第19話 真広と優愛、全校集会でついつい密着してしまう
家で母さんにお説教された後。
俺と
ちょっと遅刻ギリギリだけど、なんとか滑り込めて一安心。
というのも、ラッキーなことに今日は月一回の全校集会の朝礼の日だったからだ。
全校集会では生徒全員が体育館に集まり、生徒会からの挨拶がある。
実は俺と優愛も生徒会役員になる予定なのだけど、引継ぎがまだなので今日は一般生徒としてクラスメートたちと並んでいる。
たぶん来月からは俺たちも壇上側で全校集会の準備や手伝いをすることになると思う。
「さーてと……生徒会長の挨拶か。何を話すかなぁ」
全校生徒が見守るなか、今、壇上に上がっているのは生徒会長の
若干、目つきが悪いけど、優しい雰囲気が滲み出てて、根っからの兄貴肌な人だ。その三上会長は余裕の表情で全校生徒を見ている。
「正直、あんまり仰々しいのはガラじゃないんだ。だからこの挨拶も毎回、中身は考えてきてない。つーわけで、誰かこれだっていう議題はあるか?」
生徒会長の挨拶とは思えない自然体だった。
でもそれが三上会長のすごいところだったりする。
あの人はいるだけでまわりを安心させ、誰も彼もを味方にしてしまう。
その証拠に三上会長の呼びかけで生徒たちからノリノリで手が上がり始めた。全校集会で挙手なんて普通はできないけど、あの人が言うなら、とみんな自然にできてしまっている感じだ。
不思議なカリスマを持つ人だった。
そしてそんな三上会長は俺の憧れだ。
格好良いなぁ……。
三上会長が生徒たちと話し合っている姿を、俺は憧憬の眼差しで見つめる。
すると、ふいに背中にもぞっとくすぐったい感触がきた。
「ひゃっ!?」
女子みたいな声を上げてしまい、慌てて自分の口を塞ぐ。
幸い、まわりの数人から『なんだ?』というチラ見をされただけで済んだ。
でも問題はそこじゃない。
「ふふっ、可愛い声で鳴くのね、
「優愛ぁ……っ」
俺は肩越しに振り向き、真後ろいる人物に小声でクレームを言う。
「いきなり何をするのさっ」
遅刻ギリギリだったので、俺たちは生徒の列の最後尾にいる。
そして俺の真後ろにいるのが優愛だ。
その優愛は俺のクレームに対し、ジト目で返してきた。
「なーにをウットリした目で三上会長のこと見てるのよ? 言っとくけど、浮気は許さないからね?」
「へ? 浮気?」
思わずきょとんとしてしまった。
「なんでそうなるの? 俺はただ格好良いなぁって思いながら三上会長を見てただけだよ」
「それが浮気だって言うの!」
「どれ!? どれが!? びっくりするくらい分からない!」
「だーかーらー!」
肩越しに後ろを向いている俺の顔へ、優愛はずいっと顔を寄せてくる。
「真広が尊敬して、崇拝して、崇め奉るべきなのは、恋人のわたし一人だけであるべきでしょ! 憲法にもそう書いてあるから!」
「憲法にそんな条文はないよ!? 義務教育で習わなかったよね!?」
「高校に入ってから習うから真広は知らないだけ! 『教育の義務』、『勤労の義務』、『真広はわたしだけを崇拝する義務』、これが国民の三大義務よ! やったね、勉強になったじゃない!」
「やった! 俺、将来、納税の義務は課されないんだ! いや違う、そうじゃない!」
「そうね、わたしだけを崇拝する義務を飲むなら納税は免除してあげる。わたしの権力で」
「権力を恣意的に使い過ぎでしょ……っ!? 上流階級の闇がひどい……っ」
さすがは一流企業、藤崎グループの社長令嬢。
お嬢様の権力は留まるところを知らなかった。
しかし、それはそれ、これはこれ。
国民の代表として俺が憲法を守護らねば。
「とりあえず納税はするよ。あと三上会長への気持ちは浮気じゃないからね? ここは譲れません」
きっぱりと宣言。
すると、優愛が微妙にふくれっ面になる。
「へえ、この藤崎優愛に徹底して逆らう気なのね? 真広のくせに生意気」
「生意気で結構です。俺は浮気なんてしません」
肩越しに優愛の目を見つめて断言する。
「俺はずーっと優愛一筋だからね」
「……っ」
息を飲んでちょっと赤くなる、ウチの彼女。
視線を逸らして、小声でつぶやく。
「わ、わかってるよ、そんなこと……」
「だったら」
「でもイヤなものはイヤ」
突然、優愛がぴったりと背中にくっついてきた。
柔らかい部分が当たりそうな気配を感じ、今度は俺が「……っ!?」と息を飲む。
「覚悟しなさい? 背後の有利を取ってるのは、わたしの方なんだからね?」
直後、脇腹を両手で思いっきりくすぐられた。
「ひゃあっ! ちょ……っ!?」
反射的に笑い声が出そうになってしまい、また大慌てで自分の口を塞ぐ。
全校集会で大笑いなんてしたら恥ずかしい上に三上会長に大迷惑を掛けてしまう。
そんな俺の心配をよそに優愛のくすぐり大攻勢は止まらない。
「ほらほら、どう? わたしには敵わないでしょ? とっとと降伏して平伏しなさい。捕虜になるなら一生、可愛がって大切にしてあげるんだからっ」
「く……っ。あは、この……っ。このお嬢様はぁ……っ」
このお嬢様は本当にもう……っ。
くすぐり方に容赦がない。
優愛は本気で俺を笑わせにきている。
本気の本気で屈服させるつもりなのだ。
マズい……っ。
このままじゃあ大笑いしてしまうのも時間の問題だ。
しかし憲法と三上会長と彼氏としての今後の沽券のため、ここで優愛に負けるわけにはいかない。
こうなったら……!
俺は気合一閃。
口を塞いでいた手を一瞬離し、優愛の手首を掴んだ。
「えっ? ――きゃっ!?」
瞬時に手首を引っ張り、優愛を俺の背中に密着させた。
両手を封じてるからもうくすぐり攻撃はできない。
チェックメイトだ。
俺は彼氏の威厳を全開にして、肩越しに彼女へ振り向く。
「優愛――めっ。今は全校集会中だから大人しくしようね?」
「な……っ。こ、この藤崎優愛にお説教する気?」
「するよー。この藤崎優愛にだってお説教するよ。俺は彼氏だからね?」
「だ、だからってこの体勢……っ」
……いやっ、うんっ。
体勢についてツッコまれると、俺も困ってしまうのだけど。
しかし言及をやめてはもらえなかった。
まあ、たぶん優愛の方が俺より困ってるだろうし、当然かもしれない。
優愛は一転して勢いを失くし、恥ずかしそうに小声でつぶやく。
「密着し過ぎ……。わたしの……があなたの背中に当たっちゃってる……」
「……っ」
そうです。
俺が手首を引っ張ってるから優愛には守るものが何もない。
彼女の豊かな……がぶつかって、今、俺の背中にはとんでもなく柔らかい感触がきております。
いやわざとじゃない。
わざとではないんだけども……っ。
「……ご、ごめん」
「……真広のえっち」
「ほ、本当ごめん……っ」
「……いいけど」
突如、耳元に届いたのは、優しさに満ちた慈悲深いお言葉。
「別にいいわよ……。だって付き合ってるんだし、それどころか……わたしたち、婚約者だし」
穏やかに腕が動き、優愛が後ろから抱き締めてくれた。
ぎゅっと力が込められ、背中の柔らかいものがより一層、存在感を増す。
「胸の感触ぐらい……好きなだけ味わいなさい」
「ゆ、優愛……っ」
鼓動が跳ね上がった。
優愛の柔らかい胸の感触はもちろん、彼女の包み込むような好意に心臓が高鳴ってしまう。
ああ、好きだ。
俺、本当にこの子が好きだ。
気持ちが溢れ返って止まらない。
今すぐ言葉にして伝えたい。
そんな感情がどうしようもなく堪え切れなくなり、
「優愛っ、俺……!」
思わず振り向いた、その瞬間だった。
声が聞こえた。
壇上からだ。
ええ、はい、三上会長でした。
「あー、そこ。1年A組の真広と優愛」
「「――っ!?」」
マイク越しに名指しされ、俺たちはビクーッと反応。
見れば、三上会長がやれやれ顔の苦笑で俺たちを見下ろしていた。
「仲が良いのはいいが、全校集会中はほどほどにしとけよー? お前ら一応、来月から生徒の模範になる生徒会役員だからなー?」
ドッと笑い声が巻き起こった。
俺と優愛は我に返って思いきり顔を引きつらせる。
ちなみに俺たちはプロポーズの時に学校内で公開告白と公開キスをしているから、ある意味、学校公認のカップルだ。
まわりのみんなの笑い声は好意的なものだった。
ただ、それでも恥ずかしさはとてつもない。
しかもタイミングからすると俺と優愛の一連のやり取り、壇上の三上会長には最初から全部見えてたっぽい。
すべてを察し、俺たちは顔を見合わせる。
「優愛……」
「真広……」
2人同時に頭を抱えた。
「「ああああ~~っ!」」
羞恥に悶絶。
朝の母さんに引き続き、恥ずかしさに猛省する俺たちだった。
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次回更新:土曜日
次話タイトル:『第20話 唯花さん、どうしたらイチャイチャを我慢できますか!?』
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