逆転召喚者 呼び戻されるその日のために

@HighTaka

本編

第1話 前世を思い出す

 すっころんで頭を打ったはずみに前世の記憶がよみがえった。

 彼女はそんなことを言ったっけ。

 彼女って誰だ? 思い出した、ユカリだ。乳兄弟でオレの恋人、異世界から転生してきたという不思議ちゃん。彼女が実現したいくつかのものは生活が便利になったと好評だったな。半分以上が一流職人の腕が必要で貴族専用になってしまったけど。

 で、だ。オレのことだ。

 ちょうどいま頭がずきずきし、見慣れぬ風景にとまどってるオレのことだ。

 まず、名前を思い出してみよう。

「えりか」

 違う、クルガイア・ボイ・ノルクラント。北の地ノルクラント伯の四男だ。ユカリの冒険者仲間で、彼女への出資者、そして恋人、いや夫。

 最後に覚えているのはなんだったか。

「ころんだ」

 違う違う。どっかのバカが王都で大悪魔召喚をやって大騒ぎになったんだ。

 子供もできたし、簡単だが式を挙げたところでその報せを受けた。

 引退するはずの彼女が花嫁衣裳のまま剣ひっさげてでかけていくのを必死に追った。だって、まだ目立ってないけど妊婦だぜ。

 で、彼女が受けるはずだった追放の呪詛が俺に刻まれちまった。

 うん、思い出した。中途半端にじんじん痛かったな。

 最後に聞いたことは何だったかな。

「それ、あたしのってさえちゃんが」

 いや、違うぞ。ユカリだ。彼女が必ず呼び戻すといってた。古い魔法使いのオウルが俺に刻まれた呪詛を見て何か言ってたな。

 打った頭がちょっとはっきりしてきた。

「あ」

 そこは近所の児童公園。少し薄暗くなっていて、もう誰もいない。砂場にシャベルやバケツがほったらかし。同じ組のさえちゃんの、らしいがいっつもここに置きっぱなしだ。

 遊んでたら、つきとばされた。うん、思い出した。

「ちょっとまって」

 ワタシ/オレは、つのだえりか/クルガイア・ボイ・ノルクラント、かみまちようちえんももぐみ/ノルクラント伯の四男でユカリ商会の副会長にして冒険者。

 つまり、前世では魔法と剣を使いこなす魔法戦士で、いまはただの幼稚園児、前世は男で今は女。

「え」

 今世の母の証言によると、迎えに行ったとき、それはそれは子供らしく泣いていたそうだ。


 そんなオレも小学校一年生。記憶が戻ってから二年。すっかり粗暴な女の子としてご近所ではひそひそいわれるし、お母さんは困った顔で女の子らしくしなさいとお説教するし、お父さんには約束するまでださないと押し入れに閉じ込められた。

 粗暴ったって、棒きれでなぐってくるから奪い取ってさんざんぶちのめしただけだ。剣の使い方は覚えているけど、この体が思った通り動かないと困るので毎日、素振りをしたりシャドウ打ち合いをしたりしてるうちにそこらの悪ガキなんか相手にならないくらいになっただけ。組み打ちでは容赦なく男の急所を叩くので本気で怖がれルようになっちゃった。ちぇっ、びびりどもめ。

 いつ呼び戻されてもいいように、魔法と剣の使い方は研鑽しておく。それがオレの当面の目標だ。そうなったら、お母さんは悲しむだろうな、と思うとちょっと心が痛いが、あっちはおかまいなしだろうし。その時がきたらその時だ。

 魔法はこの世界では実用的でないのはちょっと困る。

 雷の魔法は静電気を起こさないと発動しないし、発動も通常よりかなり痛い静電気になる程度。炎も火種がないとつかえないし、ちょっと大きく燃え上がる程度。

 それでも使い方かなと思って必要な時にちょっとした魔法が使えるよう準備を進めている。

 おかげで、ちょっかいかけてきて返り討ちにした男の子の中学生の兄がオレを泣かせに来た時に逆に泣かせることができた。

 組み付かれたらかなわないんだけど、静電気を起こして雷の魔法をいれ、ひるんだところで金的。あとは弟君がないて止めにはいるまで雷の魔法を交えてサンドバッグだ。力がないからとにかく痛くして心を折るのに専念した。

 やりすぎたし、説教されたし、小学校の担任のおばちゃん先生は、あなたのためといって平手打ちをくれたし、オレの言い分なんかちっとも聞いてくれなかったけど、そういうところがあの理不尽だらけだった故郷を思い出して、やっぱり胸糞悪かった。

 それでもまぁ、学校のテストの点がよいのでしぶしぶだがよい成績をもらってるので、理不尽はそれっくらいですんだけど。

 オレをつきとばして目覚めさせてくれたさえちゃんなぞ、カテイカンキョウが悪いらしく、駄菓子屋で万引きがあるとまっさきに疑われる。

 実際、彼女は結構平気で万引きをしていることを知ってる。戦利品をわけてくれたこともあるし、一緒にやろうと誘われたこともある。断ったけど。

 だけど、彼女は近くの店では絶対やらないし、よりつきもしない。なのに疑われるのはさすがにひどいと思う。

 冤罪といえば思い出すのは、近所に一人暮らししていた知的障碍者のサブちゃんのことだ。あれも胸糞の悪い出来事だった。

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