第78話 第五話 その5 決断要請!

「街を出るだって!?」


「そうよ?」


「街の皆を!見殺しにするつもりなのか!?」


「見殺しとか!人聞きの悪い事言うんじゃないわよ!失礼な!」


「だって!」


「なにがだってよ!こんだけ侵入を許したらもう手遅れよ!」


「ご主人サマ~すまないっぽぉお~ボクがついていながらこんなにもたいりょうのグソクに気付かないなんて…」


 ファイアストンが申し訳なさそうにフラフラと舞った。


「ファイアン、あんたのせいじゃないわ!あんだけ雨が降り続いたのよ」

「あんたの感知能力がいくら優秀でも、あの雨の中じゃあ炎の精霊のあんたじゃ仕方ない」


「ぽぉ~…」


 無念!


 そんな感じで小炎が揺らめく。


「それにね!これだけ立派な防壁があって、ここまで侵攻を許すなんて街の防衛隊が間抜けなのよ!」

「私としても24時間警戒を命じるわけにもいかないもの!この街のど真ん中じゃあ休んでて当然よ!」


「この街の防衛隊は機能していないんだ…」

「グソクがあまりにも増えすぎていて皆、駆除討伐に駆り出されているんだ!」


「あっそう!」

「ならいっそう自業自得!因果応報じゃない!」

「この有様も当然の帰結よね!」


「そうだっピュ!」

「あとファイアン!こんな状況、誰も想像できないっピュ!」

「気にする必要はないピュ!」


「ふふふw!」

「天才戦略家たるわしはこの状況を予想していたお!」

「ノルマンディ上陸作戦!この日は無…!」


 ギュウウウウウウウ!

「ぐえああああああ!!!!」

「……」

 

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 俺は少女の持つ槍に手を掛けて、少女と一緒に柄の下でじたばたしている黄色い不思議な生き物を押し潰した。


「キミ!俺を助けてくれた時みたいな大爆発をもう一度起こせないかな!?」


「はあ?」

「あんたバカぁ?やれるもんならとっくにやってるわよ!」

「どこぞの間抜け一匹助けるためにデカいのは使い切っちゃったの!」

「金はあるってのに!石は無い…この街も使えないわ!」


「か、金はもともとわしのではな…!」


 ギュウウウウウウ!

「ぐえおおおおおお!」

「うう…」


 そう言われると返す言葉が無かった。もしこの少女が俺を助けていなかったら、代わりに街は救われただろうか?


「だから!」

「この際、頼りないアンタでも、街を脱出する弾除けくらいにはなれるでしょう!?」


「弾除け!?」


「ぶわはっはっはw」

「イズサン弾除け扱いw!」


 ギュウウウウウ!

「ぐえああああああああ!」

「………」


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「確かに街を出るなら、それなりの人数は必要だけど…しかし…」


「考えてる時間は無いわよ!」


「そうだお!イズサン!さっさと行くお!」


「ちょっとアンタ!」

「人の頭の上に乗んじゃないわよ!」


「そ!そうだッポ!そこはボクたちのいちだっぽ!」

「エロぴよどくっぴゅ!そこはワタシたちのひっさつわざのしていせきだぴゅ!」


 いつの間にか槍の柄から抜け出したちゅん助が、少女の頭の上に乗っかって逃げる気満々で俺を急かした。


「それとも?」

「メシアの勇者様とやらはぁ?街をお救いになってくれるのかしら?」


「勇者様!?お兄ちゃんが勇者様なの?!」


 恐怖に震えていた少年が、少女の言葉に反応し初めて口を開いた。


「いや、少年、俺はそんなんじゃ…」


「お願い勇者様!」

「皆を助けて!」


「クソガキ!」

「そんなんじゃないと言うとろうが!」

「こっちはそれどころじゃないんだお!」


 子供嫌いのちゅん助が切れた…

 彼としては『ぼくのかんがえたさいきょうのびしょうじょ』と一緒に逃げ出せるのは願ったり叶ったりなのだ…


「父さんが言ってたんだ!」

「この街はいま危ない状態にあるけど勇者様が訪れてくださった」

「きっと救いの手を差し伸べてくれるだろうって!」


「なんちゅう!」

「なんちゅう!他力本願な街だお!」

「どこぞの馬の骨とも分からん勇者に!」

「何の実績もない勇者に救いを求めるなんて!」

「どいつもこいつもアホかお!」

「だいたいコイツのアホ面みたら!」

「なんの役にも立たない馬の骨だって事くらい子供でも分かるだろうお!」


 アホ面以外は、その通りなのだが…


 こいつに言われると無性に腹が立つ!


「イズサン!」

「さっさと行くお!」

「こっちだって何の保障もなしに自己責任で討伐隊に参加してたんだお!」

「参加してたのは討伐隊であって防衛隊じゃないお!」

「街の警備はこの街の責任だお!」

「わしらが気に掛けるこっちゃねえお!」


「そうよ!」

「そうだっポ!」

「そうっピュ!」


「珍しくアホの言う通りだわ!」

「珍しいアホのいうとおりだポ!」

「アホが珍しくいうとおりだピュ!」


「アホは決断の遅いイズサンだお!」 


「ゆ、勇者様~!」


「大体ね!」

「以前にこの街を訪れた時」

「この街のへっぽこ防衛隊だかなんだかに、私はグソク駆除と増加の原因追求を依頼された事があるの!」

「で、その時、そいつらになんで剣なんて使ってるの?って尋ねたわけ」


「剣?」


「そうよ?」


「剣が何か?」


「はあ?」

「あんたバカぁ?」

「まあ、あんたも剣を振り回して喜んでるみたいだけど!」


「喜んではいないんだけれど…それに君の様に皆が弓とか強力な魔力攻撃を使える訳では…」


「アンタ!ほんっとに馬鹿ね!」

「誰が弓とか!魔力とか!そんな難しい話してるのよ!」


 コン!コン!コン!

「入ってます~?入ってますう~?」


「アイタタ!止めて!俺はちゅん助じゃないんだ!」


 少女がほんとに呆れた!と言った感じで俺の頭を槍の柄で小叩きにした。


「こらぁ!わしなら小突かれてもいい!という認識!やめるお!」

「しかし!」

「イズサンが小突かれたので!わしもお嬢ちゃんにやり返すお!」

「どこを小突いて欲しいかおw!」


 ドカッ!

「ぐえあ!」


「私が手にしてる武器何かしら?」


「槍の様だけど…?」


「様だけど…じゃなくて槍よ!」

「防衛隊の話に戻るけど、なんでグソク相手に槍じゃなくて剣なんか使ってるの!?って聞いたのよ!」


「ええと?」


「ここまで言っても分かんないの?」

「ったくこれだから三流は…勇者ってのもなんかの間違いね!」

「いい事!?」

「グソクがいくら大きくたって80cm位よ!」

「1m以上ある奴はそうそう居ないわ!」

「全部私たちの腰から下の体高くらいしかないわけ!」

「ほとんどが5、60cmの個体よ!」

「それをアンタらは剣でわざわざ腰を屈めて!突いたり斬ったりして!」

「不自然な体勢で労力をかけて退治してるわけ!」

「数匹なら問題ないと思うわ!」

「でも一日何百匹と駆除するんでしょ!」

「槍なら立ったままの姿勢で何匹でもやっつけられるわけ!」

「作るのだって使用する金属が少ないから、剣1本作る分量で槍なら5本は作れるわ!」

「大量供給が可能なわけ!」

「おまけにグソクの発生源はここガリン平原でしょ!」

「槍を扱うには障害物もないわけ!」

「剣より遥かに安全な間合いから攻撃できるの!」

「なのに!」

「な!ん!で!」

「剣なんか使ってるのか!?」

「そう聞いたのよ!」


「聞いたッポ!」

「聞いたッピュ!」


 少女の言い分はもっともだった…言われてみると俺…なんで剣を振り回してる?


「……なんでだろう?」


 コンコンコン!

「入ってますか~?入ってますかあ~?」


「アイタタ!止めて!ちゅん助じゃ…」


「バカさは同じようなもんよ!」

「そう聞いたらあいつらがなんて答えたか教えたげるわ!」

「誇りあるライジャー流だの優れたノボルク流を極めるだの!」

「く~だらない答えばっか返ってきたの!」


「わしの巌流!必殺燕チェリー返し!喰らってほしいおw!」


 ドガッ!

「ぐはあ!」


「別に私を頼るのは構わないわ!」

「正当な理由なら依頼も受けるわ!」

「でも!」

「ここの奴等ときたら二流以下の腕前しかない癖に、剣士の誇りガーとかライジャー流ガー!とか」

「わけ分かんないこと言って話にならない!」

「自分達の目の前にある欠点も直さないで!人に頼ろうなんて!」

「私はそういうの気に入らないの!!!」

「この惨状もチンケなプライドを優先させた!そういう積み重ねがこのザマよ!だから私はさっさと引き上げる!」

「文句ある?」


「ないお!」

「まったく!ないお!」

「そこまで改善提案を出して貰ったら!」

「即刻!槍でやり直すべきなんだおwww」


「つまんないわよ!」


 少女の言い分はまたしても、もっともだった。


「勇者さま…」


 少年は不安そうな表情で俺を見つめている。


 今こうしている間にも街の被害は拡がっている。先程の少女やこの少年の様な被害者も多数出ているはずだった。

 

 勇者の判定を受けたからどうこう、そんな思いは皆無だったが、この状況に自分が関与したかもしれないという思いがどうしても引っ掛かっていた。


「さあもういいでしょ!?すぐ決めて!」


「決めてくれお!」

「決めるッピュ!」

「決めるッポ!」


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 第五話

 その5 決断要請!

 終わり

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