第6話 大嘘付き

 ハンスの言葉にアイシャとトリシャは絶句した。


「嘘でしょ...だって昨日の今日よ?」


「馬を夜通し走らせたってことでしょうか...」


「王族が普通そんな危険侵す? 道に慣れてる私達だって、月明かりを頼りにおっかなびっくりやって来たっていうのに?」


「確かに...並々ならぬ執念を感じます...」


「なんだか怖いんだけど...」


 二人して肩を震わせた。


「まぁでも、居場所がバレてるんじゃ居留守使う訳にもいかないわね...ハンス、お通しして」


「畏まりました」


 やがてハンスに連れて来られた二人の王子の顔には、どちらにも目尻に深い隈が浮かんでいた。


「やぁ、アイシャにトリシャ、昨日振りだね」


「王子様方、ご機嫌よう。どうされたんですか? こんな所まで」


「いやぁ、公務でこっちに来る用事があってね。そしたらアイシャとトリシャもちょうどこっちに来てるって聞いたもんだから挨拶しようと思って来ちゃった」


 大嘘である。キスリング邸に潜ませている密偵から、アイシャとトリシャが馬に乗って領地に向かったと聞いて、大急ぎで駆け付けたのだ。無論、公務は放り出してきた。


「それはそれはご丁寧に。わざわざご足労頂きまして、ありがとうございます。では、さようなら」


「いやいや、挨拶だけで終わらせないで貰えるかな!?」


「でも挨拶って...」


「それだけじゃないってこと分かってて言ってるよね!?」


「はぁ...それでご用はなんですの?」


 アイシャは露骨にウンザリした顔で聞いた。


「その前に彼らを紹介してくれないか?」


 ランドルフが厳しい目をベルナンドとジルベルトの二人に向ける。それだけで二人は縮み上がった。王子に凄まれては当然の反応だろう。


「この二人はウチの寄子であるトーレス男爵家の次男ベルナンドと三男のジルベルトですわ」


「「 ど、どうも... 」」


 二人は完全に萎縮しながらもなんとか挨拶した。


「ふうん、男爵家ねぇ...」


 ランドルフがまるで獲物を見付けた鷹のような目を二人に向ける。


「お姉様、場所を変えませんか? この二人には関係無い話のようですので」


 トリシャがそんな二人を気遣うように言うと、我が意を得たとばかりにベルナンドとジルベルトは腰を浮かせて、


「「 い、いえ、僕達が席を外しますので... 」」


 と言って席を立とうとした...のだが、


「いやいや、遠慮することはないよ。君達がアイシャとトリシャと、どういう関係なのか興味有るしね」


 笑顔を浮かべているが、目は全く笑っていないランドルフに引き留められた。


「どういう関係と言われましても、この二人は私達の幼馴染みですけど?」


「それだけ?」


「何が仰りたいんです?」


「いやなにね? 婚約が決まらなければ修道院に入ると言った次の日に、いきなり領地に行ったりするもんだから、何かあるのかと勘繰ってしまってね?」


「それで慌てて追い掛けていらしたと? 公務のついでと言うのは嘘なんですね?」


 二人の王子は沈黙してしまった。そこにまたまたトリシャが爆弾発言の第二弾をぶちかます。


「まぁ、何かあるのは合ってますよ? この二人が私達の新しい婚約者ですから」


 大嘘である。その瞬間、全員の時が止まった。



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