ため息をついたなら

きなこあんみつ

第1話

 春眠暁を覚えず、という言葉があるが僕は全然そんな気分ではない。孟浩然は花粉症では無かったに違いないし、僕がスギとヒノキの花粉症であるということも間違いない。確かに今朝起きた時間は、ちょうど正午であったが気持ちの良い睡眠とは言えなかった。起きると喉はイガイガして、絶妙な不快感を覚えるような鼻のつまり方をしていてひどく憂鬱な気分であった。5分程度スマホを触って、僕はついに布団から出ることを決意した。母は今出掛けており、家には自分自身しかいなかったので適当に冷凍のパスタを温めて、朝と昼ごはん兼用の食事をとった。そしてカレンダーを見てあることに気が付いた。今日、3月30日は記念すべき僕の初バイトの日なのである。無事国公立大学へと進学した僕は、多くの同じ境遇の大学生がしてきたように個別指導の塾にアルバイトの面接を受けに行き、採用となったのであった。家から近くのその個別指導の塾は小学生から高校生まで幅広い年齢層の子たちが通っており、なかなかの評判であった。教室長の田中先生もとても温厚な人柄で、アットホームな空間で生徒も先生も共に目標に向かって頑張ることができる、そんな塾であった。今日は18時から1コマだけシフトが入っており、中学生の女の子を担当する。得意の数学ということで初心者の僕でも何とかなりそうだ。相性が良ければ、そのままその生徒の担当になると聞かされていて、僕は一抹の期待と不安を胸に、1時間前くらいまで再び寝ることを決意した。孟浩然も僕と同じように怠惰だったんだろうなと考えながら。

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