミステイル王国がこの国を狙っている今、次のギフトを持った子供が生まれてくるまで、この国がどれだけもつか。
そもそもギフトを持った子供が生まれてくるのかも分からない。
想像するだけで、笑いしか出てこない。
間も無く私の首が吊るされる。
怖くはなかった。
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