捕食、捕食、つまり捕食

 限界だった。

 俺は、動けないほどの空腹感に襲われていた。

 ここまで、他の生物に合わなくて良かった。

 その生物が自分よりも強ければ、捕食されていただろう。

 その生物が自分よりも弱ければ、『捕食』していただろう。

 俺は口を分解して目にし、ここまで無心で転がってきた。だが、本能が止まらない。いつの間にか、勝手に、身体中から口が浮かび出ており、通り道の草を根こそぎ食らっていた。

 そのことに、来た道を振り返ってようやく気づく。今の俺は、世界一尾行しやすい生物だろう。足跡どころか、食い跡を残しながら進んでいるのだから。

「はあ……はあ……まだ、着かないのか?」

 あの竜人族の女、『すごく近』とか言ってたが、彼女の俊足では距離の指標にならない。

 スライムの足では、とても遠いんじゃないか? ないけど。

 しかし、人間によって住処が決めれらており、しかも子供を供給させ、いつでも攻め込める場所なら、王国からそう離れていないはずだ。

 案外近くまで来ているのかも……。

 そう思い、一度ジャンプして周りを見回した。

 だが、それらしき場所はなかった。どころか、一面の草原だった。

 ただ、その中に、ここからすぐ近くに、青い物体を見つけた。

「スライムか……? 会話ができれば場所を聞こう、できなくても、住処が近くにある証拠だ」

 俺は、迷うことなく、その物体に接近した。

「おいお前! 聞きたいことが、あ……る……?」

 覗き込み、驚愕した。

 その物体は、ゆりかごのような入れ物に寝かされていた。

 その物体は、白い布で丁寧に巻かれ、安らかに眠っていた。

 その物体は、スライムではなかった。 

 その物体は、人でもなかった。

 どりらでもなく、どりらでもあるような、青い胎児だった。

 なんだ……コイツは?

 恐る恐る、俺顔に触れてみる。返ってきた弾力は、まさにスライムのそれだった。しかし、顔には、目、口、鼻、耳といった器官があり、呼吸もしている。鼓動も打っている。体の内部は人間なのか?

 スライムの皮を被った人間? 人間を取り込んだスライム? 

 あるいは、俺が渇望する、人間の形を手に入れたスライムか。

 ゴクリ、と、俺は、唾を飲む。そんなもの、ない、のに。

 他の種族を『捕食』してはいけない、しかし、同じスライムなら?

 『捕食』した生物の遺伝子を取り込む、仮に、このスライムが人間のそれを持っていたとしたら?

 それら言い訳大義名分、全てが、何の足しにも、制止にもならない、本能の奔流。

 気がついた時には、ゆりかごには、白い布だけが残っていた。

 満足感を得て冷静になった俺は、丁度スライムが通れる大きさの穴を、地面に見つけた。

 その穴は地下深くまで続いていた。

 スライムの住処は、『すごく近』ではなく、『すごく地下』にあったようだ。

 なるほど、これなら、他の生物を襲うこともないし、人間に攻め入られても、逃げられないだろう。

 それでも、外をふらつくよりも、遥かに良い。

 俺は迷うことなく、仲間の元へと帰った。

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