新聞配達

中学生の頃の話です。


Kが新聞配達を始めたと言う。

どうせ長続きしないだろうと思っていたのだが、

私と同じくとある漫画の大ファンだったKは

グッズを買いまくりたいらしく、お金が欲しいからと言って、

春から始めて今は冬、やるといったらやるヤツだった。


雪も多く寒さも厳しくなってきたある日、Kがこう言って来た。

『冬の恐怖スポットめぐり、したくない?』


『したくない、寒いの嫌い』


『マジヤバいくらい怖いから、ね、ね、行こうよ』


『あんた配達エリア増えてしんどいだけなんじゃないの?』


『う!・・・バレた?はは、でも怖い所があるのはホントなの、

お願い!手伝ってくれない?』


『手伝うって1回手伝ったって意味なくない?』


『実は明日の配達で私終わりなの、最後だから、ね!ダーリン頼むっちゃ!』


『誰がダーリンじゃ!わかったよもう、何時にどこ?』


『朝4時に中村商店の前で!』


『うんわかった4時ね・・・よじ!?????もうっ!!!!』


そんなわけで可愛くないラムちゃんに頼まれて朝四時に待ち合わせる事に。


翌朝、目覚まし時計が鳴り、寒いし眠いし逃げ出したかったけど、

約束だし暖かくして中村商店へ向かった。

もうKが居てあたたかい珈琲を渡してくれた。


『おはよう!』取ってるポーズは笑拳の笑のポーズでむかつく。


Kの新聞がたっぷり詰まった自転車の後ろを押して、人気の少ない山の方へ

ゆっくりと向かった。

別にド田舎ではないが、地形の起伏が激しく、道路を1つ越えたら

急に山と言う変化の激しい街なので、少し歩くともう暗い山が味わえる。

山だけあって除雪が入っておらず、腰まで雪に埋まりながら進んだ。

進んだというより溺れている感じだった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


地響きが聞こえて振り向くと巨大な除雪車がこちらへ向かって来た。

鉄の鮫のような恐怖があり、自分らが居る事を手を振ってアピールしたが、

見えていないようで真っ直ぐ向かってくるのが分かった。

道は一本で、逃げるなら3メートルくらい下の

畑があった白銀の床へ飛ばなくてはならなかった。

Kは声を張り上げてアピールするが止まる様子が全くない。

絶対死ぬと思った私は自転車を蹴り飛ばして下へ落とし、

Kの服を掴んで飛んだ。

空中に居る私の顔面に除雪車の掻いた凄まじい雪が

吹雪のように襲い掛かってきた。


ド!


かなり深い雪の底に落ちたのが分かった。

息が出来ないので必死で空間を作って息をした。

落ち着いてからなんとか這い上がると、雪の下から声がした。

Kを掴んで引っ張り上げると、漫画のようにブハー!と一言。

飛ばなければ除雪車に巻き込まれて100%死んでいた。

巻き込んだ事も気づかずに行ってしまい、肉片や血は雪に埋もれ、

春になってようやく衣服の端切れが発見されて事件発覚・・・

そんな事になっていただろう、本当に危なかった。


自転車を2人で何とか引っ張って深い雪を進み、

道路横の階段を上って3m上の道に出られた。

疲労困憊とはこのことだね、心底疲れた。


もうどうでも良かったけど、ちなみに恐怖スポットはどこかと聞いた。


するとKは『それが・・・ここなんだよね』と指差した家。

ボロッボロで、見た感じでだけれど、人が住む状態には見えなかった。

はっきり言って廃墟・・・でも別に恐怖というほどでもない。

『ん?』とKの顔を見ると『ほら』と言った。

廃墟の様な家の方に振り返ると、電気がつき、

玄関のすりガラスギリギリの位置に立っている老婆が見えた。

なぜ老婆とわかるのか?

スリガラスもギリギリまで近づくと、姿かたちくらいは分かる。

黙って立っているのだ・・・

新聞を郵便挿しに押し込むと、なんと新聞を待っていたと思いきや、

電気が消えて老婆が遠ざかったのです。


何が何だかわからないのですが、Kが言うにはいつもこうなんだと言う。


少しゾッとして家に帰った。


それから春になり、雪が解けたのでKとその老婆の家を見に行った。

Kが言うには雪が降ってから追加された家だから、夏は見たことが無いと言う。


あった・・・あったのだが・・・


裏に回って驚いた・・・家の半分が無いのです。

それが何を意味するのかは分からないのだけれど・・・

やっぱり人が住めるような状態ではなかったのです。

半分無い家、覗き込んでも生活感は全くない、つまり廃屋。

学芸会のハリボテの家みたいな廃屋。

もしかしたら住んでいたが引っ越して半分崩れたとか・・・

何もかもわからず仕舞いではありますが、そんな不思議な思い出です。

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