第44話 第四話 その5 みんなが待ってた!(いや!作者が一番待ってた!) お待ちかねのメインヒロイン遂に登場!

「ようやくガリンに今日中には着けそうね」

「まったく散々だったわ…なんなのよ!」

「あの村!天下の神魔弓士サマのこの私に依頼しといて!」

「約束の20分の1も払えないって馬鹿にしてるわ!」


 ガリン平原を望む山岳地帯の山道をマントを被った少女が一人歩いていた。


 マントのため顔は見えず、表情も読めないが少し立腹した感じの声であった。が、機嫌悪そうとすぐ分かる声色であっても少女と分かる美しい特徴のある声だった。


「でもご主人サマ、お金受け取らなかったっぴゅ?」

「突き返したっぽ!」


 歩いているのは少女一人のはずだが誰かと話している様だった。


「あ、当り前でしょ!」

「あの程度の額!遠征代にもなりゃしないわ!」


「根こそぎちょうしゅうすればよかったっぽ?」


「ば、バカねぇ!そんな事したら神魔弓士の名に傷が付くってもんでしょ!?」

「それに!正規の報酬は用意出来たらちゃんと回収しに行くわよ!」

「今、あるだけ取り上げたら村は全滅、用意出来るものも用意出来なくなるわ!」

「豚は太らせてから!」

「それだけの話よ!きっちり利子まで回収しに行きますからね!」


「ぽっぽ~w」

「ぴゅっぴゅ~w」


「でもご主人サマ、そんなこと言ってこれで同じような事もう8ヶ所目だっぴゅw」

「そのまえふくめると15以上になるっぽw」


「は?うるさいわね!貯金よ貯金!」

「下手に持ち歩くより各地に貸しを作っといた方が捗るってもんでしょ!」


「ぴゅ~?w」

「ぽぉ~?w」


「なによ!何、嬉しそうにしてんのよ!貧乏がそんなに嬉しいのっ!?」


「何でもないぴゅw」

「何でもないっぽw」


「もう!」


 少女の頭の周りにうっすらとろうそくの火の様な炎と小さな旋風つむじかぜがクルクルと嬉しそうに飛び回っていた。


「とはいえ流石に今の危機的経済状況はまずいわね」

「精霊石も良いのがほとんど手に入らなくなってる…」

「ガリンに戻ったら今度こそ実入りのいい仕事掴んで、ついでに精霊石の情報も収集しなきゃね」


「ガリンではグソクがだいはっせいしてるって話だっぽ」

「グソクをたくさんやっつけてお金かせいだらどうかっぴゅ?」


「は?何言ってるの?あんな雑魚蟲!私の守備範囲じゃないわ!」

「昔、依頼されたけど!」

「あんなの駆け出しやら三下に任せとけばいいの!」

「適材適所ってもんがあるのよ!」

「だいたい討伐隊は編成されてるのにいつまでトロトロやってるのかしら?」


「それだけ数が多いってことだっぽ」

「ことだっぴゅ」


「ふん!知らないわ!そんな事!」

「最低限、私の通る道くらいは綺麗にしておいてもらいたいもんだわ!」


「う~んそれもむりかもっぽ」

「うんうんむりだっぴゅ」


「何ですって?どういう事よ?」


 少女が怪訝そうに尋ねた。


「もうガリンへいげんがのぞめる位置だっぴゅ」


「二人ともなんか感知してるのね?」

「ウィンディ!風連図フレンズ!」


「はいっピュ!」


 ウィンディと呼ばれた旋風は少女の前、数mの位置で2mほどの円を描きながら旋回し始めると、旋回内に円形だが波打った奇妙な形の半透明な魔法陣が展開された。


 さらに旋風は少女の顔の位置で、今度は50cm程の円を描き旋回すると、今度は真円形の透明な魔法陣が展開された。


 少女はその二つの連なった魔法陣を覗き込む形でガリン平原を見渡すと言った。


「なによこれ!」

「とんでもない数ね…」


 少女の覗いた魔法陣には、少女の居る地点よりずっと遥か彼方のガリン平原の様子が鮮明な画像となって映し出されていた。


 カメラの画像の美しさに徹底的にこだわりがあるイズサンと、カメラはズーム!光学何倍!しか興味がないちゅん助、もし両者が見ても度肝を抜かれる程の鮮明且つ超ズームの映像。


 現代の技術で例えるなら顕微鏡の世界を望遠レンズの距離で映し出す!そんな映像が少女の前で展開されていた。


「ということだっぽ」

「そういうことだっぴゅ」


「うわ~」


 ガリン平原を覆い尽くさんばかりの灰色に、少女が驚き、というよりは呆れたような声を上げたのだった。


「これは駄目ね…今日はここらで様子見!」

「と言いたいところだけど、ここまで来てさすがに野宿は避けたいわね」


「ボクがいればのじゅくでもあたたかい空気で!」

「ワタシがいればきれいな空気で!」


「つつんであげるっぽ!」

「みたしてあげるっぴゅ!」


「まあそれは感謝してるわ」


少女の言葉に炎と風が嬉しそうに少女の周りを飛び回った。


「でも次の依頼探しと精霊石の枯渇でそうそうゆっくりしてられないのよ」

「出来るだけグソクが薄いルートを通りたいものね…」

「どこかないかしら?まったく討伐隊の無能どもは何やってんだか…」

「そこらかしこで狩ってはくれてるみたいだけど…」

「どいつもこいつもろくな腕じゃないわね」

「ライジャー流すら使いこなせてない…」


 少女の視線に風連図フレンズがスイースイーとピタリと追従しガリン平原の各場所を映し出す。


「うっわ~オイオイオイ!死ぬわアイツ!」


 少女が再び呆れたような声を出した。


「頭になにのせてるっぽ?」

「ぬいぐるみっぴゅ?でもピコピコ動いてるっピュ!」


「ちょっと可愛いかもぴゅw」


「は?どこが!男の癖にあんなの持ち歩いて趣味悪いわね」

「まあ他の奴等に比べたら幾分綺麗な太刀筋ではあるけど…」

「それだけね」

「よく鍛錬はしてるみたいだけどつまんない戦い方、腕的にはどうってことないわね」

「気に喰わないのは、あの程度の腕前で単独であんなに集団から離れて完全に孤立」

「駆け出しや二流以下が良くやる凡ミスね」

「ちょっと腕が上がると万能感に支配されるのか知らないけど…」

「ああやって突出して」

「各個撃破!」

「お決まりのパターンね…」

「ソロ気取りなのか知らないけど、群れなす魔物の前では迂闊すぎるわ」

「たとえ相手がグソクであっても長生きできないタイプだわ」


「けいこくしてあげるっぴゅ?」


「は?なんで?」


「助けてあげないっぽ?」


「冗談でしょ!」

「警告するにもあんたの揺らぎで声を届けるには最低でも一発は精霊石消費しなきゃなんないでしょ!」

「無駄よ無駄!」

「狩りに出るんだったらあんなの自己責任よ!」

「まああの程度の腕でも、さっさと戻れば何とかなるでしょ」

「さっさと戻ればだけど…」

「さあ私達はルートを探すわよ」


 少女が風連図フレンズを別の位置に向けようとしたその時だった。


「なんかへんな色のがいるっぽ?」

「あおなんてめずしいっぴゅ!」


「青?なんの話よ?」


 少女が風連図フレンズを先程の青年の位置に戻すとその視界に見た事のない色のグソクが入ってきた。


「青!突然変異かしら?あんなの見たことない」


「はやいっピュ!」


「確かに…」


 少女が捉えた青グソク群の歩行、いや走行速度は灰色とは比べ物にならない速さだった。


 人の歩行速度より遥かに遅いグソクであったが、今捉えてる青は人が走るより明らかに速い。


「あんなに速く動けるグソクいるんだ…初めて見るわね」


 青年は青にてこずった様子であったが、攻勢に転じた隙を見事について撃退したようだった。


「まあ頑張るじゃない」


「追い払ったみたいだっぽ!」

「なんかまた違う色が居るっぴゅ?」


「またですって?」


 旋風つむじかぜ風連図フレンズを誘導した先には、黄色がかったグソクが蠢いていた。


「黄色?」

「それにしても殻が薄そうね」

「いかにも弱そうだわ、って言っても所詮グソクだし…」


 風連図の解像度は遥か遠方のグソクの姿をきっちりと捉え、殻の状態を手元の様な至近距離の肉眼で観察したかのような感覚で映し出していた。


 そして少女が持った感想の通りに、黄色は瞬く間に切り捨てられていた。


「調子に乗っちゃって…」


 黄グソクを倒した青年はさらに討伐隊から離れる方向へと狩り進み、平原の丘を回り込むような形で見晴らしの悪い場所に進もうとしていた。


 距離も視界も完全に孤立、分断された場所だ。


 いくら相手がグソクでも危険な行動に見えた。


「おかしくない!?」

「いや!おかしい!おかしいわ!」


「おかしいっポ!」

「おかしいっピュ!」


 青年の行動を呆れて見つめていた少女達は突然声を上げた!


「なんであんな…」


 青年が丘に回り込んだ時、平原のグソク達が一斉に呼吸を合わせるかのように、続々と動き出し青年達の退路を埋め尽くすような形で展開、密集を始めたのだった。


 次々と退路を塞ぐように集まっている。いつもは個々がそれぞれ考えなく無造作に歩き回ってるグソク達が突然意志を持ち始めたか?命令に従うかのように行動をそろえ始めたのだ。


「あんなの初めて見る…」


 少女は驚きの声を上げた。


「あいつらヤバイっぽ?」

「やばいっピュ!」


「助けてあげないっポ!?」

「あげないっピュ!?」


「相当…やばいわね…自己責任よ…可哀想だけど…」


 少女は迷いを含んだ口調で言った。


「こんどはあかだっピュ!」


「なんですって!?」


 風連図フレンズを向けた先には、青年が赤色のグソクを斬り飛ばした映像が飛び込んできた。


 見たこともない色のグソクが、よりにもよって三種類も!


 そして灰色グソク達の異常ともいえる集団行動の開始、尋常ではない危機が青年達の身に迫っていることは明らかだった。


 なのに青年は全くそれに気付いていない様子だった。


「あの間抜け!なにやってんのよ!まったくもう!」


 少女が苛立ち紛れに悪態をついた。それは今迫る危機に気付いていない事に加えて、青年の剣の腕か、切れ味が急激に下がった様に見えた事も原因だった。


 それは灰相手でも顕著になっていた。なのに青年はまだそれにすら気付かない様子だった。


「あの間抜け!…」

「!?」

「違う!ウィンディ!もっと大きく!アイツの剣を!」


「はいだっピュ!」


 旋風つむじかぜは波打った大きな対物レンズらしき魔法陣をさらに拡大させ大きく展開させる。青年の手元の拡大画像が映し出される。


「やっぱり!剣がおかしい!」


 青年の手にしている剣はもはや剣の輝きを放っておらず黒ずんだ棒きれの様に見えた。


「あの間抜け!」

「あんなになってるのにまだ気が付かないの!?これだから三流以下は!」

「ほら言わんこっちゃない!」


 映像は青年の剣が折れた事を伝えていた。


「た、たすけてあげないぴゅ?」

「たすけないぽ?」


 風と炎が不安そうに少女の顔の横で上下する。


「だから、それは…」


 伏目がちに少女は口籠った。


「あー!喰い付かれたっポー!」


「ええ!?」


 青年は懸命に折れた剣の代わりに短剣を振り回していたが遂にグソク達に接触を許し脚にダメージを追った様子だった。


 青年達の命はまさに風前の灯となった。


「ぴゅ~…」

「ぽぉ~…」


 風と炎が寂しそうな、それでいて悲しそうな呻き声を漏らした。


 第四話 

 その5 みんなが待ってた!(いや!作者が一番待ってた!) お待ちかねのメインヒロイン遂に登場!

 終わり

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