第7話 一皮剥かれた……

「やっぱり淡い色合いがよく似合うわぁ。いつかね、娘とこうして買い物にきたかったのよ」


「………………はい」


 私が伯爵家に嫁いできて2日目、なぜこんなに元気が無いかと言えば、散々夫人に連れ回されたからである。


 馬車の中で「そうだ、やっぱり最初はエステにいきましょう!」と言われた時点で嫌な予感はしていた。


 エステ、というものに無縁だった私は、まさか裸に剥かれてお風呂に入れられその後オイルマッサージで全身解され(これは気持ちよかった)最後にまた香油を垂らしたお風呂に入れられドレスを着せられた。夫人はつやつやして出てきたが、私はこの時点で解れた身体とリラックス効果を感じながらも、疲弊していた。


 その後美容院に連れて行かれた私は長年伸ばしっぱなしにしていた髪の大部分とオサラバし「前髪があった方が可愛いわ!」という夫人の勧めで前髪を作られ、簡単なヘアセットをされて、今ブティックでドレスを5着ほど(さすがに着替えさせられはしなかった)身体にあてられ、似合う、似合う、ととりあえず10着は買う事になり。


 ただでさえ既製品のドレスは全部色違いで同じに見えるというのに、さらにはまたドレスを剥かれて私の採寸に入った。


 その間に私用のデザイン画を楽しそうにブティックのデザイナーと夫人が何枚も書き溜めており……、そして、私は最初のやり取りに戻る、である。


 精魂尽き果てた私が着てきたイエローのドレスに身を包んで戻ると、最後はお化粧よ! と、夫人は意気込み、私は化粧品は母や姉のお下がりをあてがわれていたので初めて自分の化粧品を揃えられた。


 基本的に私の顔を作るのは侍女の役目だが、やはり本人の肌に合わせて選ばないといけないものらしい。今までよくあそこまで私とカラーの違う母や姉の化粧品で見れる顔を作ってくれていたものだと思う。


 派手な色は避けて、私には少しパープル系のものが似合うようだ。目元も真っ赤ではなく淡いピンクやラメ、黄色、クリームっぽい金などの色と、口元には茶色に見えるような紅を乗せたら血色が良く見えた。他にも艶を出したりする淡いピンクなどがいいと言われ、夫人は一通り私の化粧品も揃えた。


 今日のドレスに合わせてサンプルで店員さんが私の顔に化粧をしてくれたのだが、初めて「お化粧でこんなに変わるの?」と思った。


 鏡の中の自分が自分では無いような不思議な感覚だ。目は大きく見えるし、血色もいい。髪型とあいまって、そこに居たのはなんだかリスのような可愛い人間だ。私なのだけれど。


「とっても素敵よ、ミモザちゃん! うーん、磨きがいがあると思ったけれど、本当に可愛いわぁ……」


「可愛らしいお嬢さんですね。肌が白いのと、パーツが整っているので、場に合わせて変幻自在ですよ」


「そうねぇ、やっぱり可愛い路線から攻めたけれど、近々綺麗めも狙ってみましょうか」


「その時はまたご来店ください、奥様、お嬢様」


 誰の話だ? いや、私の話なんだろうな。


 そんな会話を背中に聞きながら、お恥ずかしながら出来上がった顔の見事さに、私は鏡をまじまじと眺めていた。


 ……次期伯爵は、こんなに変わって可愛いと言ってくれるかしら、なんて。

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