第30話 ドラゴンブレス⑤

(ミルキー)


 ギースの陞爵パーティには、この国の殆どの貴族が参加していた。

 私も『ドラゴンブレス』の初期メンバーであり、現役の攻略パーティのリーダーしかも、騎士爵を持つ貴族家の当主として、話題の中心にあった。


 新調したドレスと、それに合わせたアクセサリーも多くの人から、褒められる。


 ギースも言っていたけど、この世の春を謳歌するって、こういう状態なんだろうな。


 と思った。


 でもハルクは、余り楽しそうでは無い。

 パーティ用の正装とは言い難い、防御力を重視した衣装で現れ、多くの貴族家の女性からダンスに誘われても、断っていた。


 まぁ社交ダンスなんて、踊った事無いだろうから、しょうがないけど。


 前回のCランクダンジョン『オーガの墓場』での厳しい状況は、ギースにも説明した。

 ギースは「これまでサポートをカイン中心で取り組んでいたから、その辺りの引継ぎがうまく出来ていなかったのが問題だろう。新体制に慣れるまでは、アイテムにかける費用を必要だという額、認めてやるんだ。斥候職とサポート職のメンバーに必要な数量を、それぞれ見積もらせて、一番少なく見積もったメンバーをリーダーに引き上げて、指示を任せろ」


「解ったわ。それでやらせて見る。次のダンジョンは何処をやるの?」

「うん。Bランクダンジョン。『悪霊の巣』だ」


「えっ? あそこはフィルが居ないと厳しくない?」

「各パーティに一人は聖魔法を使えるメンバーが配置してあるから、大丈夫さ」


「ギースも来るのよね?」

「いや、俺は正式な領主が決まるまでカール村周辺の新領地の領主代理として、帝国側からの干渉が無いように監視してくれと、陛下から頼まれた。恐らくそのまま新領地はドラゴンブレス子爵領として、王国でも有数の穀倉地帯を預かる事になるだろう」


「凄いけど、あんな田舎に住むのは嫌だよ私は」

「正式な領地になってしまえば農地だけだし、代官を置いて俺達は王都で暮らすよ」


「そう。それならいいけど」

「まぁ向こうにいるうちに、カール村の西にある古代遺跡の探索を頼まれたからそこには行くけどな」


「大丈夫なの1パーティで?」

「流石に1パーティは厳しいから第5班を連れて行こうと思う」


「ねぇ私の班じゃダメ?」

「別に構わないが『悪霊の巣』の攻略は大丈夫なのか?」


「予算は使えるんだからハルクに任せておけばいいんじゃないかしら? 私は古代遺跡の宝物の方に興味があるわ」

「そうか。帝国が10万人を擁して迄狙った遺跡だから、かなりの価値のある物が眠っていると思う」


「素敵。もし遺跡の発掘に成功したら、出てくるものによっては更に陞爵もあるかもね」

「そうなれば嬉しいな。補給基地がカール村になるから、俺の出身の孤児院にも英雄の凱旋する姿を見せてやりたいんだ」


「子供達が見たら、同じ孤児院出身者のギースが子爵様になってるとか、憧れ以外の何物でも無いでしょうしね」

「そうだな。司教様は殺されてしまったらしいが、今は村全体をシスターが指揮してるそうだし、王都の土産でも持って行ってやろう」



 ◇◆◇◆ 



(ハルク)


 全くふざけてやがる。

 前回4パーティ投入して、Cランクダンジョンを何とかクリアできたって言うのに、今度は3パーティで、Bランクだと? しかもゾンビと悪魔系の敵がメインの『悪霊の巣』だ。


 あそこは斥候泣かせで有名なんだよな。

 前回俺達が1パーティで攻略した時はどうだったかな?


 ああ…… フィルがおにぎり頬張りながら、浄化かけ続けていたんだっけ。

 あのおにぎりには、どんな効果があったんだ?


 まさかMPの高速回復効果があったのか?

 いや、それだけじゃない。


 要所要所でギースの口にもカインがおにぎりを放り込んでたな。

 バフ効果と、体力回復それも継続的回復の様な効果もあったのか?


 ちょっとサポート班を呼んで同じ効果の物が作れるのか確認だ。


「そんな効果のある食事なんか作れるわけないじゃないですか!」

「やっぱりそうだよな。解った。今回は予算は余裕を持って取ってある。期間も3週間はかけていい事になっているから、必要な物資を計算して提出を頼む」


「あの……」

「魔法の鞄が1パーティに一つだと3週間分の物資を運ぶのはとても無理です。斥候職が使う魔導具専用で一つ。食事と生活用品で一つ、ドロップアイテムの回収で一つは最低必要になります」


「と言う事は後6個の鞄が必要と言う事か? 今までは魔導具や食料は25人のフルメンバーで潜ってもカイン一人で十分だったじゃないか? ドロップの収納も」

「それは、恐らくカインさんの魔力量が膨大だったんじゃないかと…… 私達の魔力量ではとても無理です」


 鞄だけで金貨60枚か……

 まぁこれは消耗品では無いから、何とかなるな。


「斥候班はどうだ。必要な魔導具を今回参加の15名が無事に戻れるだけの、見積もりを出してみてくれ」

「はい。ざっとで節約しつつ行動した場合で金貨90枚は掛かります」


「そんなにか……」

「前回のCランクダンジョンとは危険度が全く違いますから。それが最低限ですね」


「解った。攻略を成功させる事が優先だ。その分ドロップと素材収集をしっかりやって行こう」

「解りました」


「食材とポーション関係で、金貨70枚程度は見て頂かないと、3週間の長丁場では不足しますね」

「……」


 これはかなりヤバいぞ。

 3週間の探索で、金貨220枚プラス、クランメンバーの給与が15名分で200枚は必要になる。


 まさか、ギースについて行く班の給料まではこっちに言わないよな?

 金貨420枚の稼ぎをBランクダンジョンで稼ぎ出すのは……

 ほぼ不可能だな。


 それでも、やらないわけには行かないか。

 ギースとミルキーの古代遺跡探索で、黒字だして貰わなきゃ困るぞ……

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