第78話 クラン『ドラゴンブレス』の終焉

αアルファ。メーガン達の世話を頼むな」

「お任せくださいご主人様」


 Ωオメガに乗った俺達一行は、亡くなってからもう一月近くなると言うのに、未だに葬儀が行われる事も無いままの、ハルクを埋葬する為に王都へと戻った。


 今回は戦闘をするわけでも無いので『希望食堂ホープダイナー』のパーティメンバーだけだ。


 王都の側に一度着陸してΩから降り俺達をおろすと、そのまま上昇して【インビジブル】を発動させて透明化するようにレオネアに頼んだ。


 この間にヒュドラ型ゴーレムのΣもコンバイン合体状態を解除して休息を取らせておくように伝えた。


 久しぶりに王都に入った俺は、まず冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドの受付でギルマスに面会を申し込もうと思ったけど、魔導通話機で話した方が早いと思って、通話機を取り出して耳に当てた。


『どうした? カインから連絡して来るとか珍しいな』

『ちょっと話したい事があって、今王都ギルドに来てますけど、時間は取れますか?』


『受付嬢に行ってアポを取ってあると伝えれば、俺の部屋に案内してくれる』

『解りました』


 受付嬢はすぐにマスターのヴィンセント卿に案内してくれた。


 俺はマスターに、ギースの古代遺跡の探索失敗と行方不明の件を伝えた。


「カイン。お前は何故その情報を知っている?」

「見に行ったから?」


「お前は…… ギース達が簡単にやられてしまう遺跡に一人で入っていき、孤児院の子供達を無事に連れ戻したと言うのか?」

「まぁそうだけど、元々の『ドラゴンブレス』のメンバーが誰も残って無い状況だと、クランも存続する意味が無いから、今残っているメンバーと話しをしようと思う。クランの財産を現金化して残ってるメンバーで分け与えると言えば、問題無いよな?」


「ああ。そうだな。当初のパーティの『ドラゴンブレス』のメンバーが誰もいない、クラン『ドラゴンブレス』にSランクの認定を与えたままと言う判断は、王都ギルドとしても出来ないから、それが一番いいと思う。今残っているメンバーに伝えるのはカインに任せていいのか?」

「そうだな、早くハルクの葬儀だけはしてやりたいし」


「葬儀には、私も出席しよう。ギースとミルキーの葬儀はまだ行わないのか?」

「それは、まだ不確定なんだが…… 生きてるかもしれないんだ」


「そうなると、先ほどのクラン解体の話も必要ないんじゃないのか?」

「いや、もし生きてたとすれば、とんでもない事をしでかすはずだ。マスターは国の偉い貴族様の家の出身なんだろ?」


「一応は…… 公爵家の次男だ」

「帝国の情報は入って来ているのか?」


「どういう事だ?」


 俺は現在帝都に起こっている状況を、かいつまんで説明した。


「それでは、カインは帝都の皇宮を占領して皆殺しにしたのがギースだと思っているって事か?」

「その可能性が高いってだけだが、もしそれが王国貴族として、この国が命じた売られた戦争への報復戦争だと言うなら、俺が別に何も言う事は無い。勝手にやればいい。ただ、そうで無くギースが勝手に始めたとしたら、帝国の次はこの国に矛先が向かう事もありそうだなと思ってる」


「それは、非常に重大な情報だ。俺は公爵家、王家の血統に連なる男だ。その様な愚かな行為を王国が仕掛ける事は無いと言い切れる。至急、俺の方でも情報を集め、対応策を協議して置く。それと…… カイン。その件で俺からカインに依頼を出す場合は受けて貰えるか?」

「あいつは、孤児院の頃からの幼馴染だ。そいつが間違った道を進んだなら、正してやることも必要だろ?」


「その時は頼む」


「あ、それとな。マスター」

「なんだ」


「冒険者カードの事だが、隠蔽カードだと結局鑑定機を掛けた時に、国内だとランクが解って、面倒な対応を取られるから普通のBランクのカードにしてくれよ」

「嫌なのか?」


「ああ」

「まぁカインがそう言うならしょうが無いか。そのBランクカードは普通のカードにしてやろう。ただしお守り代わりに、Sランクのカードも持って置け。特に国外での活動が多いと、役に立つ場面が必ずある。帝都のギルド本部に連絡を入れておくので、普段はBランクとして行動して構わない」


「解った」



 ◇◆◇◆ 



 王都のギルドを後にした後は、久しぶりとなる『ドラゴンブレス』のクランハウスを訪れた。


 丁度四班の班長であるサイモンが居たので話をした。

 第四班は、フィルが班長していた班でもある。


「みんな久しぶりだな」

「カインさん。フィルさん。お久しぶりです」


「今日は、みんなに伝えたい事があって来たんだ。ギースとミルキーはもう戻って来る事は無い」

「…… それはどういう事でしょうか?」


「あいつらは、古代遺跡の探索に失敗してマグマの池に落ちた。俺とフィルが確認したからほぼ間違いはない。ただ、死体を確認したわけでも無いし、王国の貴族家当主でもあるから、勝手に俺が死亡と判断する事は出来ない」

「そんな…… ハルクさんも失い、フィルさんやカインさんも居ない情況でどうすれば?」


「サイモン。俺とフィルで、ハルクの葬式はやらせてくれないか? このクランだがサイモンが引き継いで運営するのか、それとも解散してクランの資産をメンバーで分けるのかを選んで構わない。みんなが決めた事であれば王都のギルマスは自主性を尊重してくれる。ただし、ギース達が居ない状況だと、クランのランクは下げられると思う」


「そうですか…… 一応みんな集まって話はしますが、私には『ドラゴンブレス』の看板を背負って立つ事は出来ません。一応お聞きしたいのですが、フィルさんとカインさんで『ドラゴンブレス』を継承して頂く事は出来ないのですか?」


「俺には無理だ」

「私も無理。カインお兄ちゃんのお嫁さんになるから」


「そうですか…… それは…… 残念です…… と言うか、おめでとうございます」

「俺は、ハルクとリンダの葬式を行ってやりたい。明日、聖教会で葬儀を行って、ハルクの故郷の村へ埋葬してやりたいと思う。構わないな?」


「お願いします。一つお願いが」

「なんだ?」


「リンダをハルクの夫人として一緒に埋葬して頂けませんか?」

「えっ? あいつらそんな関係だったの?」


「俺達も最後の日まで知りませんでしたが、あの日にハルクさんが受け入れてあげた感じだったのは確かです」

「そうか。解った。それは受け負う」


 翌日、ハルクとリンダの葬儀を執り行い、遺体は魔法の鞄に収容したまま、ハルクの故郷へと俺が連れて帰り埋葬をした。


 一応は騎士爵を持ったままの死亡だったので、葬儀の費用は王国が出してくれ、貴族家からも人が訪れる葬儀だったが、ギースがこの場に居ない事を不審に感じたのか、あちこちで囁き話が起こっていた。


 クランとしての『ドラゴンブレス』は解散する事に決めたらしく、その辺りは、辞めた俺達が口を挟む事でも無いので、サイモン達に全てを任せた。


 ハルクの遺品を実家に送り届け埋葬したが、ご両親の姿を見てると、俺とフィルの目にも涙があふれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る