第20話
僕たちはいったん警察署に呼ばれ、そこで事情聴取を受けた。僕たちの相手をしているのは、
「僕たちは七夕さんが虐待を受けていたことを知り、警察に通報しました」
「録音機はどうしたのかな?」
「それは俺……ぼくが借りたんです」
「誰から?」
「……お父さんです」
「……君名前なんだっけ?」
「椎名です」
するとさっきまで疲れた表情をしていた志波は、一気に疲れが吹っ飛んだかのような顔をしていた。
「えーっと、椎名さんね、はいはい。もしかしてだけどお父さんの名前ってさあ、いや間違えてて欲しいんだけど、
「なんでお父さんの名前知ってるんですか?」
「まじかあ」
志波はもはや警察モードの口調を忘れていた。もう素が出ている感じだ。
「どうしたんですか?」
「いや、君のお父さんね、おれの上司なの。上司つっても、上司の上司の上司くらいの。もーめっちゃ怖いの」
その後、少し状況を話しただけで事情聴取は終わった。
僕たちはパトカーで家に帰されることになったのだが、これがまあ落ち着かない。何か犯罪を犯したみたいだ。
まあ実際そんなことをしたので、見当外れということもない。
あの録音した声。実は一部だけ加工して、罪をでっちあげている。その内容は、七夕忍を、友人に売り払うというところだ。
日本では自分の子供を売りつける行為は禁止されており犯罪になる。だから僕はそこに目を付けた。
あの時の会話「ただあとで金は請求させてもらうけどね」という発言を使って、より犯罪性の高い発言に変化させた。
バレればまずいが、そもそも発言自体を作り上げたわけでは無いのでバレる心配は無いだろう。
僕たちを乗せたパトカーは七夕、橘、椎名、岸水、僕の家の順番で回って行った。岸水が家に送られ、最後は僕の番になった。
すると、車を運転していた志波がこんなことを言った。
「ぼくは警察になって間もない新米だ、でも君は危ない感じがする。なんかこう、嘘とかで体を覆っているみたいな。君だけは本心が見えない」
「そうですか、でも僕はやりたいように生きていますよ」
「……君は絶対犯罪者になるなよ。手ごわそうだ」
岸水の家から僕の家までは近いので、すぐに目的地に着いた。
「ありがとうございました」
「いやいや。あ、そうだこれ」
すると志波は何やら白い紙を渡してきた。その裏には番号が書かれてあった。
「それぼくの携帯番号。何か困ったことがあったら言って、それじゃ」
志波はそう言い残すと、パトカーに乗ってきた道を帰って行った。
僕だけに電話番具を教えたのは、僕が一番あの時の当事者だと睨まれているからなのだろうか。それとも僕が普通に悩んでいそうと思われたのか。
僕は電話番号を捨てようかとも思ったが、またいつか何かに使える気がするので置いておくことにした。
※ ※ ※ ※ ※
次の日、学校に七夕は来なかった。おそらくそうだろうと予想はしていたが、本当に休まれると心配になる。
昨日のこともあるので、七夕には相当な負担だったのだろう。
七夕家の事件は父親の逮捕ということで幕が閉じた。母親は今後決めていくらしいが、たぶん逮捕されることは無いと思う。
だが逮捕されなかったからといって、それですべてが丸く収まったわけでは無い。七夕自信が母親を許せるかどうかにもよる。
それに……七夕家を終わらせたのは僕だ。父親の人生を終わらせ、七夕の心を深く傷つけ、母親の気持ちを知ることもなく終結した。
僕がいる事によって七夕は昨日のことを思い出し、トラウマになってしまうのではないのだろうか。
もしそうなってしまえば、僕は七夕や他のみんなとは絶交だ。今までそうだったように、僕はもう一度一人に戻るのだ。
それが当たり前のことで当然のことだ。一時期でも僕に友達をくれたんだ。七夕には感謝こそあれど恨みは無い。
だが、それでも少し寂しいと思ってしまうのは罪だろうか。
確かに僕は傍から見れば人の人生を荒らした悪人だ。頼まれてもいないことを過剰にし、他人を傷つけた。
でも僕からすれば仕方のないことだった。友達を助けるためには、誰かに犠牲になってもらうしかなかった。
七夕の父親にも母親にも何か言い分があったのかもしれない。もしかすればその言い分があっているかのしれない。
でも七夕はあの日泣いていた。それを見て助けてあげたいと思うのは間違っていないはずだ。
でもそれも結局は僕の自己満足と自己肯定でしかない。
僕は完璧人間では無いし、ましてや人の気持ちなんてわかる訳もない。
昨日のあの場所で、もし僕じゃなくて橘や岸水が作業していたらまた別の未来だっただろうか。
僕は知りたくなった。僕が正しいと思うことと、世間一般で正しいと思うことの違いを。
そうか、だから志波は僕に言ったんだ。「君は犯罪者になるなよ」って。
あの時パトカーに乗っていた中で僕が一番そっちよりだったのだ。あの人はしっかりそこを見抜いていた。
僕は憂鬱だ。正しいって何なんだろう。僕は正しいと思って行動した。でもこの胸にある罪悪感はどうして消えてくれないのだろうか。
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