028 大前提のお話

 街の管理者が機人だった。

 予想外の事実に驚き、呆然としていたマグは状況を思い出して慌てて頭を下げた。

 続けて、アテラもまたディスプレイを黄色くしながらもマグに倣う。


「よ、よろしくお願いします。俺はマグ・アド・マキナです」

「……アテラ・エクス・マキナです」

「うん。知っているよ」


 対して、メタと名乗った少女の形をした存在は完璧な笑顔を見せて応じた。

 肌が露出した部分は品質のいい人工皮膚で覆われ、人間と遜色ない。

 近代創作の戦乙女のようなドレスアーマーを身に纏い、滑らかで艶やかな長い髪を背中に流す姿は、遠目にはコスプレした人間と見間違えてしまうことだろう。

 だが、近くで見ると、精緻にデザインされたかの如く整い過ぎていて引っかかる。

 生物的な柔らかさは感じるのに、まるで人工物のようだった。

 ……もっとも、それがガイノイドだと判断できた理由ではない。

 彼女の首の後ろ。うなじの部分に二の腕程もあるケーブルが繋がっていたからだ。

 しかも、何か情報を処理しているのか瞳の奥で淡い光が明滅している。


「折角、私の街に来てくれたというのに、早々に面倒に巻き込まれたようだね」

「……ええ」


 諸々情報を処理し切れず若干返答に困りながらも、マグは正直に首を縦に振った。

 対してメタは一つ頷いてから、申し訳なさそうに首を垂れて口を開く。


「すまなかった。元はと言えば、私がEX級アーティファクトを求めていたせいだ」

「それは……」

「その通りですね」


 どう反応すべきかマグが迷う間に、アテラが険しい声で率直に肯定の意を示した。

 あるいは、同じガイノイドとして最上級グレードにしか見えないメタに対抗心でも抱いているのかもしれない。


「うん。けれど、ヒンドランについては既に捕らえたから安心して欲しい。あのようなやり方は私の意図するところではないからね」


 アテラの反応を特に気にした様子もなく、メタは話を続ける。

 いずれにしても、再び襲撃を受ける心配はなくなったようだ。

 マグは少し安心した。


「では、貴方の意図というのは?」


 それでもアテラは、ディスプレイの色を黄色から赤寄りに変えながら問う。

 最初の簡易適性試験もそうだが、街の管理者の意向でマグの身に危険が及んだ。

 それに対し、腹を据えかねている部分も多分にありそうだ。

 たとえ不可抗力な要素が含まれていようとも。


「それと、私と旦那様を呼び出した理由と用件をお聞かせ願います」


 続けて、淡々と要求を加えるアテラ。

 さっさと話を進めて終わらせようとしているようだ。


「その二つは関連した話なんだけれど、先に説明しないといけないことがある」


 対してメタはそう前置きしてから、本来機人には不必要であろう咳払いをした。

 それから彼女は、端正な顔をこれ以上なく引き締めて為政者の表情になり――。


「今現在、この星、いや、この宇宙は危機に瀕していてね。遠からず、滅びてしまうかもしれない。私はそれをどうにかして防ぎたいんだ」


 真剣極まりない口調でそう告げたのだった。

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