第23話

「あ、思い出しました!テラスで踊った男の子!」


「あ、覚えててくれたんだ、良かった。」


そう言いながらニコニコとレオルド公爵は嬉しそうに言う。


「でも、思い出の中のあの男の子とは、随分性格が違う様な…?」


顔は確かにレオルド公爵だったが、なんだか口調や態度が全然違う。


「まあ、あの頃は1番荒れていたというか、反抗期?だったからね。」


続け様にレオルドは応える。


「あの頃は丁度剣術だの馬術だの、伯爵になる為に色々やらされていて、社交パーティも出たくないのに出させられていたから、隅っこで暇潰そうとしたところ、丁度君が居たんだよね。」


そういうことだったのか。


「でも、それなら何故踊りに誘ったんです?」


私はまた当時の質問を再度投げかける。


それはーと、レオルドは照れ恥ずかしそうに答えた。


「君のことは他の社交パーティでもたまに見てたんだ。いつも壁際にいるのが気になってて覚えてて、それで話しかけようと思ったんだよね。」


壁にずっといたせいで、逆に気になられていたとは。


それでは目立たない様にしてるのが逆効果だったのかもと今更後悔する。


「まあ、そんな感じかな?」

と言われ、私は、ん?と不思議に思う。


「結局、何で踊りに誘ったか教えてもらってないです。」


私がそういうと、レオルドは頭をガシガシ掻きながら、顔を真っ赤にしている。


「だから、ずっとお嬢さんのその儚げな横顔が綺麗で、可愛かったから誘ったの。」



「え?」


可愛い?私が?

儚げ?


何が何だか分からずまた混乱してしまう。


そしたら、少し口調を荒げてレオルドはこう言った。


「だーかーら!弱々しそうに見えて実は芯が強いとことか、その大袈裟なところとか、か、可愛いと思うし、ずっと前から好きだった。」


「だから、結婚してくれませんか?」


そう言って彼は手を差し伸べてきた。


その手は少し震えている。


顔は耳まで真っ赤だ。

そして、私も恐らく相当顔が赤いだろう。


頭から湯気が出てきそうだ。


正直、私は初めて一緒に踊ってくれた男の子のことは忘れもしない大切な思い出だった。


それに、ボロボロの私を助けてくれたあのフードの少年も、私にとっては命の恩人だ。


そして、私を救ってくれたレオルド公爵が、その男の子やフードの少年と同一人物だなんて。


「そんなの、ズルいわ…

断れる訳がないじゃない。」


私はそう言って彼の手を取った。


「不束者ですが、よろしくお願い致します。」


するとレオルドは何処に隠していたのか、指輪を私の左手薬指にはめてくれた。


私は嬉しくて泣いてしまった。


「いやー、良かったな、レオルド!

お嬢様もおめでとう!

若いっていいなあ!」


そう奥からハッハッハッとアルデーレおじさんの笑い声が聞こえてきた。


そういえば、ここは新聞屋で、薄暗いが奥の方にはアルデーレおじさんが新聞を書いているのを2人してすっかり忘れていた。


「水を差すなよ!父さん!」


レオルドの叫びに、アルデーレおじさんは愉快な笑い声で答えた。


「コホン、後それと、遅くなりましたがこれを。」


そう言って、レオルドは私に薔薇の花束を差し出した。


「え?これは?」


私は目を丸くして薔薇の花束を見つめる。


「お嬢様が脱走された日は16歳のお誕生日だったと聞いたので、もう数ヶ月ほど遅れてしまったけど。」


「ああ、そういえば!」


私は脱走のことばかり考えていて、自身の誕生日などすっかり忘れていた。


「いやあ、俺に似ていい男になったな、レオルド!」


「だから茶化すなって!」


そう叫んでいるレオルドが何だか可愛らしく見えて、思わず笑ってしまった。

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