第8話 ブリドニクにて(3)

 季節が春から夏になる頃には、頭がザラザラしてきてた。髪の毛が生え始めてきたんだ!

 同じように、体中にぶつぶつあったあばたもすっかり消えて、真っ白なすべすべの皮膚になっていた。


(あたし きれいになってる!!)


 そう思ったら、なんだか、胸がギューッて締め付けられた。それと同時に、鼻の付け根のところもギューって痛くなって、涙が出てきた。


 またあたし歪んじゃったのかな・・・・・・?

 どこか体がおかしくなったのかもしれない。


 アルさんに心配で聞いたら、

「それは、『うれしい』っていう気持ちだよ。涙が出るくらいうれしかったんだね、よかったね」

って言って、ザラザラした頭をなでてくれた。


 そしたら、また涙が出て止まらなくって、声を上げて初めて泣いた。

 心が締め付けられて苦しくって、アルさんにギューって抱きついて泣いた。


「マルルカちゃんが がんばったからだよ」


 アルさんは、頭をポンポンしてくれて、やさしく抱きしめてくれた。

 気持ちがすごく落ち着いてくる。


 しばらく泣いたら、気持ちがすっきりとした。そしたら、急に自分のしたことが恥ずかしくなって、アルさんの顔をしばらく見ることができなかった。





 それからのあたしの成長は、早かった。

 魔力開放と魔力循環は、ずっと意識してやってたせいか、あっという間に髪の毛も肩に届くくらいまで伸びて、背丈も少しずつ伸びてきてる。

家の中にあるものが、少し小さく感じられてきたから、あたしが大きくなってるのがわかる。


 おっぱいも・・・・・・ちょっとふくらんできた。

 ハリーが大きいおっぱいが好きって言ってたのを思い出して、なんか恥ずかしくなった。




 アルさんとあたしは、いつも夕ご飯を食べるとポロ茶を飲む。


 この時間は、アルさんは、薬草のこともそうだけど、おとぎ話やいろんな昔のお話を教えてくれた。それは、あたしにとって、すごく新鮮で、とってもおもしろかった。知らないことを知るのはとっても楽しい。

 メザク様に魔法を教えてもらったときは、つらかっただけで全然楽しくなかったのに・・・・・・


 そして、「女の子は自分のことを不細工とか言っちゃいけないよ」って。少し女の子なんだって思えるような気がした。

 水色のエプロンドレス 少しは似合うようにきっとなったよね?


 アルさんは、本当に何でも知っている。


 魔法のことは、魔力の開放と循環だけしか教えてもらってない。それに、ここにきて魔法を全く使っていないことに気が付いた。 


 っていうか、アルさんが魔法を使ってるのも見たことないな。


 火種はずっと絶やさないように大切にしているし、水だって、毎日、井戸から汲んでくる。薬草畑のも魔法を使って、ポポポン!!なんてしてない。水を毎朝あげて、雑草を抜いて丁寧にお世話をしている。


 だからかな? お風呂の時は、お湯のあったかさがとても身に染みるし、毎日のごはんやお茶だって、とても大事なものをいただいている気がした。


 そう言ったら、「いいことに気が付いたね。それは感謝の気持ちだよ」って、アルさんが教えてくれた。


「僕たち命のある者は、他の命を糧にしてるんだよ。だから命を捧げてくれたモノに感謝するんだ。どんな命でも決して粗末にしちゃダメだよ。これはとても大事なことだから忘れちゃいけないよ」

 アルさんは、ニッコリと笑ってそう言った。


 あたしは、命をいただいていることに感謝する気持ちを教えてもらった。


 アルさんに教えてもらって、初めてパンを焼いたのだけど、火が強くて焦げた匂いの硬いパンになっちゃった。それでもアルさんは、笑いながら「初めてにしては上出来だ!」って言ってくれて、焦げたパンを2人で食べた。


 あたしはここの暮らしが大好きになっていた。




 夜になっても少し蒸し暑いと思える夏の日、いつものようにポロ茶を飲んでいた。


「色なしか・・・・・・おもしろい」

 アルさんは、目を細めてあたしをじっと見た。


「色なし?」

「あぁ、君の今の姿を見せてあげよう」

 いつものアルさんとなんか違う気がする。




「そろそろ次の段階に入る準備ができたんだ。

 びっくりするかもしれないけど、僕を信じてね。マルルカ」




 アルさんは指をパチンって鳴らした。

 その瞬間、あたしは、記憶にある最後に訪れた部屋にいた。


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