にがくてあまい午後

葉山美玖

第1話 出会い

 暑い、夏であった。

 あたしは、ふつーに就労支援所で働いてるふつーの障害者だ。ふつー、でもないかも知んないのは、毎日真面目にやってないとこと、だけど毎日家では真面目に小説を書いてるとこだ。けいちゃんは、そこの指導員だ。

 一年前に、けいちゃんは実習に来てたはずだ。でも、あたしはその当時、付き合ってる彼氏がいてけいちゃんのことはよく覚えてない。覚えてるのは、当時髪が長かった、けいちゃんらしき人が、「男にメール二通続けて出したらダメ」って、忠告してくれたことだけだ。そのけいちゃんらしき人はもう四十才で、色んな恋愛したようなことをつぶやいていた。

 けいちゃんに再会したのは、一年後だった。けいちゃんは、PSWの試験に合格して四月にここに正職員として来てたのだ。でも、あたしは当時落ち込んで支援所をさぼってたので、けいちゃんの面接を受けたのは夏の初めだった。その頃、あたしの小説はブログランキングのトップを走ってた。けいちゃんは、ちょっとはにかんだ様子で、「僕大学の時ずっと図書館にこもって小説書こうとしてたんですよ」とか言った。それからちょっと悔しそうに、「まぁ岡本かの子を目指してください」って言った。あたしはその細い目が気に入った。けいちゃんは、それから髪をバサッと切った。

 当時、就労支援所は法律が変わって、もう障害者の居場所じゃなくなってた。根性で、健常者のように働くことを目指す場所になっていた。だけど、けいちゃんの目の優しい感じと、目の下の小さいあざは変わんなかった。けいちゃんは、多分あざのことを気にしてたのだろう。けども、あたしはそのあざが好きだった。それが、けいちゃんを障害者の人に対して優しくしてる、根っこのように思えたからだ。けいちゃんは、あたしが早く帰ると「さみしいな」って言ったし、時々、皆の打った残りの讃岐うどんをくれた。本当は、指導員はそういうことしちゃいけなかったのかもわかんない。

 けいちゃんは、お盆の前に突然休んだ。「体調崩してるのよ」と、他のスタッフは言った。でも、あたしには周りに気を配るから疲れやすいけいちゃんのことはわかったけど、責任感が強いけいちゃんが二週間も休むのは理解できなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る