第82話 帝国の終焉

 Ωオメガは俺が全速力で飛ばし帝都へと向かっている。


 ジュウベエやレオネアも表情に焦りを感じる。


「ねぇ爺ちゃん本当に死んじゃったのかな?」

「まだ、死体を確認した訳では無いから解らないさ」


「そう…… だよね」


 王国の南側ハルクの出身村から、全速で向かうと三時間程で帝都上空へと到着した、インビンジブルを掛けた状態で帝都の外壁の側に着陸し、俺達は逃げ出す帝都の人々の流れとは逆に、街へと急いだ。


 指示を与える者も居ないゴーレムは、無差別に人を襲い殺している。


「チュール、ナディア。離れるなよ」

「うん」

「はい」


「フィルは大丈夫か?」

「一対一ならなんとかなると思うけど……」


「解った。単独行動はするな。先にギルド本部に向かう。チュールとナディアは、ギルド本部内で留守番しててくれ」


「うん……」


 帝都内のギルド本部に到着すると、逃げ遅れた人やお年寄りたちが避難して来ていて、凄い混雑だった。


 メーガンが魔導通話機でマスターのボルビックへと連絡する。

 すぐに、二階のマスター室へ呼ばれ、俺達は入って行った。


「状況はどうなってるんだ?」


 ジュウベエが聞くと、マスターが答えた。


「現在、溢れ出したゴーレムを、衛兵と冒険者によって対処しているが、旗色が悪い。住人も冒険者達もけが人で溢れかえり帝都の教会横の診療所も飽和状態だ」


「国軍は何をしてるの?」

「命令を出せる立場の人間が居ないので帝都近郊の駐屯地から動いてないのです」


「馬鹿なのか? 今出ないで何のための国軍だ」

「命令無しで動いた時に、後から皇帝陛下に咎められれば誰が責任を取るのか? と……」


「この国はもう駄目だな」

「現在Cランク以下の冒険者に総動員を掛けて、帝都の住人をその駐屯地で保護するように案内させてますが…… どれ程の人数が無事で辿り着けるか」


「ボルビック。私達が帝都内のゴーレムは殲滅します。他の冒険者達は出来るだけ自分の身の安全を確保するように伝えて下さい」


 そう言って三人のSランクは街へと飛び出した。

 

「マスター初めてだな。俺は王国の冒険者でカインと言う」


「君が料理人カインか、ヴィンセント卿から話は聞いている、一応確認の為に見せて貰っても良いか?」


 そう言われて、俺は金色に輝くSランクカードを魔法の鞄から取り出して、ボルビックに渡した。


「くれぐれも他の冒険者や職員にはBランク冒険者で通してくれ」

「解った」


「俺達のパーティ希望食堂ホープダイナーのフィルとチュールとナディアだ回復に関しては、そこらの聖女よりよっぽど優れているから、すぐに診療所に派遣したい」


「助かります。よろしく…… お願いします」

「お兄ちゃん。治療対象が膨大な数になりそうだからお願い」


「ああ、おにぎりか。解った多めに渡して置くな。チュールとナディアはフィルを手伝うんだ」

「解った」


 そして俺はメーガン達を追って帝都の街に出た。



 ◇◆◇◆ 



 最初に見つけたのはレオネアだった。

 

「カイン。纏めて倒すためには呼び込まなきゃ難しいね」

「何かいい手はあるか?」


「皇宮丸ごとベルゼブブで飲み込ませちゃおうか? そこにメーガンとジュウベエにゴーレム集めさせれば一網打尽に出来ない?」

「よし、それで行こう」


「皇宮の中にどうやって入ればいいと思う?」

「ああ…… 任せろ」


 俺はその場で転移の魔導具を広げ、レオネアと共にオメガに戻ると、インビンジブル状態のまま、皇宮の上に着陸する。


 派手に宮殿を押しつぶしながらだがな!

 そこでレオネアを下ろして「後は頼むぞ。俺はジュウベエ達と一緒にこの宮殿の後にゴーレムを引き付ける」


「任せなよ。サモン、ベルゼブブ」


 その言葉に従いΩのサイズと変わらないほどのベルゼブブが召喚された。


 俺は、再びΩで飛び立ち、ベルゼブブが吸い込みやすいように協力してやった。


 Σシグマ! この中の建物を全て薙ぎはらえ。

 三つ首のヒュドラが俺の指示に合わせて、各種属性攻撃を放ち、帝都皇宮はあっと言う間にがれきの山と変わる。


 それを、レオネアのベルゼブブがことごとく飲み込み姿を消して行った。

 皇宮の後地には堀に流れ込む川の水が溜まって行く。


 その様子を確認すると、俺も帝都の街に飛び出しゴーレムを引きつけるために走り回った。


 ジュウベエの姿を見つけるが、戦闘スタイル的にゴーレムの撃破は問題無いが、引きつけるには適してないな……


「ジュウベエ。ゴーレムは纏めて皇宮の場所に集めて一網打尽にしたいから、ジュウベエは診療所を守ってくれ」

「応。解った」


 メーガンの天使状態が一番引き付けるには適しているな。

 メーガンに魔導通話機で連絡をして、誘導を頼んだ。

 俺は皇宮で待ち構えて集まったゴーレムを倒す事にする。


「レオネアは何か引き付ける手段はあるか?」

「任せて。僕の召喚でインプなら大量に呼び出せるからそいつらにゴーレムの興味を引きつけさせるよ」


 それから二時間程をかけて、帝都内のゴーレムはほぼ殲滅を終える。

 人口30万を誇った帝都は、死者10万を数える大惨事となった。


 だがゴーレムの興味は街の破壊には無かったので、住民が戻れば復興は比較的容易だろう。


 結局この事態を迎えても皇帝は何の動きを取る事も出来ず、求心力は皆無となり、帝国は各貴族家領主が次の覇権を争っての戦国時代に突入した。


 最初に動いたのは……

 皇帝が近衛騎士隊長と宰相、陸軍大臣を連れて逃げ込んだ、公爵家である。


 帝都の異変を聞き届けるとすぐに四人を拘束して処刑したのだ。


「今こそ、このオリバー公爵家が帝国の覇者となる時が来た。全軍で帝都を落とす」


 それと、同じように情報が辿り着いた貴族家達が次々と帝都を目指し進軍を開始する。

 当然力ない貴族家を吸収しながら。


 帝都にある一万の所領が、次々に淘汰されながら、帝都を目指し始めた。

 当然周辺国でも、この機会に帝国の所領を奪い取ろうと、挙兵を行う国が出て来る。


 一番積極的に動いたのは、ベッケン通商連合国だった。

 傭兵ギルドの連絡網で、大陸中から傭兵を集め、出来る限り支配域を広げようと準備を始める。

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