見上げる女

こんなことを聞いたことはないだろうか。


後ろで気配がして、振り向くと誰も居ない。

その時は上に居ると・・・


これは友人が引っ越したアパートで体験したという話なのですが、

引っ越し作業が終わってやっと落ち着いたある日の夜のこと、

部屋で本を読んでいると後ろに人の気配を感じた。

振り向くと誰も居ない『そりゃ居るはずがない、独り暮らしなのだから』

そう、自分に言い聞かせて、その時は怖さを紛らわせたそうですが。


数日後に私に会い『後ろで気配がして振り向くと誰も居ない、

その時は上に居る可能性が高いから見ない方が良いよ、

目を合わせる為にガッツリ見てるから。』と言われてしまう。


『目が合ったらどうなるの?』


『見える人だとバレる』


『バ・・・バレたらどうなるの?』


『すがって離れなくなるかも』


私はこう言う事はオブラートに包まないで、知っている情報は

出してあげるタイプなのだ、その事で注意喚起が出来、

余計な事に巻き込まれないで済むかもしれない。

私の情報が正しいとは限らないが、嘘ばかりが私の耳に入ってるとも限らない、

もしかしたら助かるかもしれない情報なのだから。


友人はがっくり肩を落としたが、大丈夫なんて無責任な事は言えないわけで。


その夜、昼間の話を聞いていたかのように例の気配を背中に感じた。

深夜1時を回ったころだという、とっさに『バッ!』と振り向いた時、

私の言葉を思い出した友人は上を見てはいけない事を思い出した。


『上だ・・・上に居る・・・』


ゆっくり見上げた時、目の前1cmのところに

焼けただれた赤い人の顔が覗き込んでて

思わずギャーーーーーーーーーーーーーーーー!

と悲鳴を上げた。

隣の住人さんが慌ててドアを叩き『大丈夫ですか?』と叫んでいる。

何秒目の前にその赤い顔があったか覚えていないが、

けたたましく叩かれるドアの方を振り向いて、向きなおしたらもう居なかった。


親切なお隣のおばちゃんに丁重に謝ったが、お化けが出たとは言えなかった。

しかしお隣のおばちゃんは『もしかして・・・でた?』と、

両手を古典的なうらめしや~スタイルにして聞いて来た。

信じてもらえないとは思いつつも『あの・・・火傷の様な痕のある赤い顔が…』

と言うと言い切る前に『やっぱり・・・』と遮って入ってきたおばちゃん。


聞くところによると、ずーっと昔の話だが友人の部屋で女性が

灯油被って焼身自殺したらしいのですが、ほぼ顔だけ火だるまになり、

あまりの熱さと痛みで外に飛び出して駐車場で死亡した。

つまり部屋は多少の焦げ跡と灯油の臭いくらいのものだったので、

ちょっと直して貸し続けていたらしい。

だが亡くなった女性の気持ちは部屋にあるらしく、

その部屋は誰が住んでも無言で直ぐに出て行くのだとか。


もちろん友人は引っ越した。


気持ち的にその場所から離れたくて遠い場所にアパートを借りた。

それから何年経っただろうか・・・仕事の納品の絡みで

あのアパート近くへ来ることになった。

友人は導かれるようにと言えば雰囲気が出るけれど、実際は興味本位。

『まだあるのかな・・・』と思いながらその前を通りかかると、

雨の駐車場に立っていたのはあの火傷した女だった。

じっと部屋を見上げているその姿はまるで

思念を部屋に送っているようだったと言う。


見える友人の気配に気づいたらしく、ゆっくり振り向いたので、

友人は眼をそらし、前だけ見て車を走らせた。


後ろも、上も見ずに、前だけ見て。。。。

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