第56話 宴の後
5人で囲む食卓は話が尽きなかった。
レイスさんの王都での話、メイちゃんの森のおうちでの生活自慢、そしてスーおばさんとデイビッドさんのこと……
メイちゃんは、レイスさんがブリドニクを離れてから起きた出来事を、レイスさんにいっぱい話していた。それはもちろん楽しい話ばかりではなかった。つらい出来事は一つひとつ噛みしめるように、メイちゃんはゆっくりと、時には声を詰まらせながら話をしていく。レイスさんも涙を浮かべることもあった。
メイちゃんは悲しい出来事をちゃんと乗り越えようとしている。
前に進もうとしているんだ……
声に出して話すこと、それを聞いてくれる人がいること……とても大切なことなんだって思った。
悲しい空気だけじゃない、みんなの温かい眼差しがメイちゃんの悲しみで凍ったこころを少しずつ溶かしている…… とっても穏やかな優しい空気……
メイちゃんが大きなあくびをしたところで、歓迎パーティは終わった。
メイちゃんとレイスさんはオルト兄ぃの部屋で休んでもらうことになった。ベッドが2つあるらしい。
オルト兄ぃにかかれば、どこの部屋にベッドが何個増えたって、ぜんぜん不思議じゃないって思う。
「マルルカ、ベッドを増やしたと思ってるだろう…… 最初っから2つあったんだよ。
つまり、ベッドが1つ足りない!」
オルト兄ぃは、心の中まで覗けるのかしら……
でも、それって、うれしそうに言うことじゃないんだけど……
「じゃぁ、マルルカは僕と一緒に寝る?」
「私はもう子どもじゃありません! こわい夢を見たってちゃんとひとりで寝れますから!!」
アル兄様がからかう。
まだ、私を小さい子どもだと思ってるのかしら……
「マルルカはまだまだ子どもだねぇ……
オルト、あっちの教育もちゃんとしてるの?」
「それは、命令に入っておりませんでしたから!
主様が直接教育されたらよろしいかと……」
アル兄様とオルト兄ぃが、いたずらっぽく笑いながら話している。
・・・・・・…… !!
私はやっと意味がわかって、顔から火が噴きそうになるほど、真っ赤になった。
ハリーとデレクが時々楽しそうにいやらしい顔をして話していたから、だいたいはわかる。
大きいおっぱいのおねえさんの話のことだ……
「その・・・・・・教育は遠慮します・・・・・・」
「マルルカに振られちゃったよ。じゃぁ、オルトが僕と一緒の部屋だね!」
「謹んでお受けいたします」
えぇぇぇえええ――――
「アル兄ぃと僕は一心同体なんだよ!」
オルト兄ぃはそう言うと、アル兄様とケラケラ笑いながら、アル兄様の部屋に入っていった。
もう、どこまで本当でどこから嘘かがさっぱりわからない。
洗い物をして気持ちを落ち着けようと台所にいくと、すでに汚れた食器はなくなっていて、きれいに片付けられていた。
何をやってもオルト兄ぃにはかなわない。かなうわけがないのはわかっているけど、ちょっと悔しい。
そんな気持ちを抱えながら、マルルカは久しぶりに自分の部屋へと戻っていった。
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「主様、魔眼のことですね」
「あぁ、レイスが王都に行く前に魔眼を刈り取るつもりだった。その後は、失明したレイスの絶望を少しだけ堪能するつもりだったのだけどね。
マルルカが飛び込んできたせいで時間軸がずれて、いろいろとピースがかみ合わなくなってしまった……
まぁ、これもまたおもしろい。マルルカは私の無限に色を添えてくれる。
少しの間、楽しもう」
アルの冷たい笑みが夜の闇を凍らせる。
冷たい闇に身を沈めるようにしているオルトは、アルの背中を見上げながら言葉をつづけた。
「それでは、レイスは……魔眼は刈り取りますか?」
「いや……
お前たちがいたずらをしてくれたおかげで、おもしろいことになっている。
刈り取ることはいつでもできる。
マルルカが残滓を残さずに魔法を使えるのであれば……、冷静さと思慮深さがあれば、
この世界で魔法を使うことを許すのだが…… まだ幼すぎる」
「申し訳ございません。この結果は私の想定外でした。審問官のみに少しだけ仕掛けるつもりだったのですが…… 事が大きくなりそうです。本当に申し訳ございません」
オルトは膝をつき深くアルに頭を下げた。
アルは、顔を上げるようにオルトの顔にそっと手を添えた。
「気にすることはない。
この世界は少しずつ濁ってきている。時には浄化も必要だ。
国をひとつ、セリス教をつぶしてもいい。許そう。
オルティウス、お前に任せよう。お前が見極めよ。
マルルカとレイスの魔眼を利用してもよい。特別に許そう。
おそらくレイスの魔眼は間もなく解放される。魔力が放出されるということだ。
どの程度の力があのるか、どのような類いなものかはまだわからぬ。気をつけろ。
制御できなければ刈り取れ」
「御意! オルティウス、主様の命を全ういたします」
オルトの言葉に、アルはひとつ頷いた。
「それから、もうひとつ、この世界のことで、お前が知っておかねばならぬことがある。
この国の隣国、タミネア王国の奥深くに隠れ里がある。スザンナはその里の者だ」
アルは小さな椅子に座り、オルトにも席に着くようにと促した。いつの間にかテーブルにはワインとグラスが置かれており、アルは一口含み、口を湿らすと、話をつづけた。
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