第84話 ドワイランド

 Ωオメガは帝国領土を横断し窟人族の王国ドワイランドの王都ドワリルムを目指していた。


「メーガン。ドワイランドは国としては大きいのか?」

「いえ、王都ドワリルム以外は鉱山と小さな村がいくつかあるだけの小国です。ただこの世界で使われる武器や防具は八割がこの国で製造されていますので、各国や冒険者達からは聖域の様に扱われていますね」


「凄いな。シュタット爺ちゃんの娘さんってドワーフなのかな?」

「それは会って見なければ解りませんね。ただ……」


「ただ、どうした?」

「私ですら、坊やが結婚をしたと言う話は聞いていなかったものですから」


「それも妙だな。結婚したならメーガンは招待されてても不思議は無いよな」

「ええ」


 ちょっと疑問を抱きながらもΩはドワリルムへと到着した。

 インビジブル効果を発動しながらドワイランド近辺の草原に停泊し、そこから無振動馬車に乗り換えて、ドワイランドの街へと入場を果たす。


「Sランク三名が一緒に訪れるなど、やはり帝国の紛争関係での、ご来訪でしょうか?」


 既にこの辺りでは戦国時代へと突入した帝国の情報は出回っている様だ。


「私達はあくまでも冒険者です。国同士の戦争や国内の勢力争いに置いて、私達が特定勢力を応援する事などはありません」

「そうですか。その言葉を聞いて安心いたしました。ようこそドワーフの街ドワイランドへ」


 街の入口で、ガンダルフ魔導具店の場所を確認すると、そのまま、まっすぐに向かう事にした。


 街の中は帝国の騒乱に加担して名を上げようとする傭兵たちや商人が、武器や防具を求めて随分と賑わっている。


 あちこちで揉め事も起こっている様で、街全体が殺気立っている。


「ジュウベエ。傭兵ギルドは冒険者ギルドとどう違うんだ?」

「王国には無いのか? 傭兵ギルドは」


「ああ。冒険者ギルドと商業ギルドしか無いな」

「傭兵ギルドの連中は基本的に対人専門だな。冒険者ギルドと仕事がかぶる部分は、旅の護衛位だが、対魔物であれば冒険者、対山賊がメインであれば傭兵ギルドから護衛を雇う事が多い」


「そうなんだな」

「基本、聖教国と通商国は国の常設軍を持って居ないので、戦争が起こると全て傭兵で賄う事になる。こいつらは契約で戦うだけだから、契約次第では昨日までの味方と今日は殺しあうなんて事もある商売だ」


「俺には無理だな……」

「戦争なんて起こそうと思う奴らは頭がまともじゃ無いからな」


「それで苦しむのは結局一般市民と言う事か」

「税金も上がるし、敵国が攻め込めば略奪や暴行も起こる。何も良い事は無いよ」


「それでも、戦争は無くならないんだな……」


 そんな切ない会話をしながら、ガンダルフ魔導具店へと到着した。

 剣や防具を扱っている店程の混雑は無く、店内のカウンターでシュタットガルドの娘さんを呼んで貰った。


「アイシャ。あんたにお客さんだよ。凄い綺麗なエルフさんだ」


 恰幅の良いドワーフの女性が大きな声を張り上げる。

 この街へ入ってから見て来た感じだと窟人族ドワーフの人々は全体的に背が低く体つきは男女ともがっちりしている。


 男性はひげ面が多く、女性は胸が凄く豊かな人が多い。

 受付の女性の胸と自分の胸を見比べながら、チュールが悲しそうにしてた。


 女性にひげが生えて無くて良かった…… と見当違いな感想を持ったさ。


 アイシャと呼ばれた女性は三分程で現れた。

 ドワーフ女性を想像していたが、現れたのは真っ白な白衣を身に纏って厚底の眼鏡をかけた20歳前後の人族女性だった。


 メーガンが話し掛ける。


「貴女が、シュタットガルドの娘さんなのですか?」

「はい。そうです」


「ちょっと込み入った話なので、場所を移させて貰って良いですか?」

「解りました。こちらへどうぞ」


 相手が一人だし、みんなでゾロゾロ付いて行っても変なので、俺達は店内で商品を見る事にした。


 俺がダンジョン探索で愛用していたような魔導具は、殆どがこのドワイランド産の製品だった。


 魔導コンロの最新型製品に興味をそそられる。

 ただ、今はΩの中に超高性能品が大量にあるので、買おうと思う程では無いのだが……


 減っていた消耗品の魔導具が王国よりもかなり安価に売っていたので、大量に買い求めて清算を済ませた頃に、メーガンがアイシャともう一人のドワーフ男性を連れて戻って来た。


 一緒に居るのはこの店のオーナーであるガンダルフさんだそうだ。


 アイシャさんの目は涙が浮かんでいた。

 ガンダルフさんの店は、実質はシュタット爺ちゃんがお金を投資してオープンしたお店だったそうで、この日はそのまま営業を終了して、シュタット爺ちゃんの葬儀の準備を始める事となった。


 俺達も全員で手伝い翌日には、シュタット爺ちゃんの埋葬迄終える事が出来た。


 この国にも当然冒険者ギルドがあり、そこのマスター達も来て、そこそこの規模のお葬式となった。


 アイシャさんは、シュタット爺ちゃんの娘ではあるけど血が繋がっている訳では無いそうだ。


 才能のある子を孤児院から引き取って、その才能の分野が魔導具開発に一番適していると思った爺ちゃんが、ガンダルフさんに預けて修行を積んでいたらしい。


「アイシャの才能は素晴らしい物があります。もう既に師匠であるわしを追い抜いていると言っても過言では無いでしょう」

「そんな……師匠。私は、まだまだ未熟です」


「アイシャ。メーガン様の話は聞いていたであろう。シュタットガルド様が最後に興味を持たれていた古代遺跡の魔導具。それをわしらの力で復活させてみたいとは思わないか? シュタットガルド様の替りにメーガン様たちを、お手伝いして差し上げようじゃないか」


「…… あの? ガンダルフさん? 俺達の船に来るんですか?」

「ああ、まだ見た事の無い未知の魔導具が大量にあるんだろ? 俺がアイシャと一緒に行って世に出して見せる!」


「嬉しいけど、この店とかどうするんですか?」

「ああ、この店で売ってる程度の物なら、他の弟子たちで十分だ。俺はその古代の飛空船に連れて行ってくれ」


「古代の魔導具はまだ調べ始めたばかりで、俺達の手では余ってしまう。これから、世界樹の島へと向かい、古代エルフ語を学び、魔導具と魔法陣の研究をして欲しいんだけど、いいのか?」


「古代エルフ語は、アイシャに任せる。わしは魔導具と直接向かい合えば、きっとパッションが湧くから問題無い!」


 この親父大丈夫なのか? とは思ったが、シュタット爺ちゃんが認めてたくらいだから、役に立たない事は無いだろうし、話を受け入れる事にした。


「古代エルフ語を私が学ばせて頂けるのですか?」


 と、アイシャも身を乗り出して来た。

 この二人は根っからの研究馬鹿なのか?


「ああ。爺ちゃんは読めてたけど、俺達は誰も読めないからな。うちのナディアと一緒に学んできて欲しい」


「解りました。その話をお受けしたいと思います」


 新たにアイシャを仲間に加えて、世界樹の島ユグイゾーラを目指す事になる一行だった。

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