第32話 コスプレパーティー

 飲み慣れないアルコールのせいで早くも頭がふらふらとしてくる。

 人は酔っぱらうともうひとつの人格が顔を出してしまうものだ。

 陽気になったり、怒りっぽくなったり、愚痴り出したり。

 俺の場合はその第二人格にやや問題がある。


 酔うと意識がボーッとしてきて、思考がややエロくなってしまうのだ。


 先ほどから三人の会話がだんだん上の空になってきている。

 音として声は聞こえているのだが、頭が回らず言葉としてなかなか認識できない。


「じゃ、ちょっと待っててね!」

「んあ? なにが?」


 質問するも答えずに三人はリビングから出ていってしまった。

 ちょっと飲みすぎてしまったかもしれない。

 俺はソファーに移動して横になる。

 数分後、三人はきゃいきゃいと騒ぎながら部屋に戻ってきた。


「じゃーん! どうよ?」


 三人はコスプレに着替えていた。

 玲愛はミニスカートのセクシーサンタ、霞ちゃんはピタピタのボディタイツのトナカイ、そして麟子ちゃんはクリスマスとは無関係なバニーガールだ。


「ええっ!? なに、その格好!?」

「クリスマス気分を盛り上げるためにコスプレしてみたの。どう? 似合う?」


 クリスマスとは関係のない格好をした麟子ちゃんが隣に座る。


「あ、麟子ちゃん、ずるいよ」


 そそくさと逆隣にトナカイの霞ちゃんが腰かけてきた。

 ぴったぴたのタイツを着ているからおっぱいの大きさのみならず、たゆんたゆんと揺れてその柔らかさまでアピールされてしまっていた。

 っていうかそれ、下着つけてる?


 真面目そうに見える霞ちゃんだが、実は三人の中で一番エッチに興味津々なのは前回遊びに来たときに知っている。


「ちょ、あんたら人の彼氏の隣に座って!」

「私は彼女二号だもん」

「じゃあ私は愛人でお願いします」

「どんな設定なんだよ」


 二人ともお酒でも飲んだかのようなテンションだ。


「あたしの座るとこないじゃん!」

「あるよー」


 麟子ちゃんはにやぁっと笑う。


「玲愛ちゃん、茅野さんのお膝が空いてるよ?」


 霞ちゃんも煽るように微笑んで俺の太ももをポンポンと叩いた。


「そ、そこはちょっと」

「じゃあ私が座らせてもらうね?」

「だ、だめ!」


 玲愛は慌てるように俺の太ももの上に座ってきた。


「ちょ、玲愛!」

「おおー! さすが彼女」

「茅野さんを一人占めだね」


 玲愛の柔らかなお尻の感触がダイレクトに伝わってきて異常に気まずい。

 降ろそうと思ったが、酔いが回っていて力が出せない。

 しかも頭がぽーっとエロくなってしまっていて、このままでもいっかと思えてしまう。


「そうだ、ケーキ食べよう」

「そうだね! 私、切ってくる」


 霞ちゃんがホールケーキを切り分けてリビングのテーブルに並べた。


「ケーキ食べるから玲愛降りて」

「あたしが食べさせて上げようか?」

「バカ。いいって」

「照れなくていいよ。ほら、あーん」


 ケーキを差したフォークが口許にやって来る。

 抵抗するのもバカらしくなり、そのまま食べた。


「美味しい?」

「うん、美味しいな」

「はい、もう一口」


 滑らかなクリームとふんわりとしたスポンジが口のなかで溶けた。


「茅野さん、なんか可愛い」

「からかうな」

「口にクリームついてるよ?」


 玲愛は指で俺の口許を拭う。

 指先についたクリームを数秒眺めたのち、ぱくっと舐める。

 なんかその姿が妙に生々しかった。


「うわ……バカップルじゃん」

「羨ましいな」


 麟子ちゃんと霞ちゃんが冷やかしてくる。


「も、もう降りようか、玲愛?」

「はいはい。ワインも飲みましょうね」

「ちょ、アルコールはもう」


 俺を黙らせるように玲愛がワイングラスを傾けてくる。

 ケーキで甘くなった口がさっぱりした。

 ワインとケーキって、意外と合うかも。

 でも更なるアルコールで頭の中は更にふらふらとしてきてしまった。



 それからのことはあまりよく覚えていない。

 気がつくと霞ちゃんと麟子ちゃんは帰っており、俺は一人でソファーで寝ていた。

 毛布がかけられているのは玲愛がしてくれたことなのだろう。

 その玲愛はキッチンで洗い物をしていた。

 セクシーサンタの格好のままだから、なんだか絵面的にシュールだ。


「ごめん。手伝うよ」

「あ、茅野さん。ごめん、起こしちゃった?」


 キッチンに行き、玲愛が洗ったものを俺がすすいでいく。


「二人も後片付けするって言ってたんだけど、遅くなるから帰したの」

「準備してくれたんだから後片づけくらいは俺がするのに」

「ごめんね、勝手に二人を呼んじゃって」

「いや。楽しかったよ。ありがとう。あんな学生のノリでパーティーしたのなんて久し振りだ」

「ほんと? よかった!」


 玲愛サンタはニッコリと微笑む。

 ちょっと顔の位置が高すぎて、ドキッとしてしまう。




 ────────────────────



 みんなに焚き付けられてすっかりはしゃいでしまった玲愛ちゃん。

 二人きりになって聖なる夜は更けていきます。

 次回は聖なる夜に二人きり。

 茅野さんは理性を保ち続けることが出来るのでしょうか?

 そしてサンタさんからのプレゼントはなんでしょうか?


 お楽しみに!

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