黒猫のミイラ
服屋さんで働いていた頃の話なのですが・・・
当時の私はダンスが大好きで、
よなよなクラブへ通い、閉店後に路上でダンス練習。
なので毎晩朝の4時頃の帰宅となっていた。
しかし出社は午前9:45分からだったので、
約4時間は寝られる、そんな生活が普通だった日々。
その日も朝帰りして眠りについたが、
真夏だったので部屋が蒸し暑くて目が覚めた。
着替えて準備を終え、出社しようと車に向かう。
家の反対側、玄関とは真裏に位置する駐車場だ。
真っ赤な軽四だったのですが、ボンネットに何かが乗っているのです。
猫に見えたけどまさかな・・・と思いながら近づくと黒猫だった。
脅かせばボンネットに爪で傷をつけられそうで嫌だったので、
ギリギリまでそっと近寄った時、死んでいると分かった。
4本の足を真っすぐにピン!と伸ばして爪を出したまま・・・
背中を丸めて上にギュン!と上げ、顔は眼球をひんむいて、
口は限界まで開き、歯をむき出しにしていた。
その表情から声を想像すると『ムギャーーーーーーーーー!!!!』である。
一体何があったのだろうか・・・
恐ろしいモノでも見て心臓発作だろうか。
仕方がないのでゴミ袋に軍手を履いて掴んで入れたのだが、
その最中奇妙な事に気がつく。
身体に水分が感じられなくカサカサのパサパサだったのです。
いわゆるミイラです。
当然帰ってきたのは今朝数時間前。
その間にボンネットで死んだ猫がミイラ化するわけがない。
いくら夏でも朝4時から8時までの日差しでミイラ化しないだろう、
その程度なら脱水症状も起こるかどうか怪しいくらいの暑さだ。
もう一つは誰かが乗せたか・・・
しかしそうだとしたら問題がある。
母親は朝4時に起きており、私が帰ってきたのを知っている。
居間に座り、お茶を飲みながら本を読んでいたと言う。
本に集中していたかもしれないが、車はその居間の大きな窓から
丸見えの場所に止まっている、更に排気ガスが部屋に入るのが嫌で、
ボンネットを前に向けて止めているのだ、つまり誰かが来て
黒猫のミイラを乗せるなら、母とのその距離は3mないはずなのだ。
その距離で人影に気づかないとは思えない。
もっと言うと居間の窓は東方面を向いているので、
朝日を遮ると影が出るからますます丸わかりなのだ。
以上の事から誰かが置く事は不可能に近い。
ゼロではないが。
ともあれ黒猫の亡骸は保健所に電話をして引き渡したのだが、
真相は謎のままなのです。
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