第16話 この子の名前

「さて……じゃあ、あなたの私生活を見せて貰おうかしら!」

「私が人形だった時は、この狭い部屋の空間しか見られて無かったから…」


 その子はそう言って、俺の家の中を見始めようとするが……


「ねぇ、君は名前を知らないのだよね?」


「……そうだけど…」


 その子立ち止まって、振り返り答える。


「何時までも『君』とかで呼び続ける訳には行けないし、君の呼び名を決めない?」


「あなたがそうしたければ、そうしなさい…」


 その子は興味が無さそうに答えた。


「君は『君』と呼ばれて嫌じゃないの?」


「えぇ、気にしてないわ!」

「私はあくまで仮の姿だし、本来の姿に戻れば、名前はきちんと有るはずだから!」


 冷静な口調でその子は言う。

 何と言うか肝の据わっている子だ。


「でも……それだと、俺が呼びにくいから俺が名前を決めても良い?」


「ええ、だから早く決めなさいよ!」

「私は、あなたの生活環境が見たいのだから!」


 かすようにその子は言う。

 急かされても良い名前なんて急には出てこない……

 しかし、顔立ちは良いのに、強気な性格の子……。何となく思った名前を口に出してみる。


咲紀さきって名前はどう?」


「さき…?」

「何でその名前が良いの?」


 無表情でその子は聞いてくる。


「有る漫画のキャラクターにそっくりなんだ!」

「その子、意外に恥ずかしがり屋さんなんだけどね!」


「却下!」


 その子に力強く言われて、認められなかった……。良い名前なのに。

 次の案を脳内で探し出す。


「じゃあ……美空なんかどう?」

「美しい空と書いて美空みく!」


「みく?」

「美空なら、まぁ良いわ…」


「じゃあ、今から美空と呼ぶね!」


「はい。はい」

「じゃあ、あなたの私生活を見せて貰うわ」


 美空はそう言いながら台所に向かう。


「……ずいぶん、ごみをため込んでいるわね」


 台所の壁際に寄せているごみ袋に、美空は視線を向けている。

 可燃ごみ・プラスチックごみ・不燃ごみ袋が横並びに並べて有る。

 量の出やすい可燃ごみ・プラスチックごみは、ごみ集積所見たいな感じにも成っている。


「中々、朝の時間にごみ出しが出来なくてね///」

「仕事に行っていた時は、きちんと出せていたのだけど…」


「朝出せないのなら、前日の夜に出せば良いじゃない!」


「俺の住んでいる町会は夜出し禁止なんだ」

「ごみ集積所には防犯カメラも設置されていて、一応監視もされている感じ…」


「なら、今からごみの日は、きちん起きてごみを出して貰うから!」

「私はその辺は一切手伝わないわよ!」

「私が手伝ったら、あなたは絶対に私を頼り出すから!!」


 相変わらず力強い口調で言う。こんなに気を張って疲れないのだろうか?


「さて?」

「冷蔵庫の中身はどんな風?」


 美空は冷蔵庫を開く。


「これは、また……綺麗な冷蔵庫だね」

「食べる物が殆ど入ってない」

「だから、普段の食生活は加工食品ばかりなのね」


 呆れ顔で、そう指摘されてしまう。

 1人暮らしを始めた当初は、下手くそながらも自炊をしていたが、残業や時間が無いのを理由にいつの間にか、コンビニ弁当やスーパーの惣菜ばかりに成っていた。

 炊飯器も一応は有るが、パック入りご飯の方が便利のため、炊飯器には埃が被っていた。


「やれやれ」

「これは却って、面倒くさい案件を引き受けてしまったわ…」


 美空はそう言い、深々とため息をつく。


「料理も今日からは自炊して貰うから」

「その方が食費も抑えられるはずだし、それを投稿すれば新たな人脈も築けるわ!」


「後は……お風呂とトイレの清掃状態の確認ね」


 美空は台所から風呂場の方へ移動をする。俺はそれに付いて行く。

 こうして、俺の生活状況を美空に調べられていた。

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