第5話

 

3月×日



 打ち上がる、波打ち際の、大きな、花火よ。あたしの祈りの声が聴こえるか。この慟哭が届いているか。

 あたしは、冬にいながら、頭の中は完全に季節を喪失している。

 花粉症だが、スギ花粉にやられているのだとか、あたしにはわからぬ。もはやなにも。わからぬ。

 蝉が鳴いている。あたしに愛を乞うために命を捧げて鳴いている。愛してください、愛してください、愛してください、と。右の脳みそがキシキシ軋むから、今夜もよく鳴いているな。うるさくてかなわん。

 夜によく眠れないのは、この蝉のせいだろう。愛情乞食の蝉。早くどこかへ行ってしまえばいい。

 

 脳みそに取り憑く蝉を掴んであの花火とともに爆発させてしまえば、さぞ気分が良かろうよ。ぜひやってみたいものだ。

 爆破される瞬間も、蝉はキミを愛していると叫ぶのだろうか?

 気になって仕方がないが、とりあえず今日は、窓の外の銀世界を眺めながら、紅茶ラテを飲むだけで、あたしは幸せだ。

 家に引きこもって花火を思い出しているあたしの頭は、ああ、壊れている。

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