第90話 『ヨミノクニ』ダンジョン④

「爺ちゃん大丈夫なのか? って死んでるから大丈夫じゃないよな……」


 シュタット爺ちゃんの目は中空を見て視点が定まっていなかった。


「この者と戦い勝利するならば、その魂を溶き放とう。案ずるな。この場での肉体は仮の物であり、倒す事に問題は無い。勿論お主たちの肉体は本物だから、負ければ魂はこの場に捉えられる。誰がやるのだ?」


「聞いても良いか? 俺達は帰れるのか?」

「何を馬鹿な事を、今から行う戦いはシュタットガルドの魂を解き放つための物であり、ここから出たいのであれば、我を倒すしか手段はない」


「やっぱりそうか。爺ちゃんと戦ってみたいのは誰かいるのか? 俺は嫌だけど……」

「俺が相手をしよう」


「ジュウベエか、レオネアより弱いって聞いたけど大丈夫なのか?」

「馬鹿野郎。相性の問題で分が悪いだけだ。爺には負けん」


「さっさと終わらせろよ」


 その時だった。

 いきなりシュタット爺ちゃんから、物凄い魔力が湧きだしたのを感じた。


 メーガンが一瞬で天使モードに変身しフェザービットで俺達を包み込んだ。


【メテオインパクト】


 巨大な焼きただれた岩が降り注ぐ。

 俺達は、取り敢えずメーガンに守られてるが、ジュウベエだけはビットの範囲から外れてる。


「しゃらくせええぇえええ」


 そう叫びながら、背中の【絶壊刀】を振り回しながら、降り注ぐメテオをシュタット爺ちゃんに向けて打ち返す。


 迫力がすげえな……


【ダイタルウェーブ】


 続けて爺ちゃんは津波を引き起こした。

 俺達は、フェザービットに包まれたまま、空中に浮かんでた。


 ジュウベエは【絶壊刀】に氷を纏わすと、その刃の上に飛び乗り華麗に波の上に乗った。


 中腰になりバランスを取る。

 南の海洋国家で流行ってるマリンスポーツでこんなのがあった様な気がする。


 確か『サーフィン』だっけ?

 巧みに波に乗り、その切っ先が爺ちゃんに届く瞬間。


 爺ちゃんの前に巨大な土の壁が現れる。


 【メガクレイウオール】


 そのままジュウベエが突っ込み一撃で破壊した。

 だがそこに、爺ちゃんの姿は無かった。


 どこだ?


 【ヘルバーニング】


 爺ちゃんは、ジュウベエの頭上に姿を現し、獄炎魔法を唱えた。

 マジやべぇなこの爺……


 だがジュウベエはこの巨大な火柱の中から、そのまま絶壊刀を突き上げる。


 普段精々3㎝幅の六角棒形体なのだが、その瞬間直径50㎝程の金属ハンマーのような形になり、爺ちゃんを天井に押しつぶした。


 だがジュウベエの衣服は黒焦げだ。

 相打ちなのか?


「カイン。相打ちとか思ってねぇだろうな? 俺の身体強化【金剛】は物理と属性攻撃を無効化するんだ。すげえだろ」


「ジュウベエ。自慢するのは良いが股間とか隠してからの方が良いぞ? レオネアがゴミを見るような目で見てるぞ」

「な、レオネア。待て。どうだ、爺に勝ったぞ」


「僕に近寄らないでよ? なんかバッチイ感じがするから」


「ほー、シュタットガルドに勝ったか。約束通り魂は解放してやろう。誰に宿す」


 閻魔がそう声を掛けて来たが、その瞬間、閻魔の身体にどす黒い紐が巻き付いた。


【使役】


 そう叫んだのはレオネアだった。

 

「な…… 自由が利かぬ。どういう事だ……」


「君ってなんか悪魔っぽいなと思って試してみたよ。どうやら君は悪魔みたいだね。僕のスキルだよ。悪魔であれば僕のこの【悪魔名鑑】から逃れられないよ。時々は呼び出してあげるから、しっかり働いてね」


 閻魔に巻き付いた紐は、レオネアの本から伸びだしていて、そのまま本の中に引き込み閉じ込めた。


 すると、その場に先程の水晶玉よりかなり大きな水晶が現れる。

 それと同時に、宝箱も現れた。


「どうやら…… この『ヨミノクニ』ダンジョン無事に攻略しちまったようだな。レオネア。その水晶玉触る前に宝箱回収しないと、俺の時みたいに入口に放り出されるからな?」

「解ったよ。それより先に爺ちゃんどうするの?」


 そう言ってると。

 シュタットガルドの魂らしきものが地上に降りて来て、その姿をかたどり始めた。


「みんな、こんなとこまで来たんじゃな」

「お、ちゃんと話せるんだな」


「ジュウベエに潰された瞬間意識が戻ったぞい。年寄りをもっと丁寧に扱わぬか、無礼者め」

「意識が戻ったなら良いじゃねえかよ。どうするんだ爺さん」


「あやつにきっちりと、止めを刺しに行くぞ」

「あやつって?」


「ギースのボケじゃ」

「えっ? ギースってあそこで死んだんじゃ無いのかよ」


「うむ。『ホーリークロス』が想像以上に凄い性能で、あの古代神殿の核であった、コアオーブの爆発からも奴を守りおったわ」

「じゃぁどうするんだ?」


「カイン。お主、黒曜石ゴーレムを持っておっただろう。それを出してくれ」


 シュタット爺ちゃんの魂は、黒曜石ゴーレムに吸い込まれた。


「どうじゃ? 中々可愛いかろう?」

「どこがだよ……」


「さぁ宝を回収して、さっさと行くぞい。それとジュウベエ! いつまで女性たちの前で粗末な物をブラブラさせておるんじゃ」

「爺に燃やされたんだよ!」


 俺が取り敢えず着替えを出してやって、服を着させてるうちに、爺ちゃんにざっと状況の説明をした。


「アイシャとガンダルフがおるのか。それは助かるの」

「爺ちゃんが戻って来たなら、ユグイゾーラからナディアとアイシャは連れ戻しても良いかな?」


「いや、そのまま学ばせた方が良い。わしがこの黒曜石ゴーレムの姿で行動できるのは、7日間だけじゃからな」

「えっ? ずっとじゃ無いのかよ」


「7日を過ぎて現世にとどまると、悪霊化してしまうのじゃ。その前にメーガンの姉御に、成仏を頼みたい」

「解ったわ。坊や。私が責任もって送ってあげるわよ。その前に一度アイシャの前に顔を出しに行くわよ」


「カイン。宝箱は僕が開けていいの?」

「レオネアが閻魔倒したし、いいんじゃねぇか」


 宝箱から出て来たのは『閻魔の警策えんまのきょうさく』と言う木の板みたいな武器と『浄玻璃の鏡じょうはりのかがみ』と言う盾だった。


 閻魔の警策はアンデッド特攻の武器で、敵がアンデット系統であれば、五割の確率で一撃撃破が可能と言う武器だ。

 ただし、チャンスは一度で二回以上叩いても、ただの打撃武器らしい。

 浄玻璃の鏡は、魔法特化の盾で、角度を合わせて魔法攻撃者に向けた場合、相手が放った魔法をそのまま跳ね返すと言う結構な高性能盾だ。


 流石Sランクダンジョンの宝だな。


 取り敢えず、チュールに装備させる事にした。

 水晶玉にレオネアが触れると、みんなが『ヨミノクニ』ダンジョンの入口まで戻された。


「あ、僕凄いの覚えちゃった」


「なんだ?」

「『ジャッジメント』って言うギフトなんだけど、魂を地獄に送るか天国に送るか決めれるんだって」


「レオネア? それって、閻魔のやってた仕事押し付けられただけじゃねぇのか?」

「えっ? マジ。 それヤダナ」


 取り敢えず、今は爺ちゃんとユグイゾーラに向かうとするか!

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