ある女の日記

寅田大愛

第1話

 3月×日


 昨日、人々の記憶のなかから、あたしのデータを抜いた。綺麗さっぱり、情報を消去した。これでだれもあたしのことを覚えていない。すこし寂しいけど、全世界からストーキングされるよりマシだ。

 あたしはだれからも忘れ去られたい。だれにも記憶されたくない。

 その一心で、お祈りした。

 功をなして、だれからもあたしは記憶に残らなくなってしまったのだ。

 


 でも、彼氏から忘れられてしまったことに関しては、辛かったな。


真の愛をあたしに抱いている人だけは記憶に残しておいてもらいたいと願ったのに。

 神様、元に戻して欲しいとは言わないけど、あたしと彼は別れる運命だったのですか?

 彼はあたしのことを覚えていません。恋愛の記憶も消去されています。


 こんなふうに突然好きな女からいなくなられて置き去りにされたら悲しいだろうな。そうでもないのかな。

  


ねえタケル、あたしのこと、本当に好きだったの?


 あたしに愛してるって言ってくれたのは嘘だったの?


 元彼もあたしのこと完璧に忘れてしまったみたい。別にいいけど。



 あたしは、この世に、生きた証を残したくないの。みんな、さよなら。バイバイ。






 

 

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