この世界を辿る者2

三屋久 脈

10.







































































誰も居ない虚無に貴方はただ1人佇んでいる。





















背後から何かを取るような音が聞こえた。


振り返るとゴミ箱に片腕を突っ込んだ背の高い彼が話しかけてきた。



「小説は好きか?俺は嫌いなんだ」




彼は一冊の本を空虚なゴミ箱から拾って貴方にみせた。




「だって時間の無駄だろう?文字が書いてあるゴミを眺めているだけなんて」


「まぁ君はそのゴミに金を払って眺めている訳だが……」



彼はこの小説を有料で貴方が買って読んでいると考えているようだ。





小説の表紙には『この世界を辿る者』と記されている。


彼は椅子に座って、机にその小説を置く。すると1本のペンが小説に向かって引き寄せられて、小説と机の間に潜り込んでいった。


「この小説の主人公は俺なんだ、最後まで物語を進めてみたんだが、どうやら俺は虚無から生まれた存在らしい」


彼は貴方にこの物語のネタバレをしているつもりのようだ。

いつもは冷たい表情の彼が初めて愉快な顔をしている。

ようにも見える。





「この物語を進めるには『上から下へ』と読み進めてくれ、物語を終わらせたければ電源を切るか、ページバックをしろ」


よくみると彼の左腕は肘から下がちぎれてしまっている。


「俺は主人公、この物語を辿る役目を演じている」


背の高い彼は後ろを振り返りながら貴方に向かって話しているようだ。


「画面の向こうの君の名を俺が知る事は出来ないし、君の声は誰にも届かない」


「ただ君は物語を進めてくれ、辿るのは俺の役目なんだ」











彼は前に歩くが、後ろへとどんどん巻き戻されていく。



「一体どうなってるんだ?」


巻き戻りながら進んでいく主人公は、そのまま虚無へと帰した。

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