067 超巨大機獣

「……明らかにアタシ達を狙ってない? あれ」


 地中から現れた巨大な機械仕掛けのドラゴン。

 頭部に備えられた一対のカメラアイは間違いなくマグ達へと向けられており、標的が誰かはドリィの言う通り一目瞭然だ。

 その機械の竜。機竜とでも言うべき存在は視線を逸らさず、威嚇するように顎門を大きく開いて鋭利な牙を見せ――。


「KIIIIAAAAAAAAA!!」


 金属と金属を激しく擦り合わせたような甲高い咆哮を発した。

 と同時に、口の中から太いノズルのようなものが伸びるのが視界に映った。


「来ます!」


 そしてフィアがそう叫んで警戒を促した次の瞬間。

 露出したノズルから何らかの液体が超高速で射出され、かと思えば、それは一瞬にして激しく燃え上って真紅の火炎となって広範囲に放たれた。

 正に竜の息吹、ドラゴンブレスの如く。

 それはマグ達を飲み込み、一瞬にして大地を焼き尽くす。

 当然、フィアのシールドによって守られているので直撃こそしなかったが……。


「本命は、こっちか!」


 少しして【エクソスケルトン】が発し始めた警告にマグは忌々しく顔を歪めた。

 周辺の酸素濃度の急低下。温度の急上昇。

 基本的に、光の防御膜は一定量以下の光や空気は通すように設定されている。

 外界の確認は不可欠だし、通常は護衛対象が生身の存在だからだ。

 これはその弊害。仕様上の穴を的確に突いた攻撃と言えるだろう。

 もしマグが生身でいたら、既に命に関わる状況になっていたはずだ。

 消防隊の防火服としても使える【エクソスケルトン】が呼吸用超圧縮空気ボンベも内蔵しているからこそ耐えることができているが、それでも長時間は危うい。


「おとー様、おかー様! このまま地上に留まるのは危険です!」

「ええ。旦那様、プレートにしっかり掴まって下さい!」


 だからアテラの【フロートバルク】によって操作されて眼前に差し出されたタングステンプレートに、マグは即座に飛び乗った。

 それから【エクソスケルトン】オプションの安全帯を括りつける。

 そしてフィアとドリィも各々の形で己の体を固定した直後、アテラがプレートを急上昇させることによってマグ達は燃え盛る大地から逃れた。

 機竜は鎌首をもたげて空へと可燃性の液体を射出して炎を作り出すが、地上に比べて拡散が速く、火がシールドごと飲み込んでも中への影響は比較的軽微だ。


「更に高度を上げたいところだけど……」

「一定の高さを越えると街の防衛システムが作動すると聞いています」

「それに、炎が風に散らされて街の方に行くかもしれないです」


 空中とは言っても巨大な機械の竜の全高より少し高いという程度。

 余り仰角を上げさせるのは危険だ。

 どこに飛び火するか分からない。

 竜の後方では、機獣と戦う防衛部隊もいる。


「って、あれ? 対機獣用の防衛システムって一応地上にもあったんじゃ――」


 と、そこでドリィが疑問を口にした瞬間。

 機械仕掛けの竜は翼を展開し、空中へと浮かび上がり始めた。

 物理法則を破ったような挙動なのは、恐らく【フロートバルク】と同じように反重力のような理論を応用しているが故に違いない。

 翼の存在意義が一瞬分からなくなるが、羽の一枚一枚が効果の対象なのだろう。


「ちょ、ちょっと。え?」


 飛び上がった機竜は、そのまま軽々と城壁の高さを越えてマグ達を見下ろす。

 しかし、アテラが言った対空の防衛システムは作動しない。

 ドリィが戸惑いの声を上げる。


「残念デスが、現在この街の管理システムは私が掌握しているのデス。防衛システムが起動することはないのデスよ」


 すると、マグ達の疑問に答えるように、機械的な響きと特徴的なイントネーションを持った少女の声が全域に響き渡った。

 彼女こそがこの騒動の首謀者なのだろう。


「……いいわ。この位置なら地上に影響が出ないし、アタシの力で解体してあげる」


 対してドリィは、誰が元凶かなどどうでもいいとばかりにレーザービームライトの機構を駆動させて狙いをつけ始めた。

 全ての射出口を機竜の頭部へと向け、そして――。


「させないデスよ」


 光線が放たれるよりも早く、全身の鱗状の装甲が分離して射線上に躍り出た。

 鏡の如く磨き抜かれていた裏面を表に。

 構わずドリィが撃った無数のレーザーはそれを貫いていくが……。


「なっ!?」


 本体にまでは届かず、その途中で行く手を妨げた枚数の分だけ光線が反射した。

 その内の何本かがフィアのシールドを突き抜け、排斥の判断軸アクシス・消去の断片フラグメントの力を有する輝きがマグ達の傍を通り抜けていく。

 背筋が凍りつく。

 ドリィの光線とフィアのシールドとの同期が仇となった形だ。

 相手はどうやら仕様を熟知しているらしい。


「申し訳ないデスが、貴方達はここで釘づけにさせて貰うのデスよ」

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