第13話 紙・インク・図版の利権
「本日はお集まりくださりありがとうございます。今日はある種の競りですので、お忙しいとは存じましたが決定権を持つ代表にお集まりいただきました。簡潔に話を進めますので、よろしくお願いします」
私の挨拶に、……この国の人は大抵好意的ではあるけれど……顔色の読めない大きな商会の代表たちは頷いた。
集まったのは7人。全国に販路を、となるとこの位少ないらしい。あまり多くても困るのでちょうどよかった。
私が話を進めるより、ここはバルク卿に任せることになっている。そっと場を譲った。
「今回は、地図の作成をお願いできる商会を探しての事になります。この国のあらゆる地形と集落や街を知っている、という自信のない方は今お帰りくださって構いません。が、何組かの商会で組んで取り掛かってくださるというならそれもまた構いません。その分、利益は大きいので」
バルク卿の自信に満ちた声と言葉には圧倒される。私ではこうはいかない。絶対に途中で卑屈が出る。
私はその『利権』を誰に渡すかの決定権を持っている人間だ。陛下と殿下にもちゃんと許可はとってきた。堂々と立っている事が仕事だと言われたので、それに集中する。
商人とは、弱気な態度を見せたらいけない相手だ。こちらが食われる。
「地図、というのはこの国の地形と道、各地の集落と街を記した図面になります。我が国には無い文化ですが、今後のためには必要になります。商人の方にも必要になってくるでしょう。何せ、新人に地図を見せれば道がわかるので、いちいち道を教えなくていいのです。そして流通往来が盛んになるにつれ、地図は毎年更新する必要があるでしょう。地図作成部門を作り正確な地図を上げてもらうことになります」
新たな部門の設立。これは、王宮で設立するより商会に任せた方がいいと私が判断した。何もかも国で管理するよりも、国に関わる事を民間に任せるのは帰属意識を高めることになる。
商会の代表たちの間でいくつか言葉が交わされるが、まだ食いついてこない。本番はここからだ。
「地図作成部門を作ってくださる商会には、今後国で買い上げる以外の、全国に流通する紙とインクの専売、そして地図の図版の利権をお渡しします。さらには、国からの依頼で各地からの書類の輸送も頼むことになるでしょう。——話し合いは15分でお願いします」
紙とインクを作るための材料や職人は、国で雇う。しかし、出来上がった紙は今後、王宮以外でも必ず流通する。特に商人は、紙を使った契約書に切り替えていくはずだ。
木簡の管理も、羊皮紙の管理も、紙より難しい。また、紙は材料費が安価であり、大量に作れて、使い勝手も良い。
そして、地図の図版の利権。これは、国から依頼されて作った地図を、紙に刷って販売する利権だ。持つ事ができたら、それだけで一財産築けるだろう。国としても毎年更新される地図を買い付ける事になる。
紙とインクについて商人たちは、戦後自由になった交易で把握している。それがどんな価値を持つのか、そして、国からの依頼での輸送という安定して高い利益をあげることのできる利権。
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