第104話 第五話 その25 合言葉

「おうだお!マインスイーパーちゅん助と呼んでくれだお!」


「撤去してどうする…」


 ゴゴゴゴゴゴゴ!


「奴が動き出した!」


「ふぁふぁーん(←泣いている音)こっちの準備はまだなのに!」

「あっちは整いました!ねずっちょです!」


「勇者様!再びこちらにやってきます!」


 ダイオウの頭部から上がっていた炎はとうに消え立ち登る煙も消えかけていた。


「隊長!奴はなんとか俺が引きつけます、その間にこれを!」


 俺は腰に付けたバッグごと22発分の爆人石弾をガレッタに手渡した。


「は、はい!」


「イズサン!気を付けろよ!絶対奴の正面に立つんじゃないお!時間だけ稼げ!」


「分かってるよ!準備を急いでくれ!」


 俺はダイオウの側面に回りながら牽制した。


「来いよ!デカ物!そんだけデカけりゃ小回りは利かないんだろう!?」


 ザシュ!ザシュ!


 バックハンドからフォアハンド!往復斬撃で奴の装甲を斬り付けなんとか挑発しおびき寄せる!


「ギィイ!」


 ズゴゴゴゴゴ!


 完全に修復を完了したダイオウが顔を俺に向け動き始める。右へ右へ!回り込む!


 「キーキー!」


 足元には灰色!噛まれないよう両者に注意して位置取り!常にダイオウの側面へ回り込むことが出来たなら、簡単には捕まらないはずだが、足元に迫る灰達のせいでそれすら命がけだった!


「隊長!ここ!まずこの蓋を開けてくれだお!」


「分かりました!」


「そこの隊員!おまえも手伝ってくれだお!」


 ちゅん助が付近で戦っている隊員に増援を求めた!そこそこ重量のある側溝の石蓋も、二人掛かりでなら何とか外すことが出来た。


「良かった!ここの中は、まだグソクは侵入してないみたいだお!」

「隊長!その蓋を側溝内に落とし込んで!側溝の向こう側を完全に遮断してくれだお!」


「向こう側を、完全にですか!?」


「爆炎、爆風を出来るだけ上方に集中させるために横方向は出来るだけ塞ぐんだお!」

「こっち側からはわしが狙撃する!」

「通路を射線にするお!」

「爆人石弾地雷群をちゅなめす!目標を狙い撃つんだお!」


「……?」


「ちゅんすけ~!!!隊長にそんなギャグ言っても分からないぞ!!!」


 ダイオウに追われながら俺は叫んだ。


「わかっとるわ!ボケただけだお!」


「ちゅん助様!分かりました!あちら側は塞ぎます!」


「爆人石弾をくれだお!」


「こ、ここに!」


 ちゅん助は素早く側溝に飛び降りると、爆人石弾群をセットした!


「そうだお!隊長!」

「バッグの中に粉末が入ってる袋が2つあるお!」

「二つともくれだお!」


「ちゅん助様、こ、これでしょうか?」


ガレッタがバッグの中から小袋をふたつ取り出すと側溝下のちゅん助に渡した。


「そうだお!」

「この粉末を爆人石に振り掛けて!!!」


「ちゅん助様!それは?」


「さっきの爆弾に使用してた加工精霊石の削りカスだお!」

「風と炎の精霊石の粉末だお!」

「爆弾は全ツッパするお!」

「そしてこの粉末をこの爆人石弾地雷群に振り掛けておけば!」

「地雷群の爆発にプラスして燃焼剤と酸素が供給されまくって威力が級数的に跳ね上がるはずなんだおッ!!!」


「なるほど!」


「おいしょ!おいしょ!だお~!」


 あり得ないくらい素早く動けるちゅん助だったが、それは平面だけの話で上方への移動はとてつもなく鈍い。ジャンプしてもたかが10cm。50cm程しかない側溝の壁をよじ登るのも一苦労だった。


「隊長!次はこっちの蓋外してあっちの穴の反対側の通路、爆人石弾群が見える程度に塞いでくれだお!」


 地雷群から離れる事、直線で15m程の位置の蓋を指定しガレッタと隊員が外した。


「こ、こうですか!」


 ガレッタと隊員がやや傾けた状態で蓋を落とし入れた。こちら側の通路からは爆人石弾群が僅かに見え、なんとか狙える状態となっていた。


「これだけ見えとれば十分だお!」

「爆風と爆炎も一瞬だが…蓋で躱せるか?」

「あとは…」


「あとは?」


「あとは短剣みたいな武器をできるだけ集めてくれだお!集めたら爆人石弾群地雷の上に!」


「短剣ですか!?何故?」


「爆発、爆風の威力を高めるために地雷の上に剣を敷き詰めるんだお!」

「これは自衛隊の人が竜をやっつけるためにやっていた戦法だお!」


「ジエータイ?」


「ちゅんすけ~!!!それはアニメの話だろ!」


 ダイオウに追われながら俺は叫ぶ!


「なるほど分かりました!まずは私めと彼の短剣を!」


 ガレッタは自らと隊員の短剣を爆人石弾の上に置くと、周囲の犠牲者の亡骸から何本もの短剣を集めてきて同じように敷き詰めた。


「おっしゃー!隊長!その辺でオーケーだお!」

「あとはイズサンと協力して、なんとかその穴の上にアイツをおびき寄せてくれだお!」


「わ、分かりました!やってみます!行くぞ!」


 ガレッタは隊員を引き連れイズサンの元に走った!


「イズサーン!喰われてないかお~!準備は万端!あとはそいつを連れて来てくれだお!」


「喰われとらんわ!わ、分かった!なんとか!何とかやってみる!」


 ちゅん助は側溝内に潜みパチンコに爆人石弾をセット!


 その時に備えた!


 ダイオウは当然の様に俺に狙いを定め執拗に迫って来る!右へ右へ!俺は不格好ながらも闘牛士よろしく何とか突進をすんでのところで躱し続ける。

 巨体が俺の横をかすめるたびに寿命が縮まる思いだった。


 もし、脚でももつれたら?


 そう考えるとまた股間を濡らしそうなほど恐怖であった…


 ダイオウの突進スピードは巨体ゆえかそれほどではないが失敗、即、死!の状態では…


 道幅が1m以上ある道だとて、上空100mに通っていたなら渡るのは命がけ、まさにそんな状態だった。


 俺は何とか躱しながら爆人石弾群地雷の穴とちゅん助が潜む穴を見比べる。

 両者の距離は20m弱と言ったところか?


 ちゅん助はああ見えてびっくりするくらい器用だった。この距離ならアイツのパチンコ狙撃の腕なら難なく命中するだろう。

では爆風爆炎の横への走りは…?


「ちゅんすけ~!着火後そっからすぐに出られるのかあああ!?」


「んなことより自分の心配しろだおおおお!何時でもこいッ!」


 アイツは地面では、平面ではちょこまかと、そこいらの猫より遥かに、信じられない位すばしっこいが登り道とか階段はてんで駄目なのだ。


 本当に大丈夫か!?一抹の不安がある。


 しかしこちらもいつまでも躱し続けてはいられないギリギリなのだ。ガレッタ達が灰色を処理してくれているがいつまで接近を防いでくれるか確証は全くない。


 まだ余裕がある今のうちに、こいつを、ダイオウを誘導せねば!


「ちゅんすけ~!合言葉!合図を!」

「合図を決めてくれ!なんて言えばいい!?」


「合言葉!?」

「おし!」

「おまえが『さくらじま!』そしてわしが『大噴火!』これで行くおー!」


「わ、分かったッ!」


「側溝にグソクが入ってきたら終わりだお!早く!」


「分かった!」

「誘導したら大声で叫ぶ!」

「ミスんなよー!」


「ぬかせ!」

「わしはおまえと違って週末サバゲーマーだお!」

「このくらいの距離!屁も出ないわ!」


「便秘になってどうする…」


 第五話

 その25 合言葉

 終わり

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