041 フィア

「要人警護用人型汎用護衛ロボット……?」

「そうとは思えない外見ですね」

「恐らく、それが狙いなのだろう。如何にもなSPの抑止力もそれはそれで重要だが、強行した襲撃者が予期できない存在は護衛の成功率を高めてくれるからな」


 クリルの推測にマグは「成程」と頷いた。

 加えて、子供を護衛するための存在としても優れていそうだ。

 そう考えると、能力に問題なければ見た目の選択肢として理解できなくもない。


「それよりもマグ。初期設定をしてやれ。彼女が待ち構えているぞ」

「あ、はい」


 言われて幼い少女の形をしたガイノイドを振り返る。

 すると、彼女は静かにマグを見詰めていた。

 相変わらず感情が抜け落ちたような空っぽの表情だ。

 名前と性格タイプ、ユーザーとの関係性。

 これらを入力しなければ人格が形成されないのだろう。

 リアルな顔立ちでこの状態は何となく申し訳ないので、マグは設定を考えた。


「名前はフィア。フィア・エクス・マキナ。性格は……どうしようか、アテラ」


 あるいは仲間として背中を預けることになるかもしれない。

 そんな存在だけに、自分の一存だけで決めるのは如何なものかと問いかける。


「そうですね……」


 対して彼女は視線を下げ、少し考える素振りを見せてから顔を上げた。


「まず、関係性を決定してから考えてみてもいいのではないでしょうか」


 そして何か意図を含ませるような口調でそう提案するアテラ。

 彼女の内心はともあれ、確かに順序としてはそちらの方がよさそうだ。


「関係性、か。そうだな」

「……それで、その、旦那様」


 アテラに同意して頷いたマグに、彼女は再び淡いピンク色にディスプレイを点灯させて赤文字で【(ノ∀\*)】と表示させながら続ける。


「私、旦那様との子供が欲しいです」


 殺し文句だ。

 そんなことをクリルが傍にいる場面で言うものだから、マグは顔が熱くなった。

 恥ずかしげに上目遣いの角度を作るアテラに、心臓の鼓動が早くなってしまう。

 ……しかし、落ち着いて考えると。

 他の関係性では共に活動する上で余計な軋轢を生むかもしれない。

 マグとアテラの間にあってかすがいとして強く作用するのは、それ以外ないだろう。

 クリルの手前、羞恥が残るが、マグは納得と共に頷いて口を開いた。


「……アテラはどんな子になって欲しい?」

「そうですね。旦那様を尊敬し、優しく愛嬌のある子供であれば理想的ではありますが、押しつけるようなことは――」

『個体名フィア・エクス・マキナ。通称フィア』


 アテラが答える途中、それまで黙っていた少女が突然システム音声を発し始める。

 どうやら二人の会話を受け、初期設定を完了させてしまったようだ。


『性格タイプ、関係性。設定完了しました。DFSV-7G-12F起動します』


 機械的な声色の言葉と共に、開かれたままの目の奥で光が激しく明滅する。


『現在、ネットワークに接続されていません。護衛を行うに当たって必要となる知識、情報は別途ダウンロードして下さい』


 そこまで言うと、幼い少女の顔が外見相応の表情へと柔らかく変化していく。

 子供っぽく頬をほんのり紅潮させ、マグとアテラに親愛を宿した視線を向ける。

 人形の無機質な気配は完全になくなり、愛らしい女の子そのものだ。


「ええと、フィア?」

「はい! フィア・エクス・マキナ。おとー様とおかー様を守ります!」


 そして彼女は、そう元気いっぱいに宣言したのだった。

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