021 テスト

「旦那様。どうなさいますか?」

「……まあ、とりあえずテストを受けてから結論を出そう。ちゃんと危険性を提示してくれるだけ、まだ誠実と言えるだろうしな」


 マグは己が務めていた職場を思い出しながらアテラの問いかけに答えた。

 世の中には、実態と乖離した内容しか面接で教えてくれない会社もある。

 それらに比べれば印象は遥かにいい。

 勿論、クリルが嘘を言っている可能性もあるにはある。

 だが、先程の応対はどちらかと言うと研究者や職人のそれだ。

 上辺を取り繕って利用してやろうという経営者とは、まるで雰囲気が違う。

 長年いいように使われてきた者だからこそ、その程度の見る目はある。

 だから――。


「……行こう」

「はい。旦那様」


 マグはアテラと共に、店の奥へ消えたクリルを追いかけた。

 そうしてカウンター奥から入ったバックヤードの部屋。

 当然と言うべきか、品物が見栄えよく陳列された店舗よりは雑多な印象を受ける。

 如何にも作業部屋という雰囲気だ。


「うむ。では、始めようか」


 ついてきたマグ達に頷いたクリルは、視線で作業台の前の椅子を示す。

 ここに座れということだろう。

 マグは促されるまま、椅子を引いて腰かけた。


「求人の詳細にも記載していたが、我にも修復不可能な先史兵装PTアーマメントの修復が合格の条件となる。余り期待していないが、試してくれ」


 そう告げると作業台の上によく分からない物体を置くクリル。

 それは幾何学的な立体をいくつも重ねたような不可思議な形状をしていた。

 しかし、表面に亀裂が入っていたり、ところどころに不自然な欠けがある。

 明らかに不完全な状態だと分かる。

 もっとも、たとえ形が完全だったとしても用途は分かりそうにないが。

 正に未来的な謎装置としか言いようがない。


「まあ、既に壊れているものだ。多少雑に扱っても構わんからな」

「はい。やってみます」


 何はともあれ、マグはそれを手に取ってみた。

 過去二回、超越現象PBPを発動した時の感覚を思い出しながら。


「修復には対象の機能の把握が不可欠だ。基本は他の出土品PTデバイスからの類推や文献を調査して手がかりを得る。故に情報が全くない出土品PTデバイスの修復は不可能――」


 マグが精神を集中している間に修復能力について軽く解説をするクリル。

 余り期待していないどころか、全く期待していないことが分かる。

 しかし、そのさ中。

 以前と同じようにマグの体を何らかのエネルギーが通り抜けていった。


「なっ!?」


 直後、クリルが驚愕の声を上げると共に大きく目を見開く。

 彼女の視線の先、マグの手元の装置は見る見る内に見栄えがよくなっていき……。

 少なくとも外見的には、まるで新品のように形が整ったのだった。

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